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大学生自転車日本一周旅三十四日目:宮崎駅から大分市まで

本編

 この日はそもそも野宿の予定だった。はじめは大分県の佐伯市付近まで行こうかと思っていた。だが、豊後大野市を通っていくのに対し、佐伯市から大分市に行くには一つ多くの山を越えなければなら無そうだったために変更。まずは豊後大野市までは行くことにした。時間が許せば大分市まで行きたい。佐伯市に行こうと思った理由は、昔そこでも合宿を行ったことがあるからであったが、そろそろ過去の振り返りばかりしていても仕方がないと感じていたため、行かないのは都合が良かった。さらに、佐伯から家まではおそらく一日では帰れないから、二日連続の野宿をしなければいけなかったんだけど、さすがにそれは嫌だったというのもある。初日はほぼ毎日野宿しようとしてたくせにね。というわけで、この日は宮崎市から北上して延岡市を越え、大分県の豊後大野市か大分市まで。

 宮崎を出発して、最初は暢気にこいでいた。そしたらテンションがどんどん上がっちゃって、朝っぱらの何もないところだったのに熱唱していた。テンションが上がりすぎました。結果パンクしました。時刻は確か10時ごろ。運よくちょっと進んだ先に自転車屋さんが。ラッキーじゃん。ドアにカギはかかっていない。お、営業してもらえるんじゃね。そう思って店内に入って「すいません」と言ってみる。反応なし。何度も言ったけど、反応なし。今日は日曜日だしな。営業している方が珍しい。

 マップで自転車屋を調べまくって、近くの自転車屋に一か八か電話をかけていく。とはいえ宮崎市の北にある小さな町には個人自転車屋さんしかないから、全然繋がらない。それも、日曜だから繋がる方が珍しい。普通の人だったら宮崎市に1時間ぐらいかけて戻って修理してもらうだろう。秋田での経験を生かさない馬鹿は、どうしても明日までに九州一周を終わらせたいという理由で宮崎市には戻らずに、最悪延岡のサイクルベースあさひまでの約75㎞をパンクした状態で漕ぐと決意。というわけで、少しペースダウンしつつ宮崎海沿い旅の始まり。

 長距離パンク状態で漕ぎ続けるとはいえ、基本は我慢。あと、調子に乗らないこと。スリップしたら死ぬかもしれないし、リスクの高さだけは意識してこぎ続ける。タイヤがキュルキュルうるさくて正直恥ずかしいけど我慢。上り坂も、歩道の無い道も、とにかく気を付けながら進んでいった。パンク状態でまずは30㎞進んだだろうか。都農町という町に入った。

 都農町では昼休憩を急遽とることにした。最初の予定では日向市まで頑張っていき、13~14時に昼ご飯にする予定だったが、パンクした状態ではもっと時間がかかりそうで耐えきれる自信が無かったし、良さげな店があったのでそう決めた。そこは、宮崎県民が選ぶ、このあたりの地域で最もチキン南蛮がおいしいお店ランキング(世の中たくさんランキングがある)で見事1位に輝いていたお店だった。これまでの経験からパンクは旅を豊かにしてくれるということも学んでいたから、いい出会いがあるはずと入店した。

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 店内は歴史感じるいい雰囲気。チキン南蛮と生姜焼きのランチを注文。注文の都合上提供が少し遅れてしまうからと、おばちゃんがわざわざご飯を大盛にしてくれた。この気遣い、やっぱ田舎クオリティだよ。温かい。チキン南蛮とご飯、生姜焼きとご飯。ハプニングに疲れた体に力がみなぎる。とてもうまかった。

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 会計の時に、「どこからきたの?」と聞かれたから、「宮崎からです」と宮崎県民に答えた住民票が福岡県にある神奈川県住み。すごいって言われるの嫌いだから日本を回ってるんですって言いたくない。素直に言葉を受け取れない小さな人間なんで。店を後にしたら、いよいよ日向へ。

