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東大卒・無職、プロ奢ラレヤーに奢ってきました【更新50日目】

プロ奢ラレヤーに奢りに行こう

昨日の夕方、この方に会ってきました。

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ご存知の方もいらっしゃるかと思います。
人にご飯を奢られて生計を立てている、現代社会のトリックスターみたいな人物です。

いわゆるインフルエンサーの言動をリアルタイムで追うことを、ぼくは日常ほぼまったくしていないのですが、前々からこの人のことだけは追いかけていました。
きっかけはたしか実弟がTwitterで言及していたこと。
なるほど確かに面白そうな人だな、と思って過去ツイをさかのぼったりなんだったりするうちに、気づけばその摩訶不思議かつ唯一無二の面白さに、ぼくもすっかりしっかりハマりこんでおりました。

それで、昨日。
16時頃でした。いろいろ予定していたタスクをすっかり終え、さぁ時間ができたぼくは自由だ何をしようかな、ちょっと夕飯の買い物がてら近所のG.U.にでも行ってこようかな、とか考えながらTwitterを開いたら、ぷろおご氏のツイートが目に入ったのです。

ハッとしてしまいました。

実は前々から「奢ってみたい、実際に会って話してみたい」とは思っていたのですが、「まぁいつでもできるっちゃできるし、そのうちね、そのうち」という感じで先延ばしにしていたのです。
ほら、今はやることもあるし、家の片付けとか……なんて、いろいろエクスキューズしながら。

でも、このツイートを見たとき、はっきり思ってしまいました。「あ、今なんじゃないか、DMするタイミング?」と。
そして同時にわかりました。ああ、ぶっちゃけちょっと怖かったんだな、「奢らせてください」ってぷろおご氏に連絡するの、って。

なにしろぼくにとって彼は「彼方遠くのすごい人」であると同時に、恥ずかしながら一時期はコンプレックスの対象でもあったからです。
すごく深い哲学を持っていて(と書くと浅いけど)、文章も本当にうまくて、にもかかわらずますます上へ上へと昇っていて……。
こういうふうになりたいのになれないんだよな、とほぞを噛んだ時期があるのです。大学時代を思い出させる胸の痛み。

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迷ったすえ、結局ぶち込みました。
そしてその1分後、そんな迷い知ったことかと言わんばかりの、あっさりとした返信が返ってきました。

降って湧いたチャンス。手元にめぐってきたなら行くしかない。
返信を得てから30分後、高揚感と緊張の入り混じった気分を胸に、ぼくはコートをひっつかんで池袋に向かいました。

ちなみに今回の奢り、てっきり「2万円」が発生するものかと思いながら(あえて言及せず)申し出たのですが、それは求められませんでした。

東大を出たのに定職についていない人って、ぼくが思っている以上にレアなのかもしれません。
そして身をもって思いました、「レアリティと『その人が立派かどうか』って、別に比例するものでもなんでもないんだなぁ」と。

拍子抜けな待ち合わせ

プロフィールでも明言しているとおり、ぷろおご氏は倫理観とかプライドを採用していないがゆえ、奢られのアポにも普通に遅刻する人(だそう)です。

だからぼくは今回、けっこう強めに覚悟をして臨みました。
30分や1時間は平気で待たされるかもしれないし、そのかん連絡もないかもしれない。
あんまり待たされるのは得意なほうじゃないけど、明言されているからにはそれくらいありうることを織り込んで待とう……。

そして、

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え、早い。

逆に動揺しました。あ、普通に5分とか10分の遅延とかそんなもん??
いやまぁもちろん誤差はあると思うので、今回たまたまオンタイムに近い時間に来られただけ、という可能性は大いにありますが。ていうかそうだろうな。
なんにせよ、長期戦を覚悟して駅前の繁華街をぶらついていた矢先に早々と連絡が来たので、すっかり面食らってしまったのでした。

連絡があってから5分ほど。
おきまりの帽子・ポンチョ・草履という出で立ちで、彼は待ち合わせ場所に現れました。

ファーストコンタクト、そして「奢り」

「うっす」くらいの軽い挨拶ののち、さっそく移動します。場所は待ち合わせたポイントから至近の居酒屋。
ぼくも学生時代に通っていたことのあった(奢りの途中で気がついた)、なじみのあるチェーン店でした。
入店前、エレベーターの前で「何してる人だったっけ?」とプロフィールを再確認されたので、東大出て出版社に勤めたあと無職になった人です、と簡単に答えました。

