【広告展覧会・10の視点】 第三章 コピーにしかできないこと。
あるコメディ映画にこんなセリフがある。「俺は好きだなあ、ラジオドラマ。ここは大宇宙、とナレーションが入っただけでイメージがバーッと広がって、そこは宇宙になる。ハリウッド映画みたいに何十億もかけてセット作らなくていいんだ」。
コピーも同様。優れたキャッチコピーは、読んだ人の脳内に一瞬にして完璧なビジュアルを作り上げる。アイキャッチ、さらにはハートキャッチ。また優れたボディコピーは、何人ものクリエイターが苦労してつないできたパスを、見事なシュートでゴールに沈める。決定力。商品購入の。僕は好きだなあ、コピー。
スキンケア、ヘアーケア、マウスケアを網羅する新エイジングケア「CHERAVON(シェラボン)」のために作った統合ダグライン。年齢を、脱ぐ。
「エイジングケアを表現」「最小の文字数」「ほどよいエッジ」「薬事をクリア」の4条件をすべて満たすキャッチコピーを探り続け、この7文字まで削ぎ落とした。
ニューヨーク発のAVONとは別に、社内にもう一つのブランド軸を確立したいと考え、CHERAVONではパリのイメージを採用。成分やパッケージの“和テイスト”を利用して、「パリジェンヌが憧れる日本美人」というコンセプトを考えた。
従来の年齢対策商品は皮膚科学が前面に出過ぎて、ややネガティブなトーンになることも…。CHERAVONではそこと一線を画すため、別媒体で効果効能エビデンスを示しつつも、「スタイリッシュで、ポジティブなエイジングケア」という情緒的なアプローチにもこだわった。
(第五章「もっと文学を!!」で、そのビジュアル表現をご覧いただけます)
AVONで最高級の健康食品「美麗精華」。楊貴妃の時代から中国に伝わる貴重な美容食材と、皮膚生理学が解明した“若返り”の成分や理論を組み合わせ、小分けの錠剤にしたもの。
商品開発部から「高級品らしく、お客様がふたを開けた時にも何らかの“ときめき”がほしい」との要請があり、コピーライターである私が考案した(当時、コピーライター出身のクリエイティブディレクターは、社内に私一人しかいなかった)。
商品名はすでに決まっていたので、それを手がかりに、この商品がもつ世界観を四行詩に落とし込んだ。「美・麗・精・華」の言葉遊びを加えたのは、商品名と商品コンセプトをより強く顧客にインプットしたいと考えたから。
「AVON創業50周年記念のハンドクリームを発売するにあたり、英文のパッケージコピーを考えてほしい」との要請がまたまた商品開発部からあり、またまた考案した。以下、英文翻訳前の日本語版。
ダメージケアしながら、年齢髪特有のうねりも落ち着かせる「スプレータイプのヘアオイル」。発売から何年かが経過し、売上げも伸び悩んでいた。一度使ってみてファンになったリピーターが継続購入するだけで、新規購入者がいない。そこで私はターゲットとなる50〜60代女性の属性をもう一度調べてみた。すると興味深いことがわかった。ショートヘアの髪型が圧倒的に多いのである。
私はターゲットをより絞り込み、その人たちに呼びかけるコピーを作った。
ショートヘアも、さらりまとまる。
パサつく年齢髪がツヤツヤに!!
ところがこの案、社内プレゼンでは結構反対された。「ショートヘア“専用”の商品だと思われてしまう」というのだ。
ターゲットのボリュームゾーンに対して、ニーズに合った価値を選んで差し出す。それがマーケティングの基本だと思う。メーカーが陥りやすいのは「商品を見て、顧客を見ない」こと。その結果、プロモーションコピーは常に商品説明文のような内容になり、いつまでたっても顧客は「自分のための商品」だと気づかないわけである。
ボディコピーの部分に「もちろん、ロングやミディアムのかたにも。」と追記することで、上記のキャッチコピーはOKとなった(やれやれ)。
ちなみにこの「ショートヘア」プロモーション、かなり好調なセールスを記録した。他のセールス強化要因(たとえば、値下げやプレゼント等)がなかったから、明らかにこのコピーアプローチが功を奏したのだと思う。
もし、セールスに失敗していたら、ですか? うん、たぶん、ここで紹介していないと思います…。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。(第四章に続く)
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