そてつ

男女共同参画部門に配属されたのでジェンダー論の勉強を始めたアラサー男性。主に本の感想な…

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男女共同参画部門に配属されたのでジェンダー論の勉強を始めたアラサー男性。主に本の感想などを投稿予定。 ジェンダー論オタクを目指します。

最近の記事

倫理としての「ケア」とはなにかー「ケアの倫理と共感」感想

マイケル・スロート著、「ケアの倫理と共感」の感想です。 本書で一番重要だと思った点は、自立・正義・道徳といった大きな概念の中に共感とケアの概念を並び立てて説明したこと、そして、現代多くの人々の行動指針となっている「義務論」や「功利主義」よりも「ケア」が指針とするに相応しいものだと主張していることだろう。 義務論とはざっくり言うと「道徳」に沿って人は行動すべきというものということだが、道徳を重視すぎていて個人のニーズを満たすことができていない場合があるという。  それが行き

    • 「フェミニスト・シティ」感想未満の覚書 女性と恐怖について

      筆者の主張メモ ニセのトランス女性という恐怖の対象は純粋にトランスフォビアの産物で、女性(トランスもシスも含む)が日常的に経験している暴力への懸念に根差したものではないだろう 個室トイレ化しても性暴力やトランスフォビアがなくなることはない それでも、あらゆる身体の持ち主に対して最大限トイレへのアクセスを保証することは大切だ 女性が暴力の被害にあう機会は、公共空間に見知らぬ人からではなく、自宅や職場などで顔見知りの人から受けることの方が多い しかしながら、公共トイレな

      • 「フェミニスト・シティ」感想 誰にとっても暮らしやすい街の実現は難しい

        レスリー・カーン著「フェミニスト・シティ」の感想です。 筆者が主張するには、現代の都市はデフォルトマンによってデフォルトマンのために作られているそうです。 機能的な面で言えば、道の幅や交通機関、導線が女性・高齢者・障害者など男性以外の人には使いづらくできていると筆者は言います。 妊娠〜出産までの筆者の体験とともに語られるこの主張は、カナダのことだとしても、現在の日本の読者でもそう違和感なく読めるのではと感じました。 筆者のあげる都市の特徴は、 健康的な人が歩くか、車に乗

        • 「10代で知っておきたい『同意』の話」は30代でも学ぶことがある

          ジャスティン・ハンコック著の10代で知っておきたい「同意」の話を読んだ感想です。 包括的性教育の入門書と思って手に取ったのですが、性教育に留まらず人間関係や社会構造の内容も豊富な本でした。「包括的」とはこういうことか!と気づきを得て楽しく読むことができました。 なお、包括的性教育とは妊娠の過程や性行為そのものだけでなく、今回の同意といった性にまつわる周辺領域も取り上げる教育のことをいいます。 まず、なぜ性教育のテーマで同意を取り上げるのかというと、先日成立した「不同意性

        倫理としての「ケア」とはなにかー「ケアの倫理と共感」感想

        • 「フェミニスト・シティ」感想未満の覚書 女性と恐怖について

        • 「フェミニスト・シティ」感想 誰にとっても暮らしやすい街の実現は難しい

        • 「10代で知っておきたい『同意』の話」は30代でも学ぶことがある

          「トランスジェンダー問題」感想。いかに社会制度が性別二分論を基に作られているか。

          ショーン・フェイ著、高井ゆと里訳の「トランスジェンダー問題」を読んだ感想です。 感想としては、トランスジェンダーの人が直面しているひどい現実とそれを解決するための処方箋が、とても体系的に書かれていて、トランスの方たちの生活が少しでも良くなるようどう行動すればいいのか考えるきっかけになる本でした。 全編を通じていかにトランスジェンダーの方たちが、社会制度によって主体性を奪われているかが描かれています。また、その描き方は当事者である著者本人の経験によるものではなく、統計や論文

          「トランスジェンダー問題」感想。いかに社会制度が性別二分論を基に作られているか。

          家族する男性たち感想

          大野祥子の『「家族する」男性たち: おとなの発達とジェンダー規範からの脱却』を読んだのでその感想です。 ざっくり要約 男性たちの中で比較的に男女共同参画に理解があり性別役割分業に反対をしているのは、「家族する」男性たちであった 「家族する」男性とは、一通りの家事スキルを備え、主体的に家事・育児に参画し、家族や自分の状況をモニターし続け、今自分に求められていることを性別役割分業を超えて実施できる男性のことであった 「家族する男性」は、仕事に専念できなくなるような事態に遭

          家族する男性たち感想

          「介護する息子たち」感想 男性は生きづらいのか?

