「精神疾患」は身近に存在している

前回の「精神科病院の医事課員のオススメ」から、少しご無沙汰していました。というのも、コロナによる影響が公私共に徐々に緩和されてきて、世の中が少しずつ動き始めたおかげで、noteを書く時間が上手く作れませんでした。勉強会や地域の行事などもポツポツ再開し始め、オンラインだけではなくFace to Faceの機会も増えてきました。

そんな中で、精神疾患に対しても「これから増加する」と予想されており、現に当院でも、新患や入院患者が増えつつあります。あくまでも当院に限っての話ですが、疾患ごとの偏りがある訳ではなく、うつ病も統合失調症もアルコール依存症も発達障害も認知症も、全体的に増えています。私個人の考えでは、地震などの罹災後しばらくして精神疾患にかかる人が増える状況に似ているように感じています。

また、よく「梅雨だから気分が滅入る」的な事を言われるためか、梅雨時期は患者が増えると考えられがちですが、経験則として、雨が降ると患者数は少ない傾向があります。夜勤に入る時「今日は雨だから患者さん少なそうだね」みたいな会話もされるくらいですし、以前当院に勤務していたDr.は「晴れの日の方が細胞が活性化されて発症しやすくなる」と話していました(真偽のほどは分かりませんが…)。

とはいえ、まだまだ「自分は精神疾患とは無縁だ」と考えている人はたくさんいます。逆に、身近に感じている人は圧倒的に少ないと思います。今日は、精神疾患との距離感がどれくらいなのかをお話しします。

・数字で見る精神疾患

下のグラフは、厚生労働省からお借りしました。

データ自体は少し古めですが、ご覧の通り、約392万人が精神疾患に罹患しています。ピンと来づらいかもしれませんが、日本の人口を1億2000万人としたら、約30人に1人は何かしらの精神疾患にかかっていることになります。学校で例えるならクラスで1人、大人数の某人気アイドルグループなら1~2人は罹患者がいる計算になります(先に言っておきますが「必ずいる」という事を言いたい訳ではありません)。

何が言いたいかというと、「それくらい日常生活でどこにでもいる」ということです。それでもあまりそう感じていないのは、罹患者が隠しているのか、見て見ぬふりをしているのか、「木を見て森を見ず」の逆で森ばかり見て木が見えていないのか、それは私の知る所ではありませんが、いずれにせよ「存在に気付いていない」のです。

・私の周辺の話

では、自身の周辺はどうなのかと見渡すと、思った以上にたくさんいるんです。現在進行形だけでなく、過去のものも入れています。

・小学校の同級生(数人)
・小中高の同級生
・小中高の先輩
・元彼女
・大学の同級生(当院の元患者)
・大学の先輩(当院の患者)
・大学の後輩の祖母(当院の患者)
・自宅の近所(隣と逆側の向かい隣)に2人(どちらも当院の患者)
・前職の職員(当院の患者)
・前々職の時の知人(当院の元患者)

ざっと思い出しただけでも、これくらい挙がります。もっと時間をかければ、多分まだ出てくると思います。要は「それくらい周りにいる」って事です。上記の様な書き方だと「精神科病院の職員だから『世間は狭い』的な話だろ」と思うかもしれませんが、自身の周辺で交通事故にあった人数より少ないですよ。今の仕事は公共交通機関で通勤していますが、そこで友人・知人にばったり会った回数より少ないですよ(友達は決して多くないので、そこは突っ込まないでください…)。比較するものではないかもしれませんが、ある程度の目安にはなるかと思います。

・自分自身の話

私自身は精神科にかかったことはありません。でも今になって振り返ると、「あの時はそうだったのかもな」と感じる所もあります。

前職の時に、時間帯によっては職場で1人だったので、本当は外出予定だったけどやる気が出ないので行かずに、椅子を並べてずっと寝ていた事があります。「たまたまその日は」ではなく、それが1ヶ月以上続いていて、結婚を機に退職するまでずっとでした。営業的な仕事だったのでその姿を見られることは無く、数字はそれなりに出ていた(良いとは言えませんが)ので、運良くバレずに済みました(バレたらもちろんクビですね…)。

結婚したばかりや子どもが小さかった頃は、意見や価値観のすれ違いも度々あり、ストレスいっぱいだったように思います。ある日、忘年会に参加する・しないで喧嘩になりました。その時なぜか「自分が居なくなれば良い」という思考の結論に達し、気が付けば出血する程に壁に頭をぶつけていました。妻にすぐに止められましたが、その時の感情は言い表せない程にボロボロでした。

このエピソードからすれば、受診していればおそらく「うつ病」と診断されたでしょう。自殺企図までには至らず、その後はそこまで感情が揺れ動く事もほとんど無かったように思います。

程度の差はあるでしょうが、誰でも「今思えばあの時…」という過去はあるのではないでしょうか。ひょっとしたら、今まさにそういう状況の人もいるかもしれません。

そんな時は、精神科病院の職員からすれば「受診した方が良いですよ」なんですが、以前「精神科は『受診するまで』が難しい」でも書いた通り、最初の1歩は踏み出しづらいと思います。受診が難しいなら、身近にいる頼れる人や心開ける人に相談しましょう。話をするのでも手紙を書くのでもどちらでも良いと思います。言葉に表すだけで、少し楽になり、ちょっと違った視点が持てると思います。私の場合は、それが妻でした。感情全開で話したので、その後しばらくは温度差を感じる事もありましたが、今は何とかうまくいっています。

コロナ収束が見えない中で、自身も含めて多くの人が、何となく心がギスギスしているように感じています。「皆仲良くしようぜ!」なんて不可能な事は言いません。でも、感情を露にする前に、一呼吸置いてから伝達してはどうでしょう。事を荒立てるより、嫌な事からは離れた方が得策ですし、心の健康は保たれるように思います。

どうか皆さんが、穏やかで健やかな日常が送れるように、自戒を込めてボンヤリと祈っておきます。

ありがとうございますm(_ _)m精神科の風評向上のために使わせていただきます。