デザイン会社ディレクター視点の選書について(その1)

今日までの記事では、言葉の表情に意識を向けることDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)を活用するための選書本棚課題へ向き合う時の言語化/概念化について主にお話してきました。本を読むことを企業で活かすためにはどうすれば良いのか、という視点で考えてきましたが、選書本棚を活用するってどういうこと?とそもそも疑問に思われている方も多いはずです。

社員が興味を持っている本を持ち寄って集めたものではいけないのか?社長や上司が部下にオススメする本を本棚に詰めていけば良いのでは?という意見が出るのは尤もです。また、それでも究極的には良いと思います。

そこで、あえてお伝えしたいのが「選書本棚」としての良さについてです。これは、デザイン会社のディレクターの視点が入っているとも言えますが、自社のコーポレートサイトを自社でデザイン、ディレクションしないことが多い、ということと同義かもしれません。(もちろん自社でディレクション〜制作を完結する会社もあることは念頭に置いて)この場合、つまり自社のコーポレートサイトを自社でディレクションしないことのメリットは、もちろん社内リソースを自社の事業に専念させられることや、専門的知識を有している人間がいないため専門家の力を借りる、ということもありますが、一番はやはり、自社のことを客観的に見られる人に形作ってもらうことです。

自社の強みが、外部のデザインファームや戦略会社からヒアリングされることによって見出されることと同じ現象が選書にも言えます。まさに選書本棚を作る際にも、お客様へのヒアリングから始まり、自社の強みや特徴、または今後の方針、課題点といったことまで幅広く伺います。そこから見えてくるその会社の雰囲気(社風とも表されます)を感じ取り、目的に応じて一冊ずつ本を選ぶ作業が始まるのです。企業が選書本棚を作る目的は、さまざまです。社員への福利厚生や勉強機会を持ってもらうため、または会社にいらしてくれたお客様に、自社の理念をそこはかとなく本の集合体で伝えるため、会社が新しいことを始める時に、社員一人ひとりに新しい意識を持ってもらうため。等々。


無印良品で有名な株式会社良品計画が、選書本棚ではありませんが、一冊の本を通して、無印良品がめざす世界像を世界に発信した『素手時然』(「そしゅじねん」と読みます)があります。ここには、無印良品がどのような考え、方向性を持って進んでいるのかを、さまざまな本を通して知ることができ、その本から抜粋された文章を読むことができます。ここから私たちは、本の集合体・本から選ばれた文章の集合体、によって、株式会社良品計画の佇まいや品格を感じ取ることができるのです。それだけではなく、株式会社良品計画が抱いている疑問や違和感なども見出す場合もあるでしょう。
株式会社日本デザインセンターのwebサイトより、写真・テキスト参照)

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この『素手時然』を本棚で表現したものがある一つの答えとしての「選書本棚」です。会社の特徴や事業内容を知ってもらうためには、まずはコーポレートサイトや会社案内のパンフレットが読まれるべきですが、その会社に内包されている考え方や価値観、違和感、疑問などの、所謂“雰囲気”や“姿勢”といったものをビジュアルのデザイン以外で伝える方法が上記の無印良品のような方法です。『素手時然』は、無印良品以外の方々に読んでもらうことはもちろんのこと、社員に対しても読んでもらいたい一冊なのではないかと思います。

このように、「選書本棚」と言っても用途、目的は多種に及びます。次回の記事では、今回大まかにご紹介した選書本棚の活用方法について、主にデザイン会社のディレクター視点からもう少しお伝えしたいと思います。


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