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読書人間📚『自由の牢獄』ミヒャエル・エンデ/田村都志夫 訳



『自由の牢獄』ミヒャエル・エンデ/田村都志夫 訳


1994年 岩波書店刊行
2007年 第1刷発行
2021年 第9刷発行
定本『エンデ全集』岩波書店/第13巻(1996年)


ミヒャエル・エンデ
1929-95年。
南ドイツ・ガルミッシュ生まれ。



▶︎『遠い旅路の目的地』

__「わしは知っておる。わしもまた何かをさがしていた。昔のことじゃ。ずっと昔のことじゃ。でも忘れてしもうた。今では何もさがしておらん」____「人は生きねばならんー 死ぬことができなければ。何を望むか、ということじゃな。おまえさまは何をお望みか、御存知かな?」__

主人公は、軽薄どころか感情を持たない。何にも動揺することがない。だからこそ、人々が郷愁に浸る"故郷"を感じてみたかった知りたかった。
ある時見た絵画がそれを思わせるもので、主人公は金に糸目をつけず、手段を選ばず手に入れる。が、それは更なる幸福か、はたまた惨状の夢か。

エンデ文学とは"旅"をすること。
わたし達の人生は、忘れたくとも"それ"を探し続けていることを、エンデは容赦なく思い出させる。
エンデのイメージとは異なる非情な作品です。さては、これがエンデのリアルなのかもしれない。



▶︎『ボロメオ・コルミの通廊』ーホルヘ・ルイス・ボルヘスへのオマージュー
エンデの心象風景が、建築物の芸術性を読者に掻き立てる。緑の光の先には何があるのか?神が造った宇宙か。


▶︎『郊外の家』ー読者への手紙ー
ナチス時代を題材にした小説。この世の悪について、エンデらしい不可思議な精神世界で展開する。


▶︎『ちょっと小さいのはたしかですが』
イタリアを舞台に、奇想天外、魔術師のお話。惚れ薬の効果の程が気になりますね。誰かに服用させるのではなく、わたし自身が使ってみたい。誰かに惚れたい。



▶︎『ミスライムのカタコンベ』
不安と苦痛と絶望を感じさせない薬があったら、皆さんはそれを飲みますか?

__以前も以後もみんな忘れる。問いかけやあこがれもすっかり忘れるのだ。おお、そうだとも、みんな現状に満足している。思い出がなく、比べることができないのだからな。みんなに残されているのは個々の瞬間だけなんだ。奴隷状態以外を知らぬ奴隷はおとなしい奴隷だ。俘虜生活しか知らぬ俘虜は自由がないことに苦しまない。__

それは絶え間ない光から影へ逃げ込むこと。安楽と盲目の影が心地よいかもしれない。明るすぎる光から目をそらしたい時もある。しかし、意思を奪われることに耐えられるだろうか。
意思を持つことで発狂し、パニックを起こし、自傷する者、あまりの恐怖に意識を失う者もいるだろう。エンデはわたし達に今も問いかける。

メモ✍🏻 プラトンの『洞窟の比喩』も時間があれば合わせて読むのをおすすめ。



▶︎『夢世界の旅人マックス・ムトの手記』
抽象的で、そのままつるっと読むと難しい。でも、思えば夢世界の話。他人の夢がわかるわけがない。わたしも夢世界ならいくらでも旅を続けたい。


表題作
▶︎『自由の牢獄』ー 千十一夜の物語ー
人はそもそも自由だ。どの扉を選ぼうと、選ばなかろうと神が操れることではない。人間の意思で先のわからない扉を開け続けていく。
もしも不安にかられ、己の意思で選択することをやめてしまえば、そこは扉のない牢獄と化す。何も得ることも無ければ、満足に食べることもできない。しかし、それも己で選択したことならば、尚更、神は何も申すまい。


▶︎『道しるべの伝説』
2007年のあとがきに訳者、田村都志夫さんによると、エンデは、人と人との繋がり、自然との繋がりが途絶え、感動や共感、慈悲の心が薄らいで、心の世界が現代人から遠ざかっていくような危機感を覚えていたと言います。
直接、お話を伺えた田村さんが仰るなら、やはりそうなんでしょう。この作品は、エンデ自身の精神世界がより濃く描かれているのではとわたしも感じたくらいです。
でも、エンデ、大丈夫。最近何かで読んだ本には、これから世界は「心の時代」になっていくとありましたよ。
大変な時ですが、そう願って今を乗り切らなくてはですね。


エンデに興奮した小学生時、図書室に入りびたり貪るように『はてしない物語』を夢中で読んだもの。もしかすると、多少の影響がわたしの創作表現の人生にあったのだろうかと最近ふと思います。
と言っても、本書は児童小説ではありません。面白いと思われるかは、保証できません。
人間の心、精神世界に興味がある方はぜひ。

現代文庫版訳者あとがき(2007年7月)
解説 旅ノート /  田村都志夫


♟声、発声、機能を考える
ボイス・ボーカルレッスン/東京都 
歯科助手経験、音楽療法の観点からオーラルフレイル、口腔機能、老化防止を意識した呼吸法、発声のレッスンも行います。

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