【持論】「同志少女よ、敵を撃て」の直木賞ノミネートと、歴史時代小説の地殻変動について
これを読んでいる方の中には、感じている方もいると思うが、現在「歴史時代小説」というジャンルが、大きな地殻変動を起こしている。
その事については、常日頃からTwitterで提唱している事であるが、この流れは「同志少女よ、敵を撃て」の大ヒットと第166回直木賞のノミネートで、更に加速するだろう。
さて、そもそも歴史時代小説の地殻変動とは何か? だが、それは端的に言うと「歴史時代小説として扱われる範囲の拡大」である。
では、この流れはどこからだろうか? と考えた時、川越宗一先生が樺太アイヌを描いた「熱源」の直木賞受賞、或いは深緑野分先生による戦後ドイツが舞台の「ベルリンは晴れているか」の直木賞ノミネート、はたまた葉真中顕先生が戦後間際の室蘭を舞台にした「凍てつく太陽」のヒットのどれかだろう。
しかし、それまでも近現代史を題材にした作品はあった。なので、より顕著になったと言うべきだろうか。
そして程なく、坂上泉先生が戦後大阪を舞台にした「インビジブル」を発表され、これも直木賞にノミネートされた。
惜しくも受賞こそ逃したが、戦後の大阪を描いた大変な力作。その後も、多くの近現代小説が発表され、最近では戦後間もないブラジルで起きた勝ち負け抗争を描く「灼熱」も発表された。
その流れの中で、逢坂冬馬先生の「同志少女よ、敵を撃て」が直木賞にノミネートされた。
本作は第二次世界大戦の独ソ戦を描いた、紛れもない歴史時代小説。独ソ戦を主題にした歴史小説であり、架空の主人公が活躍する時代小説なのである。鬼門とされる世界史、しかも多くの日本人には馴染みのない舞台と時代で、大ヒットしノミネートしたのだから、凄いの一言でしかない。
さて、この地殻変動の根拠になっているのは、直木賞の選出である。
2018年 下半期 「ベルリンは晴れているか」
2019年 下半期 「熱源」
2020年 下半期 「インビジブル」
2021年 上半期 「同志少女よ、敵を撃て」
以上の様に高い確率で、近現代小説が直木賞にまで辿り着いている。
これは凄く大きな流れだと思う。
では、どこまでが歴史か? と言われれば、正直わからない。
個人的には安保闘争ぐらいまでだろうと思うが、オウム事件を題材にした「カルマ真仙教事件」を読めば、オウム事件も歴史なのでは? と思わくもない。
兎も角、歴史時代小説は地殻変動を起こし、大きな過渡期にある。
先日僕が、このようなtweetをして大きな議論になり、時代小説への否定的な意見が多かったが、ジャンルとしては常に進化・深化をしているので、僕もその末席で頑張る所存である。
しかし、逢坂冬馬先生の「同志少女よ、敵を撃て」は凄い。デビューと同時に直木賞ノミネート。羨ましくて死にそうです。
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