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「LivingAnywhere✕日本の地方で学び暮らす高校生活の可能性」開催レポート

場所やライフライン、仕事など、あらゆる制約にしばられることなく、好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方 ”LivingAnywhere”という考え方をもとに様々な日本の地域とプロジェクトを進め、不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」を運営している(株)LIFULL 井上社長と、地域みらい留学の源流となった島根県で地域×教育の実践に取り組み、地方で学び暮らす高校生の生活を日々目の当たりにしている2人のコーディネーターと一緒に「日本の地方で学び暮らす高校生活の可能性」を探ります。

■ ゲストスピーカー
【1】井上 高志 (いのうえ・たかし)
株式会社LIFULL 代表取締役社長
1997年株式会社ネクスト(現LIFULL)を設立。インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指して、不動産・住宅情報サイト「HOME'S(現:LIFULL HOME'S)」を立ち上げ、日本最大級のサイトに育て上げる。現在は、国内外併せて約20社のグループ会社、世界63ヶ国にサービス展開している。究極の目標は「世界平和」で、個人としてベナン共和国の産業支援プロジェクトを展開する他、一般財団法人Next Wisdom Foundation 代表理事、一般財団法人Peace Day 代表理事、一般社団法人新経済連盟 理事、一般社団法人21世紀学び研究所 理事、公益財団法人 Well-being for Planet Earth 評議員等を務める。

【2】鈴木 隆太(すずき・りゅうた)
雲南市 教育魅力化コーディネーター(認定NPOカタリバ)
東京都出身。学生時代に認定特定非営利活動法人カタリバにてインターンとして活動。カタリバの東北拠点である「女川向学館」の立ち上げに従事。大学卒業後は、株式会社LIFULLにて不動産情報サイト「LIFULL HOME’S」の営業職に従事。2015年2月に「教育を通じて地域づくりの仕事をしたい」という想いから、認定NPO法人カタリバへ転職し、島根県の雲南市での事業の立ち上げに従事。 2017年4月より雲南市の「教育魅力化コーディネーター」として、魅力化事業のプロジェクトマネジメント、学校教育と社会教育を接続する新規グローバルプログラム開発など幅広く業務を推進する。

【3】中村 純二(なかむら・じゅんじ)
津和野町 教育魅力化統括コーディネーター(一般社団法人ツワモノ)
石川県出身。小学校、中学校教諭を経て、アフリカのマダガスカルにて教員養成PJに参加。2013年より、統廃合の危機にあった津和野町の高校魅力化コーディネーターとして着任。町営英語塾”HAN-KOH”の開設や地域系の部活動”グローカルラボ”を創設、職員室の魅力化”センセイオフィス ”などの取り組みを実施し、全国から生徒が集まる高校に。現在は一般社団法人ツワモノを設立、津和野町全体の教育コーディネート業務を担い、高校だけでなく「0歳児からのひとづくり」事業を展開し、幼児期から大人までつながりがある学びの環境をデザインする。

■ モデレーター
今村 久美(いまむら・くみ) 
一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム 共同代表/認定NPO法人 カタリバ代表理事
慶應義塾大学卒。大学卒業と同時の2001年にNPOカタリバを設立し、10代のための対話型キャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。現在約100名の職員と共に、全国7拠点にて、被災した子どもたちに学びの場と居場所を提供する「コラボ・スクール」や、経済的困難を抱える生徒を対象にした学びの居場所事業の開発、誰でもこられる放課後の秘密基地など、『ナナメの関係』と『本音の対話』を軸にした、思春期世代の創造性を引き出す取り組みを継続して行っている。公益財団法人ハタチ基金 代表理事。文部科学省中央教育審議会 教育課程企画特別部会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会文化・教育委員会委員。教育再生実行会議専門調査会委員。