店に入ってすぐ、注文もそこそこに本格的な会話が始まっていきます。
ぷろおご氏はごはんのためというより「他人の話を聞くため」に奢られている人なので、何を食べようだの飲もうだのは二の次です。
会話の焦点は「無職」に絞られました。無職で、お金なくて、今どうしてんの? この先どうしていくの?と。

実を言うと、ぼくは半年ほど前に、ぷろおご氏に「宣伝ツイート」をお願いしたことがありました。

会社を2回辞めたあと、ぼくはオンライン文章添削・執筆代行のサービスを自前で立ち上げ、それを売り出そうとしてネット上であれこれ画策してもがいていました。
その一環として、ぷろおご氏に広告をお願いしたのです。
ちなみに今もその事業は(ほんっっっとうに細々とですが)ぼちぼちと続けています。全然儲かってないけど。

「で、宣伝のあと仕事きた?」
「きましたよ、2件だけですけど。」
「だろうねー、文章儲かんないもんなー」

ウゥ、ぐうの音も出ない。
とはいえ、相手が相手なのでそうショックを受けたりすることもありません。

これが親戚の世話焼きなおじさんとかになると、「そんな儲からない仕事やってるからオメーはいつまで経ってもダメなんだよ、早く自立して就職せにゃ」なんて二の句を継ぎがちなもので、そうなればこっちもすっかり嫌になってしまうところです。
でもぷろおご氏はそのあたりの善悪や良し悪しの問題を本当に「どうでもいい」と思っている人物です(あとで振り返って感動したのですが、彼は今回の奢りの中で一回も「いい」「悪い」といった言葉を使っていませんでした。彼の人となりを多少知っていれば納得も納得なのですが、経験してみると不思議な感動がありました)。
それゆえ、彼の「儲かんないもん」は「だから云々」を含意しない純粋な「儲かんないもん」として響きます。
あとはまぁ、だいたい何を言うときもずっと半笑いだから、「詰められてる感」みたいなものが全然ない、というのもある。

そう、彼の言葉がきつく響くとすれば、その原因は必ず、聞く側のぼくに存在する……。
まさしく彼言うところの「合気道」だな、とつくづく思います。

「小説、書きたくないのでは?」

話は「無職、どうやって食っていくのか」に移っていきました。

ぼくは言いました。別にお金はそんなにいらないのだと。
月5〜6万円相当程度のそこそこまともなごはんが食べられて、そこそこの生活ニーズが満たせればいいんだと。
時給2500円くらいの仕事をこなして月収20万程度を確保して、余剰の時間でずっと書きたいと思っている小説を書く、そんな生活を手に入れられれば十分なのだ、と。

しかし、ぼくのこの言明に対して、ぷろおご氏は鋭い(ぼくにとってはきわめて耳に痛い)メスを入れてきます。

「月収4万ってことは、時間はまあ有り余ってる。『最低限必要』って言ってる食費分のお金はまぁ稼げてる。当面の生活にも困ってない。つまり書ける土台はめちゃくちゃある……でも書いてない。ってことはそれ、そもそも『小説書きたくない』ってことじゃないすか?

目ん玉が180度ひっくりかえって白目を剥くかと思いました。
いやだって、小説書きたいってずっと思ってるし、実際に条件が整ったら書くつもりだし、ぼくの中では筋は通ってるシナリオなんだけど……えっ??

「だって、食費6万円あればいいってんのに月20万円必要ってしてる根拠もよくわからないし、話聞いてると働きも何もしていない時間は1ヶ月に2週間分くらいありそうなのに、1回も書いてないんでしょ?
時間あるんだったら書けるじゃん、てかほんとに書きたい人はそんだけ時間あったら書くし。書かずにいられんから。
でも書かないってことは、それは書きたくないってことなのでは??」

※かなりきつい詰問のように読まれるかもしれませんが、喋ってるあいだぷろおご氏はだいたい半笑いです。あとこの記事中のセリフはすべて会話の一部を要約したものであり、原文ママではまったくないです。

