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たった1人のあなたへ 〜#才の祭 小説部門


「購入のお知らせ」が、ピコンとメール受信音と共に、ポストに入る。
これは、すぐに開封しないといけないもの。

さて、何が売れたかな。
ほぅ、ひまわりモチーフのだ。冬に珍しい。


購入者のプロフィールを、チェックする。
たとえ、買い専でほとんど書いてなかったとしても、そのペンネームやお気に入りに登録してあるもので、好みや狙いがわかるからだ。

どうやら、男性じゃないかな。珍しい。
ということは、プレゼントかな。



私は、ハンドメイドアクセサリー屋。
ネットで作品を販売している。

流行りのデザインを量産して利益重視は、しない。
ご要望に合わせ、一点ものを作るスタイルだ。

ネット販売は、顔を合わせない接客だ。
文字だけで作者を信用して、納得いく買い物をしてもらうために決めていることがある。

デジタルに頼らず、できる限り血の通ったやり取りをすること。たとえ、手間がかかっても。
何十万店がひしめくネットショップ界で、この人なら大丈夫と思ってほしくて。



「初めまして、こんにちは。お選びいただき、ありがとうございます。ひまわりモチーフをご指定ですが、どのようなアクセサリーに仕上げるか、ご希望、お考えがありましたら教えていただけますでしょうか。」

まずは挨拶と、定型な文で出方を伺う。


返信は、すぐに来た。
これは律儀な方と、思われる。

「初めまして、よろしくお願い致します。
彼女が、ひまわりが好きなので、これなら気に入ってくれるのではと思いました。プレゼントにしたいのですが、何にするのがいいでしょうか。ご提案くださると助かります。」

きちんとした文章だ。
実はなかなかここまで書いてきてくれる人は、少ないものだ。
しかも、やはりプレゼント。
これは俄然気合いが入る。責任重大だ。

「プレゼントとのこと、かしこまりました。
お選びくださったひまわりは、大ぶりでゴールドに光り輝く、存在感あるものです。
それを活かして、寒くなってくる時期ですので、ストールピン、カーディガンとめとしてお使いいただけるピンブローチか、ヘアゴムやヘアピンにするのはいかがでしょうか?」

「それでは、ピンブローチでお願いします。」

「はい。
そうしますと、ひまわりだけでなく、チャームやビーズにて少し飾りがつけられます。
あまり多くても、うるさい印象になりますが、ひまわりから連想して、太陽のチャームとパール・ゴールドビーズで光を表現するか、雲と葉のチャームで自然界を表現すると違和感ないかと思います。
試しに置いたイメージを写真で送ります。」


私は、ひまわりの逆側に、ひまわりを好む女性を想像して、太陽と光線を散らしたようなモチーフを一つ組んでみる。上を向いて生きる、芯のあるイメージ。

もう一つは、風にゆったり浮かぶ雲と、そよぐ葉、青空色のビーズを組む。広い草原で、伸びをする気持ち良さそうなイメージ。


写真を撮って送る。
あなたの大事な方の、心をとらえそうな組み合わせがありますか?

「いいですね。どちらもきれいです。
彼女は、太陽のように明るいんです。そして自然が好きなので、久しぶりにピクニックに行ったところです。」

とても彼女のことを理解し、大切にしていることが、その一文から伝わってくる。


「そのお話を、そのまま使いましょう。
太陽と葉が茂るチャームに青空ビーズを合わせてみました。」

2人が見たであろう、太陽に青空、風に葉が揺れるようにチャームを置き換えて、写真を再び送る。


「これなら、彼女にぴったり合うと思います。
あの日に戻ったようです。
これで、製作をお願い致します。」

返信は、やはり早かった。
良かった。私は胸をなでおろす。
そして、こんなに好みをわかっている2人の信頼関係に感嘆する。



すぐに製作に取り掛かった。
そして、接着もしっかりした翌日、私はサテンの白と緑の2本のリボンでラッピングをした。
さわやかな2人を思い浮かべて。

さらに手書きで、メッセージカードを添える。
“素敵な時間をお過ごしいただけますように”

小さな手提げ紙袋を、おまけに封筒に忍ばせて、配送した。

そして、配送完了メールを送る。
いつも通りの、早い返信が来た。

「迅速なご対応、ありがとうございます。
到着を楽しみにしてます。」



贈る人と、その間を繋ぎたい私。
想いを込めた荷物が、空を渡っていく。

喜んでくれると、いいな。
そう願う私達の、内緒の企み。



数日後、レビューが届いた。
星は五つ、つけてもらえた。
「丁寧で、いろいろご配慮いただきました。彼女は、とても気に入ってくれました。また機会があれば、よろしくお願い致します。」

ああ、良かった。
心からそう思う瞬間だ。


そのとき、メッセージが届いた。
その男性からだった。

「また2人でひまわりが見に行ける日まで、彼女のカーディガンに使わせていただきます。」


写真が、ついていた。

合わせたカーディガンに光る、ひまわり。
そこに添えられた、細い女性の手。

背景に写るのは、おそらく病院のベッドのてすり。

窓辺で差し込む光を浴びているだろう2人が、その写真を、私に送るために写してくれたのだろう。
きっと柔らかい風を、まといながら。



私は、一点ものを作るハンドメイド屋。
たった1人のあなたや、あなたの大切な人へ、ありったけの思いを込めて、お作りします。



           +

これは、こちらの才の祭の小説部門のために書きました。2作目です。あと少しで、ほんの少しで100作の大台なので、急いでみました。どうかな、もう超えたかな?

どちらにせよ、大変盛り上がってきましたね!
もう実力ある有名な方が揃っております。
それを読むだけでも、ワクワクします。

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