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今村:こんにちは。「日本の都市部に生きる若者たちが地方へ行く」という選択肢を日本の中で流行らせようと志して、数年前につくった団体、地域・教育魅力化プラットフォームの共同代表をしております、今村と申します。また、団体を立ち上げるずっと前に「教育活動に学校の先生や親御さん以外の方も巻き込んでいく世の中にしたい」という思いをもって、NPOカタリバを立ち上げ、活動してきました。今日は司会を担当させていただきます。よろしくお願い致します。

中村:島根県の最西部にある津和野町でコーディネーターをしています。縁もゆかりもなかった島根県に来て、8年が経ちます。今日は津和野での活動についてご紹介できたらと思います。

鈴木:今日ご一緒させていただく井上さんの会社で新卒で働かせていただき、今は本日モデレーターをされている久美さんの会社で働いています。雲南市で学校の先生ではない立場で、学校や行政に関わる活動を6人のチームメンバーと行っています。今日は、雲南市でどういう活動をしているのか、どんな学びをしているのか、お話できればと思っています。

井上:LIFULLという会社の社長です。教育は門外漢で、起業家で社長で経済人です。世界63カ国でサービスを提供しています。また、LIFULLは地方創生の取り組みを行っており、いろいろな町、村、市と提携して色々な活動をしています。

今村:地域みらい留学を仕掛け始めてまだ数年。具体的には、都心部の生徒と県外にある地域の高校を結ぶ活動をしています。「地域で高校生活を送る」という選択は、教育だけに限らず “どんな場所で生きるか” “そこに送り出す親御さんの安心”など、いろいろなことに紐付いています。「地域みらい留学」について考える時、ついつい教育だけに注目して語りがちですが、今日は 「”地域みらい留学”という選択肢と”LivingAnywhere”の掛け合わせ作戦会議」を通じて、その2つがどんな融合を見せるのか、という議論をしていきたいと思います。


LIFULLについて

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井上:26歳で創業、手元のお金5万円とパソコン1台で始まった会社です。現在は60カ国以上でサービス展開しており、地方創生の活動も行っています。

 創業して初めて社長、「長」とつく肩書きをもちました。それまでは、学級委員長、生徒会長、班長もしたことありませんでした。だから「いつからでもチャレンジはできる」ということは、中学生・高校生の皆さんに伝えたいです。


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井上:事業のメインは「LIFULL HOME'S」という不動産のポータルサイトの運営です。日本国内では最大級のものです。海外63カ国で展開しているのも、同じく不動産情報サービスです。それ以外に、地方創生、介護など色々な社会問題を解決するということを事業として行っています。


LivingAnywhere

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井上:”LivingAnywhere” は書いて文字の如く、「どこででも生活、生きていくことができる」という意味です。人が場所にとらわれず、自分らしくもっと自由に生きていけるように、ということを目指しています。


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井上:人間は場所の制約に囚われていると思います。住宅は不動産というくらいなので動かない。その中にある、水、食料、電気、通信...etc. 全て場所に縛られています。同じように、今までは医療、教育、働くということも場所に縛られていました。でもこれからはオンラインの医療、教育、働くということが当たり前にできる時代。場所から開放される時代。これを、個人、企業、行政と一緒につくっています。


LivingAnywhereで重要なキーはは2点。

① テクノロジーを使ってもっと使いやすくする
② コストを下げる

 地方創生、都市のスラム化、途上国の支援をするテクノロジーや、災害時の迅速な復旧を可能にするテクノロジーを使うことで、将来生活費を1/5、1/10まで減らすことができると信じて進めている事業です。


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井上:拠点がすでに各地にあり、今年中に10拠点くらいになる予定です。東京や都心から人が行くだけでなく、地元の人としっかり関係性をもって、地域課題を解決する活動をしています。劇的なのは、月額2万5千円で、水道、光熱費、通信費込みで宿泊ができて、その場所で働けるということ。年間30万円と食費だけあれば生きていけるんです。

