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【読書記録】凶刃―用心棒日月抄(藤沢周平)

読了日 2021/12/15

<あらすじ>
好漢青江又八郎も四十半ば、若かりし用心棒稼業の日々は今は遠い……。国許での平穏な日常を破ったのは、にわかの江戸出府下命だった。姿なき敵との凄絶な対決をむかえる用心棒シリーズ最終作。

<感想>
寂寥感しかなかった。
本作は藤沢の看板シリーズ「用心棒日月抄」の4作目にして、最終巻になる。
これを読んでしまえば、もう青江又八郎や細谷源太夫に会えないと思うと、中々手が伸びなかったし、読み終えたあとの寂寥感たるや。
しかし、寂しいのはそれだけではない。本作が前作の16年後であり、それぞれの登場人物に老いが忍び寄り、人生の黄昏を迎えようとしている。その寂寥感もあった。
藤沢周平は「この世に変わらないものはない」という事を言外に伝えようとしていたのかもしれない。
さて、物語は以前に比べて雰囲気も変わっている。事件が複雑になっているという事もあるが、又八郎がそこそこの身分になって、齷齪と働かなくてよくなったという事もあるだろう。人によっては「失速」と捉えるかもしれないが、前述したようにこれは最終巻である。全編に渡ってエピローグなので許される。
それで、本作の魅力はやはり圧巻のラストであろう。収まるところに収まったという感じ。又八郎の後継者となって、江戸で用心棒稼業をする事になるであろう渋谷雄之助の今後を暗示させる締めが何とも清々しい。彼が陰のMVPと言っていい。心配だった細谷源太夫も良き選択をした。
そして、何と言ってもヒロインの谷口佐知だ。前提として、このシリーズは優れた不倫文学だ。何かとバッシングされる不倫だが、これは不倫を純愛に高めている(と言っても、当事者の勝手な言い分ではあるが)そんな又八郎と佐知の愛も、不倫故に仕方がない終わり……と、思いきや!である。「人生はまだまだ続く」そんな事を思わせる、清々しいラストだった。

寂寥感はあるが、清涼感もある。これが出来るのが、藤沢周平という神なのだ。

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