孤独の中からぬくもりを~「ひと」という小説に泣く
「母が、亡くなったんです・・・」
絞り出すような声を聴いて、衝撃を受けた。
席を立って、彼女を抱きかかえるようにして廊下へ出た。
あおちゃん、と呼んでいたアルバイトさんは苦しい状況で働いていた。
お母さんは看護師だけど闘病中で、お父さんはケガをしてから働こうとせずにぶらぶらしている。
郷里には弟さんがいて、仕送りもしているという。
「周りのバイトさんを見て、どうして私だけこんなに大変なの・・・って思うことがあります」
そう聞いてうなずいたこともあった。
会社のバイトさんはしっかりした子が多いけれど、あおちゃんはその中でも責任感が強く、まじめにコツコツと仕事をしていた。ほかの子に指導もしてくれていた。
闘病中だったお母さんが突然亡くなり、郷里に帰るかどうか悩んでいたあおちゃん。帰っても仕事がないからと、働き続けてくれた。
うちのバイトは契約社員の扱いで、普通のバイトより待遇がよかったのだ。
少しして私は異動になって、少しあおちゃんから離れてしまった。でも任期が終わるまで勤め上げてくれ、次の就職もちゃんと決めていた。
最後にランチをしたとき、
「つらいなと思うこともありますけど、仕方ないなと思って」
ふっと寂しく笑う。
あおちゃんは作家を目指していた。
「あなたは人の気持ちがわかる人になれるから、もうなっているから、大丈夫」
励ました、けれど、何もできなかった。
私自身は親にお金を出してもらった自宅生で、のほほんとした大学生活だった。本当にわかってあげたとはいえない。
両親を亡くして、一人残された青年
両親を亡くして、大学を中退した秋という青年が重なる。
一人暮らしで、お金を倹約しながら生活していて明日も見えない。
でもお肉屋さんで残った最後のコロッケを譲ったことから、秋の人生がゆっくりと動いていく。
不器用で、一歩前に出るよりは一歩下がってしまうような、秋。
こいつはいいやつだな、と思う。でもなかなかわかってもらえないだろうな、とも思う。 地味で、静かで、言葉少なで。
運が悪いとか、不幸とか、あるかもしれない。でも君なら応援したくなる。
私もあなたを好きになった。人が良すぎるのがちょっと心配だけど。
あおちゃんと、秋。
どちらも応援したい。応援している。
2人とも、思い浮かべるとなんだか涙がにじみ出てくる。
「ひと」は2019年の本屋大賞2位になった作品。
でも私は1位になった「そして、バトンは渡された」よりもこの作品の方がずっと好き。リアルで、心が温かく満たされた。
今月、文庫本になったので、紹介します。
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