 日本全国には使われていない遊休施設、遊休不動産がいっぱいがあります。廃校だけで5000校あり、廃校の数は年間500校ずつ増えています。そういった使われていない施設をうまく再生して拠点にしているので、すごく安く済むんです。


LIFULL 地域課題解決の取り組み

井上:LIFULLは、フリーランスや地域の事業者の方と地域の課題解決にも取り組んでいます。

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 例えば、わざわざ外国から仕入れた木材を使わなくても、裏山にある木材を使って自動で設計して、自動で好きなものを組み立てられる技術。


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 上水道、下水道がなくても、タンクに水を100L入れたら100回分、1ヶ月以上繰り返し使えるシャワーもあります。自然にも優しいどこででも使えるシャワーで、サハラ砂漠のど真ん中でも生活できるということをイメージして作られたものです。


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 インスタントハウスは、1日でつくれて、夏は涼しく、冬は温かい。こういったのもテクノロジーです。


LivingAnywhere WORK

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井上:コロナがきて働き方が劇的に変わっていることもあり、LivingAnywhere WORKという構想に、多くの会社が賛同してくれました。これからは、場所に縛られて働くスタイルではないということをどんどん進めていこうと思っています。また今後は、

Education(教育):オンラインでどこにいても教育を受けられるような世の中に
Energy(エネルギー):化石燃料の石油や石炭に頼るのではなくて、太陽、風力、水力を使って、どこででもエネルギーを発生できるように
Medical(医療):オンラインで医療を受けられるように  ...etc.

 テクノロジーを次々に取り入れていくことで、人々が選択の自由を得る、どこでも自分の好きな場所に移住することができる、しかも、1箇所に囚われるのではなく、次々に好きな場所に移住することができるということを実現したいと思っています。

 僕がやりたいのは、桜の開花前線を追いながら日本を北上して住むところを変えながら生活すること。もちろん、全国どこからでも仕事ができる環境も整えた状態でです。そんなことも簡単にできる世の中をつくりたいと思って仕事をしています。


使い方の発明、その延長線上にあるLivingAnywhere

今村:LivingAnywhereで、いろんなところに行こう!というノリが流行ったら、不動産情報を集めたプラットフォームを構築して事業展開をしていくビジネスモデルとは違う方向性に社会を引っ張っていくように見えたのですが?

井上:そこは、イノベーションのジレンマに陥らないようにバランスをとりながらやっています。LIFULLという社名には「あらゆるLIFEをFULLにする」という意味が込められています。たくさんの人、日本に限らず、世界中の人々が満足で満たされる生活とか人生ってどういうことだろう?というゴールを設定して、そこから逆算して必要な事業をしています。今のビジネスモデルを永続するのが大事なテーマではなくて、どうしたら人って満足できる暮らし方、生き方ができるんだろう?というのを追求している会社です。今までやってきた事業も「自分が住みたいところを簡単に便利にすぐに探せる」という面では意味がありましたが、 だんだん時代が変わっているので、必然的に変化する必要があると思っています。

 例えば、空き家問題。地方だと少子高齢化で空き家が増えており、誰も手つかずの空き家が300万〜500万件もあると言われています。市場にも出回っていない、ただただそこにある空き家をどうするのか?市場に出回っている情報だけ扱っていてもいいのか?

 使われていない遊休不動産も放っておくと、だんだん崩れていったり、問題になるから有効活用すべきです。でも、人口をいきなり増やすのは無理だから、「活用・利用する方法を考えよう」。それが、地方創生です。例えば、空き家を民泊として宿泊施設に使えるようにしよう、絵が好きな人たちが集まるアトリエにしようといったように、有効活用する。九十九里浜の使われていない古民家をサーファーズハウスに変えたら、ものすごい活気を帯びました。

使い方を発明していく、その延長線上がLivingAnywhere。これは、足元の地方創生ではなくて、2歩3歩先の未来を作ろうとしているプロジェクトです。なので、既存事業とバッティングするのは大丈夫ですか?というのは、上手に滑らかに変化をつくっていく感じですね。

