京都国際写真祭を巡る3-観る者に知識を要求する写真-
今回はココ・カピタンの展示を観て感じたことを書いていきたいと思う。ココ・カピタンの展示は3カ所で行われているが、訪れたのはそのうちの1つ「大西清右衛門美術館」での展示である。京都国際写真祭のパスポートを持っていれば、有料ギャラリーは1回のみ無料で観れるのだが、ここは茶釜の展示があるので800円支払わないといけないので注意が必要だ。
早速、受付でお金を払って美術館に入った。写真を見る前に、まずはビデオをご覧くださいと小部屋に案内された。テレビ画面には「男の子」が母親と思しき人に生花の方法を習っているシーンが流れていた。他の展示でもあったように、写真家のインタビュー映像なのかなと予想していたが、そうではなかった。あくまでも「写真」を見にきていたので、はやる気持ちを抑えることはできず、ビデオの途中で小部屋を出た。そして、写真展示がされている階にエレベーターに乗って移動した。
エレベーターを降りると右手に和室があり、お爺さんスタッフと女性のスタッフが和室に案内してくれた。和室の畳の上には、いく枚かの額装された写真が置かれていた。何かが書かれた紙を撮した写真や古びた道具を撮した写真、ガラクタの様な物を撮った写真が展示されていた。写真はまさに物撮りといった感じで、白い背景にただ物が写された写真だった。これを見た私は「なんだこの写真、写っているのはなんだ?わからん…」と思った。見てもわからない上に、物撮りなので正直つまらなかった。「うーん」と唸りながら見ていると、女性のスタッフが「これ何が写っているかわかりますか?」と話しかけてきた。私は正直に「いや、全然わからないですねぇ(苦笑)。何ですかこれは。」と答えた。女性スタッフは丁寧に写真に写っているものが何なのかを説明してくれた。写っていた道具はどうやら茶釜を作る道具で、ガラクタだと思っていたのもそのうちの一つだった。話を聞くうちにこの展示がどういうコンセプトなのかも理解してきた。ココ・カピタンの展示が京都の伝統的な家の子供をテーマにしているということは知っていたが、特にここ「大西清右衛門美術館」で展示されているのは、代々茶釜の制作に勤めており、その歴史が400年前にも遡る大西家に関連した写真作品だった。どうやら入館して直ぐにみたビデオも大西家の紹介ビデオのようで、そこに出ていた男の子が現当主だったらしい(これも女性スタッフが話してくれた)。写真展示にしか興味がなかった私は見事にスルーしてしまっていた…
その他にも女性スタッフは丁寧に説明してくれた。先に「何かが書かれた紙を撮した写真」と述べたが、この紙は現当主が小さい頃に英語の文章を書き写したものだった。よく見てみると、何やらよくわからない文字のようなものが書かれていた。これを被写体として選んだ写真家の眼・センスに感心した。また、和室に入った時から気になっていたのだが、やけに部屋が薄暗い。話によると、ライトなどを設置せずに窓から差し込む自然光で作品を見てほしいという写真家の意図らしい。
スタッフと話しながら改めて写真展示を見たので、時間が割と経っていたようで、「こんなに展示を長々と見られた方は初めてです。大抵皆さんぐるっと作品を見られたら帰られますから」と言われた。でも、それはそうだと思った。なにせ写真にはタイトルも説明書きもないのだ。私もスタッフと会話していなければ眺めるだけで、秒で去っていただろう。説明を聞くことで、写真に写った物の背景を知ることができ、奥行きが生まれた。丁寧に説明してくださったスタッフに感謝を告げ、私は和室を後にした。
次に向かった階には、様々な茶釜が展示されていた。どれも精巧なもので、先ほど説明を受けた道具でこれが生み出されているのか…と感心した。これらの茶釜の展示は元からあるようで、ここで大西家の歴史の深さをしみじみと感じた。さすが京都だなとも思った。最後に、現当主のポートレート作品を鑑賞した。写真は自然な色味で仕上げられていたが、当主のとっているポーズが不自然で面白い写真だった。
建物を出た私は空を見上げて考えた。「今回は観る者に知識を要求する写真だったなぁ」、「写真にタイトルも説明も無いのは挑戦的だったな。自分みたいに知識がない人間には理解してもらわなくてもいいのかな?」と思った。しかし、よくよく考えてみると、私がスルーしたビデオや、そもそも展示が「大西清右衛門美術館」で行われていること等など、写真の背景知識を補う工夫は散りばめられていたのだ。狭い視野で、はやとちりしていた自分が少し恥ずかしくなった。改めて丁寧に説明してくださった女性スタッフに感謝だ。
言葉に頼らずに観る者に全てを委ねる写真もあるが、今回の様に背景知識がある
ことでより写真に奥行きが生まれることもある。自身の写真を見てもらうにあたって、鑑賞者にその背景知識を注ぎ込む術をもっておくと良いのかもしれない。
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