見出し画像

中国新聞連載「この働き方大丈夫?」が本に。刊行に寄せて、作家雨宮処凛さんらがメッセージ

 働く人たちの生の声から職場の今を見つめた中国新聞くらし面の連載記事が、書籍「この働き方大丈夫?」として刊行されました。

画像3

中国新聞くらし面連載「この働き方大丈夫?」はコチラから

 連載は2020年の貧困ジャーナリズム賞を受賞。バブル崩壊後の就職氷河期という「貧乏くじ」を引いた世代の嘆きや、「活躍」の大号令の下で仕事と家事、育児に追われる女性たちのため息など、働き手の本音を収録しています。A5判オールカラー、248ページ。集広舎刊。1540円。全国の主要書店などで販売しています。

 刊行に寄せて、働き方のひずみや格差、貧困の問題に詳しい作家の雨宮処凜さんと、NPO法人「POSSE」代表の今野晴貴さん(いずれも東京)にメッセージをもらいました。

刊行に寄せて 作家 雨宮処凛さん 

雨宮処凛さん

 「家賃を払えずシェアハウスを追い出されてしまいました」「所持金も尽き、頼る人もおらず、どうしていいかわかりません」「もう自殺するしかないでしょうか」。これらは、コロナ不況で仕事を失った女性たちから聞いた声だ。
 同じように本書では、非正規労働者や女性、高齢者など様々な働き手からこの国の現実が語られる。
 女性の生きづらさは、コロナで一層、顕在化した。野村総合研究所の試算によると、2021年2月時点で「実質失業者」の女性は103万人に上る。困窮者支援の現場でも、女性の姿が目立つ。コロナ以前は路上生活をする中高年男性を中心に数十人が並んだ都内の炊き出しには、今や300人以上が並び、若い女性やカップル、高齢女性の姿も珍しくなくなった。
 リーマン・ショックの年に東京・日比谷公園であった「年越し派遣村」を訪れた505人のうち女性はわずか5人。この13年で、日本社会からは「女性を守る余力」までもが失われたことをコロナ禍はあらわにしたことになる。
 だけど、「何かあれば」こうなることは目に見えていたはずだ。女性の非正規雇用率は5割以上。非正規の女性の平均年収は152万円(国税庁調べ)で、これでは貯金もままならないからだ。
 雇用がぐらつく今、本書に登場する私と同じ就職氷河期世代の人たちの悲鳴がより切迫感を持つ。正社員でも、時に「子あり」「子なし」で対立させられてしまう女性たち。「女性活躍」と盛んにあおられる中でつぶやいた「輝け輝けってホタルじゃないんだから」という言葉には思わず吹き出した。
 シニアも「老後資金」という不安にあえいでいる。次男が介護職員という母親の「私は90歳まで働き続けます」という言葉は立派だが、他国の人からはそんな日本の現実を「老人虐待」と指摘されることもある。
 なんだか「どの世代も大変」な現実に心が折れそうになるが、それでも本書には「みんなが幸せになる働き方」のヒントが詰まっている。いま一度、働き方と生き方を見直すためにも、ぜひ、多くの人に読まれてほしい。

 あまみや・かりん 1975年、北海道滝川市生まれ。作家。フリーターなどを経て2006年から貧困問題に取り組み、「生きさせろ!難民化する若者たち」で日本ジャーナリスト会議賞。「コロナ禍、貧困の記録」など著書多数。


刊行に寄せて NPO法人「POSSE」代表 今野晴貴さん

今野晴貴さん

 本書のベースになった中国新聞の連載「この働き方 大丈夫?」は2020年秋、貧困ジャーナリズム賞を受賞した。市民団体の反貧困ネットワーク(代表世話人・宇都宮健児元日弁連会長)が、貧困問題を巡る優れた報道に贈る賞だ。
 低賃金などにあえぐ非正規労働者の実情に迫っている。テーマはこのほか、副業やテレワーク、女性の働き方、パワーハラスメントの問題など多岐にわたる。労働・貧困問題の支援現場に身を置く私も日々接し、なじみのある問題ばかりなのだが、内容はとても新鮮に映る。
 それは一つ一つの問題について、さまざまな立場の人々の言葉を具体的に紹介しているからだ。それぞれの感じ方、立場の「違い」が描き出され、それをデータからも裏付けていく。だからだろう。多くの新たな気付きがあった。
 非正規で働く人たちの絶望感は大きい。頑張っても給与は正社員の3分の1しかもらえない。一方で、正社員も重い責任に苦しんでいる。退職代行サービスを利用して会社を去る若手社員、いきなり関係を断ち切られた管理職の憤り…。育休を取得しても育児に協力しない男性に、働く女性の不満は募る。新型コロナウイルス禍で就職難に直面した学生のやるせなさ、企業に雇われることに見切りをつけて自分らしい働き方を求める人たちにもクローズアップする。
 最近はやりの「多様な意見」を並べるだけのありきたりの書物とは一線を画していることも断っておこう。それは、社会の中で弱い立場にある人々のリアリティーを鮮明に捉えているからだ。
 特に女性や高齢者、そして若者が抱えるさまざまな困難がリアルに発せられている。今、この社会にどんな人たちがいて、何に悩んでいるのか。この社会のどこにゆがみがあるのかを知ることができる。
 シニア世代にとっては若者のことが、若者には中高年のことが、男女は今までよりも互いのことをもっと理解できるようになるだろう。一人一人が日本社会を生き抜くための「教科書」になると同時に、共生社会を実現するための手掛かりにもなるに違いない。

 こんの・はるき 1983年仙台市生まれ。一橋大大学院社会学研究科博士後期課程修了。2006年、NPO法人「POSSE」設立。年間5千件以上の労働・生活相談に関わる。著書「ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪」で大仏次郎論壇賞。
中国新聞くらし面連載「この働き方大丈夫?」はコチラから