今村:東日本大震災で、空き家が誰のものか分からない、土地の権利が分散していて誰の所有物か分からないといったことが、復興が進まなかった原因という話があります。ビジネスをしながらソーシャルな課題を解決されているのは、本当にすごいと思います。

井上:仏壇問題、神棚問題はあるある。先祖代々、5代10代引き継いだ土地を売るとなると近所の人から白い目で見られるというのもよくある話です。なら、所有権を手放さなくても、「利用していいよ」と開放すればいい。所有権移転の必要はありません。「いかに利用するか?」他の人たちが入る宿泊施設にしたり、みんなで集まるキッチンのようなコミュニティを作ったりとやり方は色々考えられます。    

 また、成功事例は日本全国にいっぱいあるけど、点になっている状態なので、 よく分からない。これを線でつないで面にしよう、成功事例ナレッジシェアをするということもしています。


教育のオンライン化

今村:教育をオンラインで受けられるという提案をされていましたが、具体的にはどういったことを考えていますか?

井上:知識やスキルを学ぶというのはオンラインでできます。でも、それだけではなくて、情操教育、道徳教育、集団で行動するというのも必要な教育です。それはリアルでやったほうが良いと思います。でも、それが1つの学校でないといけないのか?というのがポイント。全国移動しながら、その時その時に合わせてその学校にジョインすればいい。知識教育はオンラインでしながら、 集合教育に関しては石川県、次は北海道でという風に。

 実はこれってすでに出来るんです。同じ場所に留まらずに色々な学校に通いながら学んでも、義務教育を受けたという資格になるんです。それが出来るということが世の中ではあまり知られていないだけで、通信のテクノロジーと組み合わせて、移動をしながら学校教育を受けるということはすでに出来るんです。だから、そこを上手く組み合わせればいいんじゃないかと思います。

今村:学習ログを持ち歩くということができれば、どこまで学んでいるというのを教育する側が見ることができる。教育の個別最適化が進めば、まだ制度と仕組みと現状が一致してないけど、目指したい姿としては面白そうですね。

井上:良い変化として、コロナの影響で医療と教育のオンライン化の風穴がものすごく開いています。例えば、ギガスクール構想は5年かけて全国の公立の小学校、中学校、高校生にパソコン1台ずつ提供しましょうというプロジェクトでしたが、コロナ禍で5年もかけていられないので、思い切り前倒しされました。なので、1人1台環境はまもなく完成すると思いますが、そこにどういうコンテンツ、プログラムを入れるか、先生がどうサポートするのか、という設計が今急ピッチに進められています。


カタリバについて

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鈴木:「どんな環境に生まれ育っても、未来をつくりだす力を育める社会」を目指して、”意欲と創造性をすべての10代へ届ける” をミッションに、140人くらいの仲間と一緒に全国で活動しています。

「教育」をテーマに、行政や学校の立場を飛び越えて、教育と社会をつなぐプログラムをつくる活動をしています。雲南市では、探究学習のプログラムを学校の先生方とつくったり、行政の方と教育の政策をつくったりしています。


雲南市について

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鈴木:町の総合戦略として、「地域の課題を解決していく人材を育む」を掲げています。教育委員会の方々と一緒に、”18歳までの高校世代を中心にしながら、地域の将来を担っていく人材をどうしたら作れるか?” を考え、プロジェクトを生み出すことを仕事にしています。


地域で学ぶ高校生のリアル

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鈴木:2年前に雲南市と一緒に「雲南スペシャルチャレンジ」という制度をつくりました。ふるさと納税や寄付を募って、意思ある若者や、各世代でやりたいことを持っている人をサポートをする仕組みをつくりました。


