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■紹介状だけのやり取りというものは

他院との連携では、いくら患者さんを紹介されたり、紹介したり、紹介状と返礼御礼のやり取りをしたところで、結局のところ文字のやり取りをしているに過ぎません。「平素よりお世話になっております」の定型文を枕詞にしたところで、「お世話になってなんかいねーし」と呟くだけだからです。


大学病院で勤務医をしていると開業医の先生が、「夏休みや年末年始に入るから患者さんの調子が悪くなったら診てください」と、紹介状を通行手形のように持って受診することが少なからずあります。私が人間ができていれば、大した問題でもないし、軽く流せるのですが、とくに若いころには怒髪、天を衝く思いがしました。診療の際に紹介状を読み、患者に確認し、場合によっては患者から「紹介状に書いてありませんか?」ときたときには、もう……。


「年末年始よろしくお願いしますとしか書いてませんよ」とは言えず、「大事なことなので確認をしているんですよ」と言わざるを得ません。せいぜい、教授や上司に「あそこの先生ひどいんですよー。紹介状持たせるだけで何も書いていないんですよ」などと陰で愚痴るしかありませんでした。私と同じ思いをしている医師は、医局内で増えていっているようでしたが。


■私の心に刺さった教授の言葉

ところが毎月大学で開かれている地域小児診療連絡会でのことです。大学講堂で、大学病院、地域総合病院や開業医の小児科で開かれ、持ち回りで症例検討会をしています。薬局メーカーがスポンサーについているので、薬の説明会があり、若手は早々に弁当を食べて退出し、お偉いさんたちはその後、歓談するというのが、一連の流れです。しかし、その日は違っていました。


教授が「小児医療を1人で頑張ろうと言うのは無理な話です。こういった集まりで、顔を見知っておけば、あの先生の頼みなら仕方ないなとか、あの先生にはお任せしたいなと言う気持ちが出ると思います。どうか地域のため、小児科医で連携してやっていきましょう」と、第一声で話されました。


尊敬する教授の話だからと言うのもありますが、私の中でその言葉が突き刺さりました。そして、壇上に医局員が上げられ、自己紹介と教授からの紹介。地域の小児科医も自己紹介と教授から紹介と、この前の患者はどうだったかとかの一言が添えられました。単に顔見知りになったと言うよりも、チームで地域小児医療に立ち向かおうという、週刊少年ジャンプのヒーローもののような気概を感じたものです。


それからは、このような集まりや学会では積極的に、いろいろな先生とコミュニケーションとるようにしました。地域小児科の先生からの紹介状は残念ながら大した変化ありませんでした。しかし、文字だけではなく、顔見知った先生なら、あの先生からなら喜んでやりましょうという気持ちが動くのです。


■若者たちは今日も先に帰る

その後も教授は折を見て地域小児医療連絡会で、今回のような話をするのですが、みんなにはどう聞こえているのでしょうか。私の医師人生には突き刺さりましたが。


ただ教授の話を後輩にもしましたが、後輩にはまったくと言っていいほど突き刺さらなかったようです。はるかに年齢が上の先生との会食は、自分は年齢のせいかあまり食べないのに、こちらには食べるように勧めてくる。酒も飲めないと言っているのに注いでくる。たまに食べたと思ったら食べ物を飛ばしながら話してくる。だから「むりー」と言っていました。世代の差ですね。


だから今日も若手医師たちは、自分たちの業務をするために、そそくさと帰ってしまうのでした。

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