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【実験的 「お題」でショートショート】 不機嫌な動物園

《本作は、前回の記事「一般人にもショートショートはホントに書けるのか?」で決定した「お題」に基づき、一般人である私が実験的に作成してみた小説です》

(お題:「黄色っぽいアザラシ」)


その動物園は明らかにヘンだった。

入口に係員らしき人も誰もいなければ、窓口も券売機もない。

挙句の果てにはゲートもほぼ崩壊している状態で、誰でも自由に出入りできそうなほど荒れ果てている感じだ。

何か入るの怖いな、、、と思っていた矢先、偶然通りかかった係員も輪をかけてヘンだった。

「おい、お前、何見てる?」
「えっ?いや、ここ動物園ですよね?」
「それ以外、何に見えるんだ?動物見たいのか?」

やっぱりおかし過ぎる。正直、入りたくない。。。

「見たいのか、見たくないのか、どっちなんだ?それともお前はアレか?動物見る気もないのに、動物園の前を意味なくうろついてたのか?」

、、、私は昔から、人に強い口調で言われると、言い返せない性格なのだ。

「あー、いえいえ、とんでもない!あのー、見ます見ます」
「見せていただきます、じゃねえのか?」
「はい、見せていただきます」
「じゃあ、入れ」

やばい、怖い。

この係員から何とか離れたい、、、と祈っていたら、彼は私に何の興味もなくなったのか、そのまま行ってしまった。

ふー、ひと息吐いて周りを見渡したが、、、やっぱりヘンだ

客が1人も見当たらない。

やっぱりそのままUターンして帰ろうかとも思ったが、さっきの怖そうな係員が入口あたりに戻って来るのが見えて、急いで木の陰に隠れた。

仕方がない。適当にぐるっと一周してこよう。

適当に動物たちの檻をいくつか通り過ぎる中、気付いたことがある。

動物園全体に全く活気が感じられないが、動物たちもまた、とても疲弊しているように見えた。

そんなことを考えながら、水も出ていない噴水の脇にある建物の角を曲がると、檻の中にクマがいた。

そのクマもまた、元気がなさそうであった。

足早に檻の前を通り過ぎようとすると、大きな声で呼び止められた。

「おい、お前!」

だ、誰ですか?私を呼んでいる?

周りにほかの人は誰もいないようだし、、、とキョロキョロしていると、檻の中のクマと目が合った。

「そうだよ。お前しかいないだろ?」

えっ?クマが喋っている?

「お前、今、オレのこと愛想のないクマだと思っただろ? クマは曲芸でもして、客を楽しませてナンボだ、みたいに思ってんだろ?」

ん?私はクマに怒られているのか?

とりあえず、相手が人であれ、動物であれ、私は昔から怒っている相手に強く言い返せないのだ。

「えっ?いや、、、そんな思ってないっすよ」

クマはなおも続ける。

「見てみろよ、この動物園。すっかりゴーストタウンだ。動物だって、心に余裕が有って、はじめて『じゃあ、楽しませてやるかな』みたいな気持ちになるだろ?余裕が無いと、そりゃー他人のことばかり気にしてられんよな?」

「はぁ、イチイチごもっともなご意見かと存じます」

何で私はクマのご機嫌を取らなきゃならないんだ?

「そういうこと人間にだってあるだろ?まさか、身に覚えがないなんて言わねえよな?」

「いえ、滅相もございません」

何かクマに説教されてる気分になってきた。
どうでもいいが、早く解放してほしい。

「だったら、そうやって他人を蔑むような目で見るんじゃねえ。分かったら、さっさと行け!」
「えっ、『他人』と仰いますか、クマ、、、」
「分かったら、さっさと行け!」
「ハイっ!」

何で私はこんなレジャー施設で、こんな恐縮しなきゃならないんだ。
ホントにホントにさっさと出て行こう。

クマの檻を早急に離れ、私は入口を探そうと思ったが、もう自分がどこから入ってきたか、すっかり分からなくなった。

仕方がない。もしかしたら、あの入口のほかにも、何カ所か出口があるかもしれない。

また動物たちの檻をいくつか通り過ぎ、「世界の動物たち」と書かれたボロボロのゲートのあたりに差し掛かった。

そのとき、またもや「おい、そこの唐変木!」と大声がした。

またもや私なのか?
ビクビクしながら振り返ると、檻の中のパンダが私を睨みつけていた。

「お前、今、オレを見て、何か汚いなぁー、って思っただろ?」

いやいや、どうしてここの動物たちは、こんなに被害妄想が激しいんだ。
またご機嫌でも取って、さっさとずらかろう。

「いえいえ、思ってないっすよ。勘弁してくださいよ~」

そしたら、後ろから「そうそう、この人、何か感じ悪いわよねぇ~」と声がした。

おっかなびっくり振り返ると、動物用プールの中にいたのは、、、アザラシ?

