宮仲太/『Knight Brothers』

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宮仲太/『Knight Brothers』

Twitterにて連載中の絵×小説のコラボ作品『Knight Brothers』のまとめです。ナンバリングのあるものが本編。 Art : たくみ/ Novel : 宮 仲太

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Knight Brothers まとめ

ご挨拶代わりに、記事の一覧を作りました。 記事が増えたら、リンクを増やしていきます。 Knight Brothers本編 001_誓い 002_女王の容 003_紳士の矜持 004_暗雲 005_追跡 006_夜半 007_奔れ 008_白面 009_王者の威風 010_代償 011_蜜月 012_女王の休日 013_夏の日の記憶 014_邂逅 015_陰影 016_蜘蛛の糸 017_驟雨 018_激情 019_慰め 020_貴方の為のセレナーデ 021_旅程 022_寸毫

    • 番外編:サミュエルの誕生日

       麗らかな春の陽光は、日増しに眩さを増していた。太陽の熱に浮かされた草花の香りが、風に乗って窓から優しい香りを運んでくる。  サミュエルは、午後の鍛錬を終えると、一人自室に戻っていた。非番とはいえ、鍛錬を欠かしては、ルシアの近衛としてお話にならない。いつ何時、彼女の身に何が起こるかわからないのだ。  サミュエルは、窓辺の鉢植えに水をやろうとして、ふと、机に置かれた見知らぬ封筒の存在に気がついた。  こんなもの、部屋を出るときにあっただろうか。  サミュエルは、内心訝しみながら

      • 026_疑惑

         鴉の鳴き声は、茜空の彼方に虚しく響いている。  重たい沈黙に、肺腑が灼けつくようだ。ハロルドの口から、何が語られるのだろうか。  サミュエルは、ごくりと生唾を飲んだ。  ザカライアは、叔父に懐いていたから、臣下には語らなかった何かがあるのかも知れない。  ハロルドは、深い溜息を零すと、静かにカップを置いた。 「この話は、まだ誰にも、聞かせたことはないんじゃがの。」  ハロルド、そう前置きして、祈るように手を組む。 「あれは、ザカライアが、病床に臥せっていた頃だ

        • 025_混迷

           晴れやかな青空は、歓楽から、悲鳴へと塗り替えられた。和やかな空気は一転し、競技場は、不穏なざわめきに包まれている。 「サミュエル、血が、血が……!」  衆目は、今やこちらに向けられていた。  数多の視線など、気にしている余裕はない。  ルシアは、零れ落ちる血を止めようと、懸命にサミュエルの傷口を押さえていた。  白いポケットチーフにはあっという間に朱の色が滲み、青い士官服の袖は、どす黒く染まっている。 「ルシア様、お召物が汚れてしまいますよ。」  サミュエルは

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        Knight Brothers まとめ

          024_追走

           エドワードは、人混みをかき分けて、強かに地面を蹴り続けていた。  眩いばかりの陽光が、煌びやかな帝都を照らし出している。道行く人達は、何事かとざわめきながら、こちらに視線を向けていた。  フードを被った人物は、そんなことはお構いなしに、器用に人波に乗って、狭い路地裏に身を投げる。  エドワードは、喰らいつくように、その背中を追いかけた。  大分距離は縮まったが、捕捉するには至らない。  随分と、逃げ足の速いことだ。  歩幅の広さといい、背格好といい、逃走者は、男性で間違いな

          023_長々し夜

           夜の闇を払うように、シャンデリアが煌めいている。華やかな室内楽に合わせ、眩い明かりの下、仮面を付けた人々が、くるくると輪を描く。異性の手を取る者もいれば、同性の手を取る者もいる。自由な空気が、大広間を覆い尽くしていた。  目眩く夜は、まだプレリュードに過ぎない。  その喧騒から離れた部屋の隅で、アンブローズは、ビロード張りの椅子に腰掛けて、ブランデーのグラスを傾けていた。 「アンブローズ様。あいつらに任せて、本当に大丈夫でしょうか? あの二人、相性が悪すぎはしませんか

          022_寸毫

           秋の蒼穹は、どこまでも高く、抜けるように澄み渡っている。吹き渡る風は、会場の熱気を乗せて、賑わいに花々の香りを添えていた。  皇帝の宮殿から程近いエヴォルツィオーンプラッツには、ブリッツベルグ有数の名工の設計によるパビリオンが、競うように並んでいる。  中央に聳える豪奢な時計塔は、この帝国博覧会の目玉だ。文字盤には三百枚以上の色ガラスがステンドグラスのように嵌め込まれ、日の光を浴びて、宝石のように煌めいている。機械仕掛けの時計塔の鐘楼は、時が来れば、荘厳な音色を響かせる

          番外編:ルシアの誕生日

           日が落ちて、夏の熱気は、幾分か和らいでいた。仄かな熱を残した月のない夜は、雲ひとつなく澄み渡っている。  ランプの明かりで煌々と照らされた部屋の中は、オレンジ色の光で溢れていた。慌ただしさから離れて、辺りは、水を打ったように静まり返っている。  ルシアは、煌びやかなドレスを脱いで、白いナイトドレスに着替えると、窓辺に設えられたソファーに、ゆったりと身体を預けた。  心地良さを通り越した疲労で、柔らかなビロードと身体が、今にもひとつになってしまいそうである。  ルシア

