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■「金沢」という土地柄


私は母校である石川県の地方医科大学で医学生と研修医時代の8年間を過ごしました。石川県の県庁所在地である金沢市は城下町で戦災にあっていないことから、昔の街並みが多く残り伝統芸能も盛んです。海も山もあるし、とくに海の幸がおいしい。東京で後期研修をし、その後の医師人生を横浜でしていると、金沢で味わった、カニやブリの美味しさには敵わないことを思い知るのです。

東京で診療をしていると時折、「金沢出身です」というスタッフがいます。石川県の大学出身としては、気になるものです。
「へー。金沢のどこなの?」
「金沢工大の近くです」
「あー。じゃあ金沢じゃなくて野々市市だね」と言うと、むっとされます。

それは、私もついつい金沢市出身と言っていますが、大学がある場所は金沢駅からは車で30分ほどかかるため、金沢駅近くではなく、実際には内灘町に大学はあります。そのため、「先生も金沢じゃないじゃん」と言われるとカチンとくるのです。自分を大きく見せようとしているわけではないのですが、内灘町だって金沢です。自分でそう思っていることを否定されるのは嫌なものなのです。だったら私も、人に指摘をしなければいいのですが、聞く側になるとしてしまうのは人の習性かもしれません。

■過疎地域の医師の腕前は


さて、話は変わりますが、石川県には大学医学部が2つあり、10万人当たりの医師数が284人で全国12位と言われています。
(厚生労働省:医師・歯科医師・薬剤師統計(旧:医師・歯科医師・薬剤師調査):https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/33-20.html)

じゃあ医師不足ではないのですね?というとそうではありません。
日本では地域によって限界集落などが話題に上がるように、医師も都市部に集中しているため、過疎地域では、ドラマ「Dr.コト―診療所」のように高度医療が受けられない可能性があります。

だから医師不足がある地域には、腕のいい素晴らしい医師が派遣されるのか、それともそのような地域だから腕のいい素晴らしい医師が生まれるのか。それはわかりません。ただ石川県では、大学病院や総合病院から転送されてくる小児患者は、素晴らしい初期治療が行われてから転送されてくることがほとんどでした。「すまん。心肺停止(CPA)だから気管挿管したけれども先端は確認できていない。レントゲンでそれは確認しといてくれ!」いやいや、確認してもカテ先は寸分違わず、まさに「その位置」なのです。

■初期治療がどれだけ大切かを知っている地域


私が非常勤勤務していた病院にも、「子どもが海で遊んでいたら気づいたら海に沈んで息をしていなかった」といった子どもや、朝に起きたら赤ちゃんが息をしていなかったといった場合でも、救急車ではなく自家用車で両親によって担ぎこまれて来ることがあります。そして、適切な初期治療ができなければ子どもたちを救えないといったことが起きるのです。

CPAの子どもに初期治療を行い、1時間もしくはそれ以上の時間をかけて更なる高度医療ができる大学病院へと転送する。これができなければ、過疎地域の医師としてふさわしくありません。ですので、過疎地域の医師はのんびりしているどころか研ぎ澄まされているのです。

最新の医学を学びたければ都会志向。それは否定できません。しかし、過疎地域だから学べることは山ほどあるのです。また、それができないのであれば、石川県では、「だら~」と言われてしまいます。私は研修医時代、麻酔科をローテートしているときに、仲良くさせていただいている先輩が、教授回診で教授に「だら~」と怒られているのを見て、先輩がぶん殴られるかもしれないと思って、教授と先輩の間に身体をいれて先輩を守ったことがあります。それだけこの石川弁の「だら~」は怖いんです。ちなみに「だら~」とは「アホ」とか「間抜け」と言う意味。だから私は、今でも「だら~」という言葉に過剰反応してしまうのです。

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