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例1)雲南市の中で、”どうやったら人々が手を取り合って生活することができるか?” を考え、多文化共生をテーマにで雲南市の中で活動を展開。雲南スペシャルチャレンジで海外へ。海外の事例を学んで、自分の町のイベントやプロジェクトにどう活かすか?を考えた。雲南市にいながらも、海外からいろいろなものを取り入れながら、行政の市役所の人と一緒にプロジェクトを進めた。高校卒業後の進路は、「地域をもっと知らないといけない」という思いから、高校生の時に始めた地域でのプロジェクトをもって高知大学へ進学。日本の地域の課題は何か?を学んでいる。


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例2)地域の伝統文化である神楽。”もっと高校生が積極的に関わり、活動することで、新しい神楽の在り方をつくることができるのではないか?” という問いからプロジェクトを開始。高校生の神楽チームをつくって地域で活動をしている。

鈴木:地域の高校生が立ち上がらると、いろいろな方が応援してくれたり、地域の大人たちがどんどん巻き込まれていきます。高校生が、自ら学び、地域、社会にインパクトがある取り組みを行う事例が、雲南市の中で起きつつあります。現在、全部で20プロジェクトがが進行中です。


EducationAnywhere

鈴木:EducationAnywhere。教育をどこでも受けられる、学ぶ人が自ら選択して「ここで学びたい!」と決めることが、日本の当たり前になるような取り組みをしていきたいと思って仕事をしています。


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鈴木: 写真左は地域みらい留学、右側はカタリバオンライン、下はLivingAnywhere Commonsの写真です。誰もが教育の当事者として町に関わる。地域の子たちが、都心、海外に出て、自分の町をどうするか?を考える。都会の子たちが、日本の地域に行って学ぶ留学制度をサポートする。また、ワーケーションで地域に来ている大人たちが、仕事のうちの数時間を子どもたちのために使う、など色々な形でこれから教育をつくっていきたいと思っています。

井上:LivingAnywhere Commonsの写真に出ていたのが、地元の中学生、高校生なんです。高校生に”自分が住む町をどんな町にしたいか?”を考えて未来を描いてもらい、それを見て社会人がフィードバック、アドバイスをして、一緒にプランを打ち出すという内容の企画でした。写真の中の模造紙には、高校生と社会人が一緒になってつくったプランが描かれています。

井上:スペシャルチャレンジのような取り組みは、雲南に限らずいろいろな地域で行なっているみたいですね。そういった活動を、地域でバラバラでやるよりは、プラットフォームをつくっちゃったら良さそうですね。

 どこでどんな活動があるのかというのを調べて、全国の地域みらい留学ができる高校と組んで、年に1回は高校生が活動をできる場をつくるとか。LivingAnywhereでやってたように、社会人が入っていって一緒に活動ができたら、「地域みらい留学」で得られるベネフィットが、ドカンとでかく作れる。そういう仕立てをプラットフォーム的に作れたらいいのではないでしょうか?


津和野町の取り組みについて

中村:津和野にある学校で、今までの学校の前提を疑ったり、当たり前を見直したりすることができるのではないか?という問いをもって、色々な取り組みをしています。

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 島根県津和野町は、島根県の最西部に位置する町。

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 民間と協業してつくった職員室。センセイオフィス。「先生方にとっても魅力的な高校を作ろう」と取り組んだ事例。


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中村:東京都で教員をしていた時期もありましたが、違和感を感じて、海外青年協力隊としてアフリカのマダガスカルに行きました。その後、高校のコーディネーターとして、津和野高校へ来ました。高校のコーディネーターを4年務めた後、高校だけでなく、活動の幅を小中学校、0才児の幼児教育まで広げて、”0才児からの人づくり”生まれたときから大人まで学びがつながる教育のデザインをしています。


地方の高校で学ぶという新たな選択肢

中村:地方へ行くこと、地方の自然環境で過ごすことが目的ではなくて「地方でしかできない学び」があると信じ、それを作るために8年間活動してきました。”地方でしか学べないものがある。これからの時代で必要な学びが、この地方だからこそできる” それを作っていると思っています。


