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You are special. 〜美術のおたより最終号2023〜

You are special.

今年度最後の授業。大切な生徒たちに贈ります。


皆さんと過ごした2年間。

本当に色々なことがありましたね。

私にとっては久しぶりの学校現場で、

おっちょこちょいな場面も

沢山見せてしまいました。

今日まで一緒に授業を創ってくれたみんなに

心から感謝しています。

ここで改めて、

皆さんに贈りたい言葉があります。


You are special.  大切なあなたへ
(「かけがえのない存在です。」とも訳します。)


今から28年前。

私はある遠い国のお友だちから

この言葉を受け取ったのです。

このお友だちと出会ったきっかけは

1995年1月17日の阪神淡路大震災でした。

当時9歳だった私は母と妹と3人で暮らしていました。

朝目が覚めると、家は全壊。

タンスの下敷きになっていましたが、

奇跡的に家具の間に隙間が出来ており、

家族全員助かりました。

やっとのことで外にでると

街が真っ赤に燃えていました。

その時初めて、


「今のは地震だったんだ。」


ということが分かったのでした。

避難した体育館で、大好きだった先生や

友だちが亡くなったことを知りました。

昨日まで遊んでいた友人が長時間瓦礫の下に閉じ込められ、

脚を切断しなければならない状況にあることを知りました。(お友だちの脚は奇跡的に助かりましたが、今も後遺症と向き合いながら暮らしています。お友だちは現在2人の子どものお母さんです。)

家庭科室には沢山のご遺体が寝かされていました。

これから先のことを考える間もなく、

次々に運ばれてくるご遺体をひたすら先生たちが無になって並べていました。

亡くなった教え子さんの冷たい身体に触れる先生の姿もありました。

「昨日までの平和な日常はどこにいってしまったのだろう。」

大人も子どもも、亡くなられた方々の命と向き合う間、

感情が麻痺したかのように涙を流すことすら出来ず、

ただただ時間が過ぎていきました。

震災からひと月ほど経った頃でしょうか。

私は笑うこと、怒ること、泣くことさえできなくなっていました。

環境の激変によるショックで

表現できない状態に陥る子どもが、

当時は沢山いたようです。


そんな被災児童を励まそうと

世界各国から物資や経済的な支援がなされました。

実に67の国々が日本の被災児童にエールを送ってくれました。

その67ヵ国の中には、昔から何度も争いあってきた国々も含まれていました。

しかし、この時ばかりは争いを止めて

〝一つの国の子どもたちへ愛の手をさしのべる〟

という不思議なことが起こったのでした。

67ヵ国のうち、セルビア(旧ユーゴスラビア)という国は

〝日本の被災児童を自分たちの国に招待する〟

というユニークな支援をしてくれました。

しかし、当日のユーゴはボスニア紛争の真っ只中。


「震災で傷ついた子どもがそんな国へ行って大丈夫か。」


という世間の声もある中、

ある一枚のファックスが旧ユーゴ政府から

NGO(国際市民ネットワーク)に届きました。

「私たちにはモノやお金はないけれど、震災で傷ついた子どもたちを癒すことができます。戦争と災害は違うけれど、大切な人やモノを失った傷は同じです。心の痛みを分け合いましょう。安全な首都ベオグラードにぜひお越し下さい。」

私はこのプログラムに参加することに決めました。

2週間、現地のご家庭にホームステイすることになりました。

滞在して初めに訪れたのは、ガンセンターでした。

国立ガンセンターで出会った女の子

そこで目にしたのは明日をも知れない子どもたち。

戦争の恐れからくる不安や

劣化ウラン弾の影響ですっかり髪が抜けていました。

病床で作った手づくりのピエロをプレゼントしてくれました。


You are special.(あなたは大切な友だちです。)

と言葉をかけてくれました。

ガンセンターの友だちがプレゼントしてくれた
手作りのピエロ

次の日は難民キャンプを訪れました。

小さな赤ちゃんから大人まで、

目の前で家族を殺され、命からがら逃げてきた子もたくさん居ました。

表情を失くした子どもたちは、日々心理ワークショップや絵画やダンス、音楽や演劇で心を取り戻そうとしていました。

ボコバジャ難民キャンプの子どもたちが披露してくれたダンス

そこで出会った8歳の女の子、モニカちゃんは


「お父さんとお兄ちゃんが戦争に行って帰ってこないから、お母さんが寝込んじゃったの。だからこのキャンプにきたんだ。」


と打ち明けてくれました。

難民キャンプで出会ったモニカちゃん


キャンプを去る時、交流した子どもたちが


You are special.(あなたは大切な友だちです。)

と手を振ってくれました。

帰国の日。

私はすっかり笑顔を取り戻していました。

旧ユーゴの子どもたちと心の痛みを分け合えた
経験が特効薬となっていたのです。

同時に、あるビジョンが湧いてきました。


「大好きな絵で何か伝える人になりたい。」

今も、世界には災害と紛争で苦しんでいる人たちが居ます。

たとえ、現地に飛んでいけなくても

この場所から何かを伝えることはできます。

皆さんが美術の時間に表現してくれた色と形。

これも、伝え方の一つですね。

もしかしたら、色と形が1番伝わりやすいツール

かもしれません。


「美術って一体何のために学ぶのかな?」

私は最近になってその答えが導き出せた気がします。

机の上で完結する美術はほんのスタート地点。

教室を一歩出た社会が〝実践の美術〟

なのではないかなと思います。

自分のために、
隣に座っている友だちのために、 
家族のために、
これから出会う大切な人たちのために、

皆さんが自分の賜物(ギフト)を活かしていけるように、これからもお祈りしています。


You are special. 大切なあなたへ。

           2023年2月26日 記
                米光 智恵

心の回復後、セルビアの子どもが描いた絵

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(旧ユーゴスラビア)

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