          番外編:ルシアの誕生日

          021_旅程

           滔々と流れていく雲間を縫って、飛行船は、一路、南へと舵を切る。隣国ポラーリアからブリッツベルグへ向かう空の旅は、列車よりも早く過ぎていく。  雲が糸のようにたなびくさまを、ルシアは、飽きもせずに眺めていた。  きっと、手の届きそうな青空が、物珍しいのだろう。  エドワードは、それを微笑ましく見守りながら、次の外遊先の日程を確認していた。 「久し振りのポラーリアは、楽しかったわ。伯父様達も、元気そうだったし。そういえば、初めて行ったときも、あなた達と一緒だったのよね。

          020_貴方の為のセレナーデ

           澄み渡る蒼穹が、眩い夏の日を彩っていた、湧きあがる入道雲の向こう側で、晩夏の陽光は、地面に影を落としている。  夏の盛りを過ぎた王宮の裏庭には、心地よい風が吹いていた。  草花の薫香は、夏の熱気で、ふわりと立ち上っている。  木陰に設えられたティーテーブルに着いたルシアは、緑の香りを深く吸い込んだ。  まだ、彼女は、これから起こることを知らない。  ルシアに気取られないように、サミュエルは、幹の太い木の後ろから、ルシアとエドワードの動静を見守っていた。 「サミュ

          020_貴方の為のセレナーデ

          番外編:満月の夜に

           それは、華やかな、四月の夜だった。豪奢なシャンデリアは、広々としたボールルームを、真昼のように眩く照らしている。集った男女は、この日のために、めいめい艶やかに着飾っていた。  ジュピテール伯爵家のタウンハウスは、和やかな喧騒に包まれている。  ウォルターは、賑やかさに身を委ねながら、幼馴染の姿を探していた。せっかく招待してくれたのだから、始まる前に、懐かしい友の顔を拝んでおきたい。 「ウォルター、よく来てくれたね。」  赤茶けた髪をふわりとまとめた紳士が、人群れの中

          番外編:満月の夜に

          019_慰め

           群青の空に、入道雲が柔らかさを添えている。夏の日差しは、すこしずつ穏やかになって来ていた。  ヴェラでの二週間の休暇は、ルシアにとって、胸の奥に深い爪痕を残したことだろう。  それでも、時間というものは、無常にも、あっけなく過ぎていく。秋の気配は、もう、すぐそこまで近づいて来ている。  エドワードが、騎士団長の執務室の扉を開くと、ウォルターが、いつものように細葉巻をふかしながら、迎えてくれた。 「報告書は読んだよ。陛下にとっては、悪い意味で忘れがたい休暇になってしま

          018_激情

           瀑布のような轟音を響かせながら、雨の雫が、夜を蹴りつける。  それに反するように、サミュエルの心は、燃え盛る業火に焼かれたようだった。  咳上げる怒りだけだ、この足を動かしている。  今頃、ルシアは、この雨のように、咽び泣いているだろう。純粋な彼女を傷つけた者を、野放しになど出来るものか。  ぬかるみに足を取られ、雨に視覚を奪われても尚、サミュエルは、厩舎に向けてひた走った。  この程度のことなど、こみ上げる激情の前には、障害ですらない。  サミュエルが厩舎を視

          017_驟雨

           鈍色の薄雲に、彼誰時の茜が滲む。夕焼けを吸い込んだ雲は、空にグラデーションを描いている。  あの日から、ルシアとサミュエルは、どこかぎくしゃくとしていた。  もう、一週間ほどになるだろうか。いつも軽口を叩き合っている二人にしては、珍しく長い期間だ。  出来ることなら何とかしたいところだが、思いのほか、問題の根は深そうである。  二人の間で器用に立ち回ることなど、自分が最も不得手とするところなのが悩ましい。  エドワードは、溜息を零しながら、ティーセット片手に樫の扉

          016_蜘蛛の糸

           欠け始めた深更の月明りは、青い影を、石畳に投げかけている。  昼間の熱気を残したヴェラの街は、故郷よりも緑の薫りが濃い。王家や諸侯がこぞってこの地に別荘を構える気持ちも、訪れてみればよく分かる。  アンブローズは、音を立てぬように、郊外にある瀟洒な邸宅の門をくぐった。 「待っていたよ、アンブローズ。」  玄関先に佇んでいた別荘の若き主人は、こちらを見て、嬉しそうに相好を崩した。  金糸の髪が、艶やかに揺れる。月の光を受けて、澄んだ碧眼が、星のように瞬いた。  彼

          015_陰影

           燦々と注ぐ眩い夏の陽光が、生い茂る芝生の薫りを、深く立ち上らせている。  先程までローンテニスに興じていたルシアとサウザンクロス侯バーナードは、庭園に設えられた東屋で、ゆったりとした時を過ごしていた。  晩餐会から数日、侯爵は、毎日足しげくルシアの元に通ってきている。  境遇の似たもの同士で、話が合うのだろう。ルシアも、彼の訪問を、心待ちにしている。  それが、喜ばしい変化であるのかは、まだ分からない。  サミュエルは、仲睦まじい若い二人を眺めながら、ちいさな嘆息