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中村:東京の学校の先生だったが1年でやめてしまいました。その時に感じてた問題意識、違和感は3つ。

① 学校という場所が社会と分断されている。学校だけで学びが行われている。その学びが社会にどう生かされているのか、どうつながっているのかという視点が少ない。

② 社会と分断されて、学校が閉鎖的だからこそ起こる多様性との分断。学校現場の先生方の考え方の同質性が高かったり、こうあるべきというのが強くてそれ以外のものが認められない。学校というものの全体をみても、公立学校の教え方の教育観が強くて、それ以外の学校がなかなか選択肢として上がってこない。教育の在り方ももっとカラフルであるべきだ、いろんな選択肢があるべきだと思う。

③ 時間軸の分断。自分の格子でしか考えてなくて、他の格子とのつながりが薄い。

 都会では学校と家の往復の中でなかなかできない「必要な学び」を津和野という場所だからできるのでは?学校だけでなく街全体で学びの場を作ることで、それを提供できるのでは?と思っています。

 具体例として、津和野では以下のような活動を行っています。

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1. 総合の時間:地域の人が先生となって総合学習をする授業
2. 地域系部活動:地域でプロジェクトを立てて活動する部活動
3. マイプロジェクト:個人の課題意識を探究して進めるプロジェクト
4. 無料の町営塾

中村:数多くの高校生が、課題意識からプロジェクトを企画してきました。また、彼らがしてきた探究的な学び、経験が進路選択の幅を広げることにつながっています。経験や実践を高校生活で高め、それを大学、社会から評価を受けられる社会、時代になってきています。良い大学に行くことが目標ではありませんが、自分たちが行きたい学校に行ける状態になっているのが重要なポイントだと思います。

 学校だけでもう学びは完結しません。高校生に聞いてみても、「何を学ぶか?」でなく、「誰と、どんな環境で、どう学ぶか?」ということが、1番学びが深まったと話しています。学びを深めるには「学びの土壌」という地域の環境が大事。つまり、高校の周りの地域が育っているのかというのも重要なポイントである、ということが言えます。一緒に学べる大人がいるか?いろんなことに挑戦して新たな価値を作ろうとしている大人がいるのか?というのも、高校生が学びを深めるポイントになっていると思います。


選択の自由

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井上:地方は宝物だらけと思っています。大都市は中央集権的で統制をとったスタイルになりがち。それに比べて地方は、余白が多い。 自然もいっぱい、人柄がいい人も多くて、大人も色々手伝ってくれる。宝物だらけだと思います。

 「地域みらい留学」がテーマだから、地方だから地域を持ち上げるということではなくて、選択の自由だと思います。海外に行きたいなら海外に留学すればいいし、スーパーエリート教育も自分が望むならその選択の自由を選べばいい。地方には宝物がいっぱいあるから、いくつかある選択肢の中に、地方という選択肢も入れたほうがいいと思います。地方創生をしていて、宝物だらけだと感じます。小さい自治体のほうが、実は自由度も余白も多くて、どんどん新しいことができるのではと思うのですが、実際はどうなんでしょうか?

今村:津和野に行った時に、ものすごく自由に発想して、よそ者が仕掛けている姿に最初とても驚きました。それは、自治体の規模が小さいから?それともそういう文化があるから?それとも上手くやっているから?理由は何なんでしょうか?

中村:ギリギリのところまで来ているから、新しいアイデアを 受け入れざるを得ないというのもあると思います。新しいアイデアや新しい取り組みを応援せざるを得ない。それでも、やはり時間はすごくかかりました。1年、2年でできるものではなかったし、自由度が認められるまでに、子どもの変化、それによる大人側の変化があって自由度が広がってきたと思います。

今村:LivingAnywhereは地域にこだわらず、行った先でそれぞれのこだわりを見せながら色々なところへ行こう、一方で地域みらい留学は3年間しっかり地域を味わいつくそうというアプローチ。それぞれのいいとこ取りの融合があったらいいと思うのですが、これからの学びはどうやって変わっていくのでしょうか?

