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書評

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2020年3月の記事一覧

柞刈湯葉(2018)『未来職安』双葉社



私たちから見た過去の暮らしがあり得ないものの連続のように、未来から見た私たちの暮らしもきっと驚くべきことの一つになっているのだろう。今を生きていて、ときどき想像する未来からの視線、そしてそれを受ける自分の恥ずかしい少し気持ち、この小説に呼び覚まされる。

今の私があれこれ悩み考え感じているように、未来の子孫も過去の先達も、たった一人の人間として、等身大の自分の人生を生きていたことが、少しだけ今

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井上達夫(2019)『普遍の再生:リベラリズムの現代世界論』岩波現代文庫



普遍性の主張を恣意的に利用する昨今の大国の動向を憂いながら、文庫版として再誕したリベラリズムの教科書。自他の間に隔たりがあることを認識しながらも、取り込もうとしたり逆に閉じ籠ったりするわけでなく、自己を批判的に吟味し続け、対話の中での相互承認から共に立つ普遍の地平を見い出し続けようとする生き方を擁護する。

しかれども、この世界に神はいない。この世に生きる全ての人間と、心の内をさらけ出す時間は

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