「トランスジェンダー問題」感想。いかに社会制度が性別二分論を基に作られているか。

ショーン・フェイ著、高井ゆと里訳の「トランスジェンダー問題」を読んだ感想です。

感想としては、トランスジェンダーの人が直面しているひどい現実とそれを解決するための処方箋が、とても体系的に書かれていて、トランスの方たちの生活が少しでも良くなるようどう行動すればいいのか考えるきっかけになる本でした。

全編を通じていかにトランスジェンダーの方たちが、社会制度によって主体性を奪われているかが描かれています。また、その描き方は当事者である著者本人の経験によるものではなく、統計や論文といった客観的なものに基づいています。

このことで、なんとなく知ってる・聞いたことがあるという程度であった、トランスジェンダーのリアルの一端を知ることができたと感じました。「リアル」とは例えば、トランスの方は親や家族からの虐待に遭う可能性が高いこと、その結果ホームレスになる可能性も高いこと、貧困経験の割合が高いこと、セックスワーク従事者の割合が高いこと……などが文中であげられています。

その根本的な原因として、虐待やDV被害者のシェルターや刑務所などが男女別で硬直的な運用がなされているなど、イギリスの制度や法律が異性愛でシスジェンダーの人が前提となっていることが挙げられています。
また、トランスジェンダーの人がホルモン治療するにはお金が必要で、働いてお金を稼がなければなりまんせんが、家族からの勘当、就職差別により貧困を経験しやすいといった、「ふつう」の人しか稼ぐことのできない資本主義への批判もありました。

特に心に残ったのは、虐待とセックスワークに関する章です。
性的マイノリティに対しての差別的発言で総理秘書官が更迭された際、この人の子どもや親族にそのような人がいたらどうするのだろうかと疑問に思ったものでしたが、この本の虐待に関する記述を読むと、暗い想像が容易にできてしまいました。
セックスワークに関して筆者は、現にセックスワークに従事する人がいて、劣悪な労働環境に悩んでいるのであれば、まずは、売春の非犯罪化が必要であるという立場をとっています。
フェミニストの間でも売春に対する立場は、法的規制派と非犯罪化の2つに別れており、本書で論点の整理がされています。

売春の犯罪化により不当な要求(低価格、避妊なしでの行為など)が増えると言うデータや、非犯罪化により労働基準法の適用がされたり事業者による安全配慮義務が求められるようになったニュージーランドの事例などが紹介され、非犯罪化がセックスワーカーの主体性を守るように作用するということをよく理解できたと思います。

このほかにも、脱監獄化や資本主義への批判など、トランスジェンダーの方の処方箋として挙げられている要素は、この社会の根源に関わるものばかりで、現代社会の諸要素が性別二分論に基づて作られたものだということに改めて気付かされました。

制度の根本に結びついているからこそ、現実を変えることは難しいかもしれませんが、トランスの方が望んでいることを丁寧に掬い取って必要があるのだと感じます。
政治家でもなんでもない私たちにできることは、理解することと投票することぐらいかもしれません。
本書は、理解することの助けとなる骨太な一冊でした。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?