          平山亮の「介護する息子たち」を読みました。 ざっくり要約 介護する息子を分析した結果、2つの息子性の特徴がわかった 一つ目は、弱者を弱者のまま受け入れることの否定 二つ目は、私的なもの/内なるものへの依存 この2つから導かれるものは、男性が家事・育児・ケアといった行為に支えられている(ケアに依存している)ことが見えなくなっていることと、男性を支える行為が女性に偏っているということ 支えるための行為が女性に偏っていることで、収入格差をはじめとするジェンダー秩序が生ま

          「介護する息子たち」感想 男性は生きづらいのか?

          「男らしさの終焉」を読んで自分が男らしかったことに気づいた

          グレイソン・ペリーの「男らしさの終焉」の感想です。 ざっくり要約 男性が書いた(白人を中心とした)男らしさの有害さについて書いた本 男らしさとは「意気地なしはだめ」「大物感」「動じない強さ」「ぶちのめせ」 男らしさを発揮できない時、周りのより男らしくない男性や女性に敬意を強要する このような男らしさはジェンダー平等が叫ばれる現代にそぐわない これからの男性には「寛容」「柔軟性」「多様性」「感情のリテラシー」が重要となる 現代は男らしさの締め付けが厳しすぎるのが問

          「男らしさの終焉」を読んで自分が男らしかったことに気づいた

          改訂新版ヒューマン・セクソロジーはパートナーと共に暮らすための指針となる本

          改訂新版ヒューマン•セクソロジーを読みました。 性教育に関する本という触れ込みをみて手に取ったのですが、生物的な性のみならずジェンダーに関する言及も多く、性とジェンダーについて網羅的に学習できる本でした。 内容の構成は以下の通りとなっています。 はじめに―性を学ぶ視点に関して 1 性の多様性とジェンダー・セクシュアリティ平等 2 生殖をめぐる科学と人間関係 3 性愛(エロス)のゆくえ―性の関係性を問いなおす 4 さまざまな性感染症 5 性と人権をめぐる現状・展望 おわりに

          改訂新版ヒューマン・セクソロジーはパートナーと共に暮らすための指針となる本

          緊急避妊薬に関するパブリックコメントが始まりました

          厚生労働省が緊急避妊薬を薬局で買うことの是非を問うパブリックコメントを開始しました。 詳細や論点は、厚労省の資料やNHKのサイトに詳しいです。 主な論点は、 女性が自らの意思で予期せぬ妊娠を防ぐために緊急避妊薬へのアクセスを容易にすべきである 緊急避妊薬が簡単に買えるようになると、性暴力や性的搾取等に悪用される可能性がある 医師等の面談がなくなると、女性を必要な支援につなぐことができなくなる 知識のある薬剤師の不足や個人上の保護の観点から、薬局での販売は難しいので

          緊急避妊薬に関するパブリックコメントが始まりました

          (イベント感想)男だけでひたすら話す会に参加して、自分の会話できなさに気づく

          「さよなら、俺たち」等で知られる清田隆之氏のワークショップが千葉市男女共同参画センターで開催されたので参加しました。 何したの 全体で2時間(盛り上がって15分ほど延長) 定員15名のところ、9人の参加 清田氏の「男らしさとは?」という講義が30分ぐらい 2人一組で各5分、参加したきっかけや興味を持った点について語る 4人一組で各8分、今抱えているモヤモヤについて語る 全員で輪になって、挙手して発言 ざっくり感想 清田氏による講義は、氏の著作から引用しながら

          (イベント感想)男だけでひたすら話す会に参加して、自分の会話できなさに気づく

          (感想メモ)「アダム・スミスの夕食を作ったのはだれか」を読んで子どもを育てることと格差の関連について知る

          ざっくり要約 経済学は、その初期の頃から子育てや介護といった「ケア」を無視している 競争の永続に基づく新資本主義により勝者と敗者が生まれ、経済格差が広がった 新資本主義や人的資本の考えの浸透により、人々は自らの価値を高め続ける必要性に駆られ、それができない人を自己責任とするようになる 「ケア」の領域を担わされた女性は、自己投資ができない、仕事で成果があげられないといった理由から収入が上がらない その結果出生率は下がり、看護師などケアを担う人材も不足するようになった

          (感想メモ)「アダム・スミスの夕食を作ったのはだれか」を読んで子どもを育てることと格差の関連について知る