井上:LivingAnywhereに関しては選択の自由なので、どこに行き着きたいというのは、最終的に自分が決めればいいと思います。ただ、Iターン、Jターン、留学は意思決定のハードルが高い。だから、そこを滑らかにすればいいと思います。

 行ってみたけどあんまり合わなかったら、AからBに行く。Bもちょっと違うなと思ったらBからCに行く。それで、Cがすごくよかったらそこに移住するでもいいと思います。どこかに決めなさいと言うのは、選択の自由が狭まっている状態になってしまうので。津和野、雲南みたいに魅力的なところがあれば、みんなどんどん集まってくるし、「ここはよそ者を受け入れないエリアだよね」となると、何回かは来るけど交流人口だけで終わってみんな離れていく。それがフィードバックになって、「やり方を変えていかないといけないんだ」と気づく。


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今村:地域での活動は簡単なことではないと思いますが、これまで地域で活動してきて気づいた点はありますか?

中村:これまでやってきて気づいたことは、高校生を外に出すことで、まわりの大人が変わっていくということです。高校生が学校だけじゃなくてリアルな地域社会に出て、地域課題に出会って、地域の大人たちと出会うことで、キャリア選択の幅が広がって、やりたいことが見つかってくると思って、高校生のためだと思って子どもをどんどん出して行ったら、高校生だけじゃなくて、大人も変わっていきました。地域の大人が高校生と出会うことによって、大人自身が、「自分は何ができるんだろう?」「どうしたらいいんだろう?」と向き合うようになって、大人が変化していきました。

 いい”まち”をつくろうと思ったら、大人が変わることが1番大事だと思います。でも、意義を上から押し付けても大人は変わりづらいと思いますが、高校生が外に出ることで大人が変わって、いい”まち”になっていくというレバレッジポイントになる。大人の変化まで見れたのは、長い時間やっていたので気づいたポイントです。

 高校生の学びを深めるのは、大人がどれだけ育っているかというのがポイント。高校生を外に出すと大人が育ち、大人が育っているところだと、高校生の学びも深まっているというループになっているというのは、長い時間やって思います。

井上:自分の人生って、1回きりしかできないから、1つのルートからしか行けない錯覚に陥りがちですが、気軽に滑らかにいろんなものを体験できるようになることが大事だと思います。

 結局教育の基本的な定義は僕は、「自我の確立を支援すること」だと思っています。1人1人の個性、才能が違うけど、それを型にはめると、型にハマりたくない子が当然出てくる。そいういう教育を受けた子たちを、実社会は求めていません。言われたことを言われた通りにきちっと素早く、正確にできることを、今や実社会は求めていません。それよりも、困難があったときに、どう打ち破れるのか?どうクリエイティブに発想できるのか?ということに価値があると思います。

 自我の確立を支援するといったときに、 何の経験もしないと、自分のアイデンティティは何なのか気づけません。だから多様な経験をしたほうがいいと思います。それは、海外でもいいし、地方でもいいし、都心のエリート校でもいいし、その1つ1つが経験だと思います。その経験を1つの所に定めたい人は定めればいいし、色々みたい人は色々見ればいい。そうやって人格がつくられていくのだと思います。それが分かって初めて内発的動機、自分は何をしたいんだ?ということが明確になり、小中高大学という流れの中でだんだん自分はこういうことがやりたいと芽生えてくるのだと思います。

 僕はハワード・ガードナーという教授が唱えている、マルチプルインテリジェンス理論が大好きで、ガードナー教授は、「人間の知性は8個ある」と言っています。その中で自分の知性がどういう方向に向かっているのかを理解し、それをやりたいと思えるのであればそっちの道に進めば良いと思います。それに気づくにはいろんな経験をすることが大切だと思います。

