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パンチドランカーになるとどうなるのか?

みなさんは、頭部に強い衝撃を繰り返し受けることで発症するパンチドランカーという症状をご存知でしょうか?

イラストAC (https://www.ac-illust.com/)

パンチドランカーになると、身体の震えや吃音、鬱、認知障害といった症状が現れ、頭部へダメージが集中する格闘技、特にボクシング選手の発症が多いとされています。

今回は、格闘技とは切っても切れない症状、パンチドランカーについて解説します。

【要因】

パンチドランカーは慢性外傷性脳症と言い、記憶障害や認知機能の低下が現れる神経変性疾患です。

格闘技以外にも、アメリカンフットボールやアイスホッケーといった接触が多いコンタクトスポーツで発症が確認されています。

一般的には、頭部に強い衝撃を繰り返し受けることがパンチドランカーの危険因子になると考えられています。

パンチドランカーについては、格闘技、とりわけボクシング選手の発症が多いです。

これはボクシングが他の競技と比べて頭部へのダメージが多いためです。

ボクシングはルール的に頭部へダメージが集中しやすい構造となっており、試合時間も長いため他の格闘技よりダメージが蓄積しやすい競技です。

ある研究では、ボクシングをはじめて15年後ぐらいにパンチドランカーを発症する選手が多く、ボクサーの約20%が罹患しているといったデータもあります(※あくまでデータの一つです)。

2015年には、クリーブランド・クリニックを中心とした研究グループが「ボクサーの脳容量は総合格闘家よりも小さい」とのデータを発表しました。

【症状】

パンチドランカーの主な症状として、身体の震えや吃音、認知障害などが挙げられます。

こちらが具体的な症状です。

頭痛、痺れ、身体の震え、吃音、バランス感覚の喪失、記憶障害を含む認知障害、攻撃性や被害妄想といった人格変化。

パンチドランカーは認知症のような症状を呈するため、社会生活だけでなく、日常生活にも大きな支障をきたします。

重症度については、主に4段階のステージが設定されています。

ステージ1 頭痛
ステージ2 鬱、攻撃性、怒り、短期間の記憶障害
ステージ3 認知障害
ステージ4 本格的な認知症、パーキンソン病(体の震え、歩行障害)

パンチドランカーが疑われる格闘技選手には、モハメド・アリ(ボクシング)、シュガー・レイ・ロビンソン(ボクシング)、高橋ナオト(ボクシング)、マイク・ベルナルド(K‐1)、ゲーリー・グッドリッジ(K‐1)など数多くいます。

モハメド・アリ

晩年のモハメド・アリはパーキンソン病に苦しみ、シュガー・レイ・ロビンソンはアルツハイマー病を発症、マイク・ベルナルドはうつ病が原因とされる自殺により、亡くなっています。

シュガー・レイ・ロビンソン

【予防策】

先に述べたように、パンチドランカーになる主な要因は「頭部に強い衝撃を繰り返し受けること」です。

慢性的な衝撃を受け続けることで、脳細胞が速いスピードで死んでいきます。

そのため、最大の予防策は「脳にダメージを与えないこと」です。

競技者としてのキャリアが長期に渡る人や、激しいファイトを特徴とした格闘技選手は特に注意が必要です。

格闘技選手であれば、ディフェンスを徹底し、スパーリングでヘッドギアを着用する、ヘッドギアを着用しないのであれば、全力で顔面を攻撃しない、といった対策が求められます。

また、試合後には必ず脳の検査を受け、ノックアウトされた場合は激しいスパーリングを避け、試合間隔を長期間空ける、といった心構えも大切です。

格闘技医学会が作成した、11項目からなるパンチドランカーチェックリストというものがあります。

①物忘れが目立つ
②集中力が落ちてきた
③感情的になりやすい、冷静さを欠く
④相手の動きに対して反応が鈍くなっている
⑤バランスの低下を感じる
⑥手先が不器用になっている
⑦手足の震えを感じる
⑧頭痛がある
⑨視力低下や物の見づらさを感じる
⑩呂律が回りづらくなっている
⑪相手の軽い攻撃でもダウンしてしまう

何か引っかかるものがあれば、医療機関の受診を検討してください。

脳のダメージで恐いのは、外からでは脳の中で本当は何が起きているのか正確に察知できないことです。

選手がダウンして脳にダメージを負った際、それが軽い脳震盪なのか、急性硬膜下血腫なのか、外傷性クモ膜下出血なのか、すぐに判別できません。

実際に、ダウン後はすぐに意識が戻った一方で、試合後に控室に戻ると意識を失い、急性硬膜下血腫や脳出血を起こしていたケースも発生しています。

最悪の場合、試合から数日後に亡くなるケースも出ています。

「セカンドインパクトシンドローム」というものがあります。

これは、頭部への最初の衝撃で脳震盪を起こし、その後、短期間に2度目の衝撃が加わることによって、重篤な症状を引き起こす症候群のことです。

脳震盪を起こすと脳細胞の代謝に変化が起き、細胞が脆弱な状態となります。

これが正常に戻る前に再び脳が衝撃を喰らうと、いっきに大量の脳細胞が壊れます。

短期間に2回以上、脳が強い衝撃を受けるのはかなり危険なのです。

【個人的な意見】

ここからは僕の考えになりますが、個人的には格闘技を観る側のリテラシーも大事だと思います。

派手で激しいファイトは観ていて面白いですが、一方でパンチドランカー含め選手には危険が伴っています。

プロである以上、選手は観客を楽しませるパフォーマンスを心がけるべきとは思いますが、その選手にも家族がおり、何より引退後の人生の方が長いです。

それらを考慮した上で、選手・観客双方が格闘技を楽しめたらいいな、と僕は思います。

また、格闘技の試合では、レフェリーが試合を止めるタイミングについて物議を醸すことがあります。

特にノックアウトで試合を止める場合において、ストップが早くても遅くても問題となります。

個人的には、選手のことを考えると、試合のストップは遅すぎるよりも早いに越したことはないと思っています(もちろん早すぎるのも問題ですが…)。

闘っている選手本人は、アドレナリンが出ており、闘争本能もあるため「自分はまだやれる」とアピールする場合がありますが、それを客観的な見地で止めるのがレフェリーやセコンドの役割だと僕は思います。

以上、パンチドランカーについて、解説しました。

YouTubeにも動画を投稿したのでぜひご覧ください🙇

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【参考文献】 『Dr. Fの格闘技医学 [第2版]』二重作拓也,秀和システム,2021年

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