恐ろしい問いを突きつけられたもんだ……ぼくは真っ白になりました。
いや確かに、執筆に充てられる時間のあるなしでいえばそれはそうなんだけど……。

自らの「小説を書きたい」を擁護しようと、ぼくはあれこれと釈明しました。
執筆にまつわる中学時代以来つづく自らのヒストリーを話し、「執筆を円滑に進めるためにはある程度安定した地盤が必要だと感じる」自分自身の傾向について所感を述べ、ここ数年小説執筆を行っていなかったことについての自分なりの理由づけを語り……といった具合に。
そう、たしかにぼくはここ数年「今は書くべきときじゃない」と思いつづけてきたし、創作活動に身を投じることもなく過ごしてきました。
けれども、それは「書きたくない」ということではないはず……でなければ、「いつかまた必ず書きたい」と思いつづけてきたこの数年はなんだったのか。……

それでもたしかに、言葉を重ねれば重ねただけ、自分の中に疑念がどくどくと湧いてくるのです。
そういえば、「月収20万円」ってどんな根拠があって言い出した数字なんだっけ? 「時給2500円」は? 
先月1ヶ月、仕事も家のこともやってない空白だったはずの時間、おれいったい何してたっけ?
それに、20万円にせよ何にせよ、必要なお金を稼ぐ手段はプログラミングやら家庭教師やらーーこれらの具体的な職種はぷろおご氏の受け売りですがーー世のなか色々あるなか、それらを選ばずに「月収4万ガ〜安定した地盤ガ〜」って言いつづけてるのって、いったいなぜなんだろう?

自分の中ではものすごく理路整然としていたはずの、「時給2500円くらいの仕事して月収20万円稼げるようになったら、小説を書きたい」というシナリオ。
それが、ぼく自身を「やりたいこと」であるはずの小説執筆から、実際にはぼくを遠ざけ、引き離しつづけているーー。
そんなあまりに確かな「現実」を、ぼくは会って1時間そこらの人物によって、はっきりと叩きつけられてしまったのです。

いやはや、まさかこんな話の流れになるとは……もっとなごやかでゆるやかなお話し会になるものとは思っていたら……。

まったく想像だにしていなかった展開に、ぼくは始終頭がぐるぐるしっぱなしでした。

「小説を書きたい」という「来世」

ぷろおご氏曰く、ぼくがやっているのはとどのつまり「来世を設定することで、現世の苦しみから逃れようとするムーブ」なのだといいます。

「いつか小説を書く! 書きたい!」という「いつか叶うであろうゴール」。
それを設定することで、ぼくは「やりたくないこと・やらなきゃいけないことまみれの今」を正当化し、苦痛に耐えつづけている。
たしかにこれは、宗教にありがちな「来世で幸せになるために、現世でたくさんつらみ苦しみに耐えましょう!」という世界観にそっくりです。

あなたは「小説を書く」という来世を設定することで、現世、すなわち「今の暮らし」のクソさ加減に耐えているーー。
それが、ほんの1時間足らずで得た情報からぷろおご氏が見事に構成した、ぼくという人間の世界観についての仮説でした。

そして、なぜぼくがプログラミングや家庭教師といった「割のいいバイト」でさっさと必要なお金を稼がず、月収4万円そこらでチンタラしているのか。
そう、それは「本当に20万円稼いでしまったら、いよいよ小説を書かなきゃいけないから」だと。
実際に小説を書きはじめてしまったら、それが絶望的で苦しいばかりの営みだったとき、その苦しさや絶望を正当化してくれるものは何もなくなってしまいます。
それが怖いから、あなたはいつまでたっても小説を書けない、書こうとしない……。

ぼくは思いました。
ああ、この「来世主義」みたいなやつ、ぼくの今までの人生をずっととらえてきた、ぼくがずっと逃れよう逃れようと頑張りつづけてきたやつだ、と。

思えば東大に合格したのも、「東大に行けば、小説家をめざすうえでの『保険』になるはずだ」という、強い「来世信仰」があったからこそでした。
実際ぷろおご氏の経験則に照らしても、「東大生・東大卒には来世主義的な人が多い」そうで。
「だって来世のためにめっちゃ頑張れなかったら東大行くなんて無理っしょ、普通みんな『寝てぇ〜』『遊びてぇ〜』つって現世利益に流れるわけだし」。
深くうなずくばかりでした。身に覚えがありすぎたし、自分でも何度も考えてきた問題でしたから。

