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【バリュエーション実務】WACC


はじめに

ファイナンスの分野においては、企業買収の際やベンチャー企業がエクイティファイナンスをする際において割引率に「WACC」が用いられる。
また、会計の分野においても、減損会計やPPA(Purchase Price Allocation)において割引率「WACC」が用いられる。

監査法人で勤務する公認会計士や証券会社の投資銀行部門にてM&A業務に従事する者で「WACC」という言葉を聞いたことがない者はいないであろう。
また、経理実務担当者、経営企画室などでよM&A業務の従事者、簿記で固定資産の減損会計を勉強をしたことがある人も「WACC」という言葉を聞いたことがある人も多いのではないのだろうか。

今回はWACCを算定したことのある実務経験はないが、WACCに関連する理論的な学習を一定程度終えている人を対象として、WACCがどのような情報で、どのようにWACCが計算されるのかを具体的なイメージを持ってもらうため、エクセル形式で実践的な方法で学んでもらうことを目的とする。
そのため、WACCやその前提となるCAPMの考え方についてはここでは触れないことにする。
WACCの概念やその前提となるCAPMの考え方については、多くの書籍に記載がされているため、そちらで学習をしていただきたい。

問題の前提

あなたは売上高が好調に伸びている中堅規模の総合商社(以下、"対象会社"とする。)の買収案件を担当することになり、対象会社の株式価値算定を担当することになった。DCF法で使用するWACCを算定してください。

前提条件

①算定基準日は2023年8月31日とする。

②部下がWACCの算定で必要になる算定基準日時点の類似企業の情報を金融情報ベンダーから取得した。類似会社の財務情報及び株価情報はExcelの"資本構成β""マーケット情報"タブを参照すること。
この情報を使用して、WACCのうち、アンレバードβ及び類似企業のD/Eレシオを算定をすること。
類似企業については類似企業の選定プロセスを経た結果、以下の企業とした。
・三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、丸紅、住友商事

③対象会社の最適資本構成は類似企業の資本構成に収束するとみなして、類似企業のD/Eレシオの平均値を使用することとする。
D/Eレシオについてはグロスデッドを採用する。

④対象会社の将来βを推測するにあたっては、ヒストリカルβを使用することととし、類似企業のアンレバードβの平均値を使用すること。

⑤対象会社のβをアンレバー・リレバーする際には、日本公認会計協会の経営研究調査会研究報告第 32 号「企業価値評価ガイドライン」に記載のある以下の公式を使用することとした。
レバードβ=(1+(1-税率)×D/E) × アンレバードβ
また、レバードβをアンレバーする際には、類似会社の算定基準日における資本構成を使用すること。

⑥税率については、30.62%を使用すること。

⑦エクイティリスクプレミアム(ERP)は、「6%」を採用した。

⑧サイズリスクプレミアム(SRP)は、「3%」を採用した。

⑨リスクフリーレートは、財務省のHPから取得した算定基準日時点の日本の10年物国債利回りを使用すること。

⑩負債コストについては、日本銀行のHPから取得できるみずほ銀行の長期プライムレートを使用すること。(算定基準日時点に最も近い日付のものを使用。)

問題及び解答例

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