 良い大学に行って、良い企業に入ったら幸せになると盲信させてはいけないと思います。そんなの50年後、100年後絶対変わっているはずなのに、以前のシナリオで幸福の方程式を語っていると、親すらも教育のやり方を間違ってしまうと思います。親が子どもを育てるときに、「どういう教育をさせようか?やっぱり受験をしていい大学にいかせなくちゃ!」というのは、”~しなければならない” と押し付けている話です。本人がやりたいなら全然良いですが、その ”選択” が大切だと思います。だから、自分が何をしたいのか?というのに気づくことを支援するのがすごく大事だと思います。地方に行くというのは、その選択の1つとして、非常におすすめできるいい選択だと思います。


おわりに

鈴木:自分自身を「地域みらい留学生」だと思っています。23年間東京で育って、井上さんの会社で働いているときに初めて大阪に2年ちょっと住みました。そして今は島根へと拠点を変えています。地域の心臓になるか?東京の歯車になるか?という話はよくある話ですが、自分が主役になれるバッターボックスが地域にはすごくいっぱいあると思います。プロジェクトの例1つをとっても、高校生が何かをしたいと言うと、地域では社会が動く。50人の大人が動いてくれます。それって東京ではなかなか無い機会です。実際、自分自身にそういう機会がありませんでした。本当にリアルなものを題材に学んでいくことが、地域で学ぶことの本当の価値だと思います。そこにオンライン、LivingAnywhereということが掛合わさっていくと、もっと自由で多様で、学びを自分からアクセスできることが増えていく。それが価値あることなのではないかと思います。

中村:アフリカに2年いたのが自分の人生の中ですごく大きな出来事だったので、島根にいることは、地球のどこに立っているかくらいで、地域みらい留学という選択が、何がハードルになっているのかというのを改めて聞きたいと思っています。都会の高校に何を求めて行っているのか?そこを自分自身にしっかり掘り下げてほしいと思います。どう生きたいのか、どういう高校生活を送りたいのか、を真剣に考えていれば、意外と地域みらい留学という選択がでてくるのかなと思います。

 アフリカに行ってよかったのは、今までの当たり前を疑えるもう1つの価値観をもったことです。物事を表と裏と2つの視点から見られるようになりました。地方という視点から世の中を見ると、また違って見える部分があり、幅の広い視点で物事を捉えられるようになるのではないかと思います。住み慣れない土地に行けば、うまく行かないことに出会います。アフリカに行った時は、トラブルだらけで、どう向き合うのかとメンタルも行動も試されました。そういう経験は地域にもいっぱいあって、うまく行かないことに、どうやって向き合っていくか、その中で自分はどう柔軟性をもつか、ということが「地域みらい留学」で行くような地方では試されるのではないかと思います。

井上:今の中村さんの話はものすごく共感します。ライフスキルを身につけること、それは都会の進学校に行くよりも、地方にいるほうが自然と身につくものだと思います。伝えたいことは2つあります。1つ目はインターネットが普及したことによって、知識を得られる機会はフラット化しています。なので、地方なのか、海外なのか、都心なのかというのはあまり関係ない議論だと思います。2つ目は地方のほうが、自然が豊かということ。これはWell-being、幸福という観点から見ると、自然の中で過ごしている方が幸福度が上がるというのが、研究的な成果からも分かっています。

 地方にいる方が感じることが多い。知るということはフラット化していますが、感じる体感は、地方のほうがふんだんにチャンスがあります。そういう意味では、多面的な教育という観点からすると地方の方が学びの機会が増えていて、都会と地方はすでに逆転しています。利便性と効率性は都市部が上ですが、多様な経験や感受性を育むのは地方のほうが勝っているので、結局どれを選択するかということなのだと思います。


※ 本記事は、2020年8月9日の地域みらい留学LIVE「LivingAnywhere✕日本の地方で学び暮らす高校生活の可能性」のイベントレポートです。


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