小説、書きます

「小説……書くかぁ。うーん、書こう。書きます、絶対。」

これが最終的に、ぼくがひねり出した答えでした。

正直いって、本当のところはやっぱりわからないのです。
本当にぼくは「然るべき時が来たら小説を書きたい」と願い、その然るべき時に向かって歩んでいたのか。
それともぷろおご氏の言うとおり、本当は書きたくないし書けないからこそ「書きたい」と言いつづけていただけなのか。
必ずしも後者ではないのではないか、という思いは、最後の最後までぬぐえませんでした。
「いつか小説を書く」の「いつか」に、ぼくはぐずぐずとながら確実に近づいてはいると思っていたし、そこに本物の「書きたさ」が一ミリも混じっていなかったとみなすことは、感覚のレベルであまりにも気持ち悪く思われたからです。

ぷろおご氏も実際のところ、「まあ状況だけから判断すれば『書きたくないんだろうなー』って思うよね、お気持ちのところはわからんからなんとも言えんけど」といった具合に、上記の仮説にある種の留保をつけていました。

ただそうは言っても、ぼくが現在を生きる方便として「小説」をいいように使っていたこと、それはまぎれもない事実です。
そして、それをやっている間は、いつまで経ってもぼくが書きはじめる日は来ないでしょう。ぼくが「本当に書きたいのかどうか」だって、判断しようがない。

だからぼくは、書いてみることを決意しました。
手の届かない安全圏に棚上げした「書きたい」を手元に引きずりおろして、自分の気持ちが本物かどうかをちゃんと確かめたい。
そして願わくは、「ぼくの『書きたい』はちゃんと本物だった!」と胸を張りたい。
そうなるかどうかはまったくもって賭けでしかないですが、その賭けに身を投じていくことこそが「現世を生きる」ということなのだと、そう思ったのです。

「とりあえず、書きます。小説。絶対書く。」

奢りの終盤、そう絞り出すように言ったぼくを、ぷろおご氏は終始、もの面白そうな目で眺めておりました。

エピローグ

そんなわけで、ほんの1時間ちょっとのおしゃべりのつもりが、実に2時間半も話し込んでしまいました。
以下の記事に「だいたい1時間程度(気分によって左右)でどっか消えます」とあることを考えると本当にラッキーだったなと。
1時間じゃさすがに「小説書きます」までたどりつけなかった気がします。
ひょっとすると、ぼくはすごく運のいい男なのかもしれない。


お会計を済ませて店を出て、池袋駅の手前で別れるまでのあいだは、「健康」について宣伝(?)されました。
「ところで、健康になりません? 健康に興味ないすか?」ってすごいよね、字面だけ見たら怖すぎる。でもそんな感じでした。
なんでも心身の健康を整えて、それを余るくらい蓄えられたら、「加速」という意味不明で面白い現象が起こせるようになってとても楽しいのだそうです。

ちょっと怖いけど面白そうな気もする。気が向いたら本格的に手を出してみてもいいかなと思っています。

   *

ということで、めちゃくちゃ長くなりましたが、レポ「東大卒・無職、プロ奢ラレヤーに奢ってきました」でした。

この記事に書いた以外にもいろいろ話はしたのですが(ぼくがプログラミングをやりたくないのは要は結局「怒られたくないから」だと丸裸にされたり、ぷろおご氏は[ぼくからしたら本当に大した文筆家だと思うけど]文章に対してまるっきりこだわりがないということがわかったり、etc.)、いよいよ記事にまとまりがなくなりそうだったので、今回は泣く泣く省きました。

ただ総じて、どんな会話においても「ぼくがポツッと発言したことをテコにきれいに腹をかっさばかれて、気がついたら何もかも丸裸にされていた」のは確かです。
そういう意味では、自分という人間のなんたるかを思い知る、とてもいい機会になりました。DMしたときはそんなつもりじゃなかったのに!
いったいどんな話をすることになるんだろう、ぼくからは大した話はできないし……なんて思いながら臨んだら、まったく思いがけない手土産をもらった感じで、ぼくとしてはたいへん満足しております。
すっげえ緊張したし、すっげえ頭ひねって消耗したし、すっげえクタクタになったけどね! 豆腐メンタルなのでね!

ということで、興味がおありの方はぜひ一度コンタクトをとってみてください。
せっかくなので「奢る方法」再掲しときます。


それでは、今回はこのへんで!

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