またパンダが嘆くような声で話しかけてきた。

「お前、パンダは黒と白がはっきり分かってナンボだ!みたいに思ってるだろ?この動物園見てみろ、もう閉鎖寸前だ。餌も十分にもらえなければ、掃除も行き届いてない」

アザラシも加勢してきた。

「そう、この人はねー、こんな環境で汚れたあたし達を見て、みじめな奴らだって、優越感に浸っているのよ」

もう何なんだ。せめて1人(1頭?)ずつ喋ってくれ。

今度はパンダが「いや、オレもそう感じた。こいつはオレのことを汚らわしいものを見るような目で、『本来白くあるべき部分が何か黒っぽいパンダだ』みたいな目で見やがった」と言い放った。

「そうそう、赤ちゃんアザラシは真っ白でキレイなのに、あたしのことは、何か黄ばんで『黄色っぽいアザラシ』だなー、みたいな蔑んだ目で見てたのよ」

私が何かしたのか?そもそも白アザラシが汚れると黄ばむのか?
私は途方に暮れて泣きだしたくなった。

「いや、なんなんすか皆さん。全然言いがかりっすよ、そんな」

そこに動物園の係員を発見した私は、たまらず助けを求めた。

「係員さん、助けてくださいー。あの動物たちが何かボクをいじめるんですけどぉ」

と泣きすがった途端、その係員が鬼のような形相でギロッと私を睨み、ドスの利いた声でこう言った。

「ほお、手前どもの飼育に何か粗相でも?」
「、、、えっ?いや、粗相と言いますか、、、」

「いやいや、さっきから聞こてえたぞ。お前だろ、オレらの飼育のレベルがなってないとか、出るとこ出ろとかギャーギャー文句言ってんのは?」

やばい!何かこの人、ジリジリと近付いて来ているんですが。。。

「オレらは安月給で散々こき使われて、休日返上で仕事してんだぞ。ストレスの溜まった動物たちの愚痴みたいのも聞かされた挙句、お前までケチつけてくるのか?」

、、、どうやら話し合って解決できそうな感じの人ではない。
どうしよう。。。

「おい、お前、今オレのこと『輩っぽい飼育員』みたいな目で見たな?」

すると、その飼育員に加勢するように「何だ何だ!クレーマーか何かか?」とさらに何人かの飼育員が建物から出てきた。

その全員の目が明らかに殺気立っている。

そして、その中の1人が私を見付けて、「おいっ!オレたちの悪口を言ってるのはあいつだ!誰が『反社集団っぽい飼育員たち』だ!捕えろー」と全員がこちらに一斉に駆け出してきた。

ウォ~ッ!

ヒエ~ッ!
私はもう一目散に逃げだした!

先ほどの飼育員が後ろで、さらに仲間を募っている叫び声が聞こえる。
「おい!お前らも一緒に追っかけろ。こいつが、お前らの掃除が全然なってないから、『体で教えてやる』とか言ってるぞ!」

ウォ~ッ!!

さらにやばそうな奴らが出てきた。


逃げながら後ろを振り返ると、さらに3人ぐらいの「清掃員」と思われる屈強な男たちが加わり、一緒になって私を追いかけ始めた。

先頭の「清掃員」らしき男は、背丈が2メールほどもありそうで、筋肉隆々な浅黒い肌をしている。

その男も私に向かって大声で叫んできた。

「アナタ、ニゲル、ダメ! ソウデス、ワタシガ 『ヘビーキュウチャンピオン、ッポイセイソウイン』 デス!」

もう、どこの国の人なんですか一体!
あんな奴らに捕まったら命がいくつあっても足りない。

私は必死に逃げたが、出口が見つからない。
もう体力も限界である。

男たちにもほぼほぼ追いつかれ、怒り狂った飼育員やら清掃員やらに散々小突かれながらも、なおも逃げ続けた。

何度か捕りかけ、殴られ、鼻血は出るわ、シャツは引きちぎられるわで、もう私は泣いて走り続けながら、大声でその男たちに謝った。

「すいません、すいません、謝りますから、お金あげますから!もう許してください」

だが、男たちは「うるせえ、金なんていらねえ。もっと殴らせろ!」とますますヒートアップして追っかけてきた。

私は後ろから思いっきり蹴り飛ばされ、地面に突っ伏したが、そのとき、やっと出口らしきものが見付かった。

もう火事場の何とかである。
出口に向かって必死で走りながら、園外の人たちに聞こえるように大声で叫んだ。

「誰かー、助けて~。それより、何で、この動物園はお客さんが誰もいないんですかぁ~~??」

男たちは、なおも追い続けてきた。

「うるせえ、誰のせいで不機嫌になってると思ってんだ!定休日も忘れたのか?いつまでも客みてえなツラしてねえで、この動物園どうにかしろ! この『客っぽい園長』が!」

(完)

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