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タイトルでは伝わらない『音読教室』の凄さ

音読教室という本を購入してからもう直ぐ3ヶ月が経つ。

しかし、実はまだ3分の1しか読み終えることができていない。
たったの160ページしかないというのにだ。

流石に読むのが遅すぎやしないかという話だが、遅いのには一応訳がある。
『ごんぎつね』の朗読に時間がかかったのだ。

この本では、『ごんぎつね』と『蜘蛛の糸』と『雨ニモマケズ』の3作品を例に挙げ、筆者である堀井さんが具体的にどんな風に読んでいるのかを解説している。

どうせなら、私も試しに堀井さんの読み方で一度読んでみようと思い立ち、『ごんぎつね』の朗読に着手したのだけど、試行錯誤しているうちに、気づけば2ヶ月という時間が過ぎてしまったのだ。

その『ごんぎつね』の朗読はnote上で既に公開してある。本を読んだところで、堀井さんの読み方を表現するには実力不足。なかなか厳しいものがあったけれど、朗読自体はいつもと違う緊張感があって楽しかった。

まだ『ごんぎつね』の章だけしか読んでいないが、一旦ここまでの感想と、堀井さんの読み方で『ごんぎつね』を朗読してみて思ったことなどを記録しておこうと思う。

私は趣味で朗読をしたり、自宅で録音するナレーションの仕事を受けたりすることもあるので着目するポイントが偏ってしまっているが、小学生にもわかりやすく、日常会話にも役立つような汎用性の高い本だと思うので、少しでも興味のある方は是非サンプル部分に目を通してみてほしい。


この本を読みはじめて最初に驚いたのが、ナレーションに関する話だった。

僭越ながら、私も宅録のナレーションの仕事をお受けしているのだけど、いただいた原稿は先に目を通してから収録に入っている。一方堀井さんは、ナレーションは初見で読むようにしているのだそうだ。

堀井さん曰く、初見で読む方が、言葉に対する新鮮な感覚のまま、自分の主観や解釈がまだ生み出されていないくらいの状態で読むことができるから、映像とのコンビネーションとしてもちょうどよくなるのだそうだ。他のナレーターさんも、初見で読まれる方が多いのだと言う。

もちろん、そんなことができるのは豊富な経験と高い技術があるからこそであって、実力も経験も足りない私には真似しようにもできないことだけど、かなり意外だった。本物のプロフェッショナルの凄さを知った。

しかし、朗読はこれとは逆で、そらで言えるほど何度も何度も口にして作り上げていくとも書いてあった。これに関しては、私が高校放送部時代に教わったことと同じだ。

高い技術と豊富な経験を持つ堀井さんと言えど、朗読に対する姿勢は変わらないのだなと、身が引き締まる思いがした。


そこから先は具体的な作品を例に、堀井さんが具体的にどのように解釈をして、それをどんな風に表現されているのかが紹介されている。まだ『ごんぎつね』の部分しか目を通していないが、ここがものすごく勉強になる。

小学校の頃に先生に言われるような、「情景を思い浮かべながら読みましょう!」といったざっくりとした指示ではなく、「こんな風に読むとこういった雰囲気が出るので、場面の情景がイメージしやすくなりますよ」というように、具体的に指示してくれている。そして、その具体性がすごいのだ。

例えば、一文の中で強調したいところは半音上げる(楽譜で言うと♯をつけるイメージ)とか、伝聞の話だということを表現するために、ここの「という」は「と」のあとに小さい「お」をつけるイメージ(「とォいう」)で読むとか、それくらい細かく表現の仕方について書かれているのだ。

他にも、文章のスピード感に合わせて読む(「あわてて」「じっくり」など)のが基本だけど、大事なシーンや伏線になっていて後々大事になってくるシーンなどは含みを持たせてゆっくり読むというのもなるほどと思った。

物語を自分なりに解釈してそれを聞き手に伝えようとしても、実際にどうやったら自分の伝えたいように伝わるのかの部分って、意外にもなかなか教えてもらえない。その辺は、客観性をもって伝えるのが難しいのだ。

だからこそ、単なる感覚論ではなく、読む人みんなが再現しやすい説明の仕方で、具体的な方法までを提示してくれていることに感動した。



そしてもう一つ、堀井さんの『ごんきつね』の各場面についての解釈はかなり勉強になった。

特に「おれと同じ、ひとりぼっちの兵十か。」の部分の解釈が面白かった。堀井さんは「おれと同じ」に着目していて、憐れみと言うよりも、兵十に親近感を抱いている描写だと考察していた。

私はこの部分は、自分のせいでひとりぼっちになってしまった兵十に申し訳なさを感じているシーンだと解釈していたけれど、言われてみれば親近感を抱いているという解釈の方がしっくりくるなと思った。確かに、ごんは自分がひとりぼっちなことをそこまで気に病んではいなさそうな感じがする。

ごんが、自分がひとりぼっちであることに対して強いコンプレックスを抱いていたら申し訳なさとか憐れみが強くなるかもしれないけど、この場合は自分と同じ境遇になった兵十に親近感を抱いたと言う方が納得感がある。

なので私は、この箇所を読むときに、少しの申し訳なさを抱きつつ、兵十に親近感を抱いてちょっとだけ嬉しさの混じった感じで読んでみた。
実力不足のため、そう聞こえるかはまた別として……。

自分なりに解釈することは当然のこととして、他人の解釈を知るというのはやはり貴重な経験だ。こんな風にも読めるんだなと知ることで、自分の読みにも深みが増すし、たとえ自分と180度違う解釈だとしてもそれはそれで面白い。


『ごんぎつね』の章まで読んでいて感じたのは、自分一人で試行錯誤していったらかなり時間がかかりそうなものを、ある程度のところまで道筋を示してくれることのありがたさだ。

料理でもなんでもそうだけど、一から自分で味付けを試行錯誤していったらキリがなさすぎる。それに、レシピが存在するからこそ、基礎を固めつつ、そこからオリジナリティを出していけるのだ。

この本に二つ名をつけるなら、「音読のレシピ本」になるかもしれない。料理で言う材料や味付け、火加減などのように、書かれている通りにできれば一つの伝わる音読が出来上がるように書かれているし。

料理のようにフォーマットがないから難しいのかもしれないけれど、堀井さんだけじゃなくて、いろんな人が「音読のレシピ本」を出してくれたらいいのにと思った。


次は『蜘蛛の糸』の章だ。このペースで行くとこの本を読み終えるのにあと4ヶ月くらいかかってしまうから、少しペースを早めていきたい。

朗読っておもしれ〜!

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