見出し画像

冷酷

ロンドンから台湾へ帰国してからいつのまに四つの満ち欠けが過ぎた。母の元へ戻り、一緒に生活するのは高校生ぶり。私たちは親子というより友達という感覚で接している。これまでは母の仕事と私のオンライン授業で、一緒に落ち着いて食事や八百屋さん以外の場所へお出かけする機会は二、三回しかないまま、ついに台湾も一日の感染者数が3桁になって来たので外出を最小限控えるようになった。

六月に入り、ふと台所にある、マスが閑地のようなカレンダーに母のくずした字で遺書と書いてあるのに気づくと、その一瞬で心がズンと沈み、そんな文字が堂々と書いてあるほど母は不用心ではないことや、くずし字が他の漢字である可能性が思考回路にないまま、二文字の前に立ち尽す。隠してる病気はないはずだけど念のため母にどうしたか聞いたら、「それは返書(中国語では本を返却する意味)だよ、図書館へ返しに行かなきゃ」とのこと。私がボソッと「遺書かと思って焦った…」と安堵の気持ちを漏らすと「心配してくれたの〜?」とハグされた。

とある日、イギリス在住の友達からの質問が興味深くて、考えさせられたので一部ここに書き留めておこうと思う。
友「素朴な質問いい?自分と同じ人間と友達になれる?」
私「それは今の私と全く同じ考えや経験のある、コピペの自分?それとも自分のような人に出会って仲良くしていく感じ?」
友「自分の分身とまでは行かないけど」「うーん、性格が全く一緒」
私「性格が同じだけど赤の他人?」
友「うーん、そうだね」
私「うーむ、無理かも」「ツンツンしすぎ」
友「なるほどなるほど」
私「お互いに補えられないと親交できなさそう」「友は?」
友「絶対無理」「友達になる・仲良くできる理由が一つも思い浮かばなかった」「これって自分が見る自分の印象が悪いってことなんだよね」「ってことは自分が嫌」「ってことは、i need to change」「でもどこが嫌なのかがわからない」
私「自分にしか見えない姿と社交の姿が重なり合わないってことね」「必ずしも社交の姿がいいとは言ってない、けど確かなのは内面の姿だけで語ると不満」
友「そうやね」
私「自分のどこが嫌なのかわからないのなら、他人の嫌なとこを自分に照らし合わせてみるとか」
友「あーね」「当てはめるのね、自分はこうかな?って」
私「そそそ」
私「私も自分のような人と仲良くする理由を考えてみた」「感情深い点では仲良くする価値があると思った」「広く浅くってよりは狭く深く」
友「なんか凄い」「自分のこと理解してる」
私「直感的に仲良くできないなって人は最初から避けるというか」「時間をかけない」「というか大丈夫?友?」
友「なるほどなるほど」「大丈夫大丈夫」「i was just self reflecting」「asking myself 'do i like myself'」
私「Being philosophical」
友「どうみられてるんだろうとか」「多分、自分が嫌いなんだよね」
私「その答えは手紙に書いてある」「でも一生付き合ってく存在だから仲良くしていかなきゃ」
友「!!!!」「確かに!!」

この会話の二日後に手紙が無事届き

友(届いた手紙と自撮り)「ありがとう!!」「マジで感動した。今ちょっと、私ぴえん状態だったから、タイムリー過ぎて感動した。」
私「ひん、、」「届いてよかった」

有意義な質問をありがとう、友よ。そのあとも色んな前提を置き換えて考えてみた。『100の思考実験』という本をちょうど最近読んでいて、疑問に思わない問題をひっくり返したり、想像力を駆使した例え話を用いったり、どこまで考えられるかを実験するのだが、普段の生活に取り入れるとなかなか面白くて、外出できない今にもってこいの時間つぶしだ。

紫陽花の花言葉は冷酷、移り気。今の私と同じ。母に怖そうな顔してると言われたり、強気に見せようとしたり、思わず口調が冷たくなったり。推してるK-POPグループが大好きなハリウッドスターから認知されて、めでたいはずなのに、素直に喜べなかった、嫉妬という名のモヤモヤができたり。ここ数週間の気分の上下は激しく、認めて欲しい、もっと注目して欲しい、とかで不安と自信のなさで逆に強がっています。自分で自分の機嫌とってあげなきゃ、つやつやのガラスの指輪をはめて、涙堂にグリッター数個散りばめて、なんとか社交の姿は大丈夫に見えてるようにしたはずなのに。ツンツンはばらの棘みたいに身を守るためなのかな。余裕がなくて、怖そうな顔してるって言われちゃった。

寝る前は毎日母とハグをしている。でもここ最近何回か、全然愛のこもっていないハグをしてしまって、多分バレてるのかもしれないけど、そこで母が何を言ったって、実質何も変えられないのを知っているから、だから、母のような余裕のある人になりたい。余裕のある人は強がらないし、大丈夫だと見えるようにしない。これって愛嬌なのかな、って思ったり。

怖い告白をする勇気をくれたのはこの方。ありがとう。会ったこと、ないけど、会える日がきっとやってくるから、伝えたい言葉はその時に。


この記事が参加している募集

noteでよかったこと

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?