 店を出るとすぐに試練がやってきた。歩道のない長い橋。緩やかなカーブ。車通りはそこそこある。普段だったらどうってことないけど、現在わたくしパンク中。白線の外で漕ぎたいけど、小さな段差が多すぎてスリップリスクが高い。だから、必死に白線の内側に入って漕いだ。そっちの方が死ぬリスクが下がると考えた。優先順位が高いのは命だから。運よく途中で信号のせいか車の流れが止まった時があったから、それもあって何とか越えることが出来た。その後は上り下りはあったものの危ない道はなく、道の駅日向を発見。ここも本当だったら寄っていないだろうけど、パンクしたからこそ開き直って寄っちゃおう。

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 ここでは、日向夏のスパークリングジュースとへべすのフルーツサンドをゲット。実は、三十四日も旅をしているのに、道の駅初お買い物。寝たことならあるけどね。さて味わおうとベンチに座って飲んでいた矢先。ヤンキー集団到来。ヤンキーって言える年齢かは分かんないけど、ガラは悪そう。問題は目の前のベンチでたむろし始めたってこと。すぐビビって立ち去ると、ビビってんのってなっちゃいそうだから気にしていないふりをかます。そしたらそのうちの一人が、友達か後輩が人を殺して裁判になってるけど何とか正当防衛で行けそう、みたいな話をずっとしてんの。こんなとこでする話じゃねえだろ。しかも当たり前に人殺しの話。見た目以上にガラ悪い集団だったわけ。だから気付かれないようにさっさと食べ終えて逃げるように次の目的地へ。絡まれたら逃げ切れないから急ぐ。だってこっちの移動手段はパンクしたチャリだからね。まあ普通に考えて絡んでも来ないし追ってきたりもしないんだけど。最悪の想定をしておくことは重要。

 というわけで、ここら辺の治安の悪さに驚きつつ逃げるように日向市街へ。だけど、早く自転車を直したかったからそのまま一気に延岡まで行った。どうせ日向市にある自転車屋も開いていないだろうし。まさか本当に70㎞以上パンクした状態で移動するとは思っていなかった。

 延岡のあさひで修理をお願い。パンクした状態で75㎞ぐらい漕いだからチューブはボロボロだろうと思っていた。福島の時も秋田の時も20㎞ぐらいで2か所以上穴が開いていたわけだしね。だけど、スタッフさん「一か所穴が開いていたからふさいでおきました」。まじ??でもちゃんとチューブを一周検証してるはずだし嘘ではないはず。一か所という言葉に不安を抱きながらも、大分へ向かうことに。

 野宿地は豊後大野市にするか大分市まで頑張るかで最後まで迷っていた。どこで寝ようか。寝床がある場所を考えなければ。大分駅まで行ければホテルもあり得る。そんな甘い期待を背負いながら山登りへと挑んでいった。正直なところ、最初の半分以上はなんてことはなかった。トンネルというありがたい発明のおかげで、登りはするもののそこまで傾斜はきつくないって感じ。一人で早口言葉作って遊べるくらいのしんどさだった。ちなみに、日頃は早口だけど、活舌自体はあんまり良くはないから早口言葉は苦手で、一人で考えた早口言葉を一人でトライしては一人でミスって一人で笑いながら漕いでいた。傍から見たら狂人。そもそも狂人じゃないとノリで自転車旅とか始めないからね。

 そんな感じで行ってたんだけど、佐伯市からなかなか抜け出せない。結構漕いできたはずなのに。そう思っていた矢先、地獄の登りゾーン。ただ、もう夜だし野宿の日だし、押してけばいいや。時間に余裕があるって本当にいい。夜って暗くて景色が見えないから、一気に自分との対話が増える。これも夜サイクリングのいいところだ。

 時間は結構かかったものの、無事豊後大野の中心部、犬飼へ。ここのコンビニで休憩を取りつつ、どこで寝るかをそろそろ決めなければいけない段階に。選択肢は二つに絞られていた。豊後大野にある道の駅で寝る。昭和電工ドーム大分の近くで寝る。大分駅までは時間的に厳しそうだったから、そこまで行ってホテルという選択肢はなし。悩んだ挙句、頑張ってドームまで行くことに決定。寒くなってきたから上着を羽織ってスタート。

 だけど、すぐに長ズボンも履くべきだという結論も出た。だから近くにあった(確か)唐揚げ店の前でお着換え。そしたら店主が閉店後にお客さんが来たと思ったのか、わざわざ電気をつけて状況確認しだした。ごめんなさい。こんなところで着替えて(ちなみに短パンの上から長ズボンを履くだけ)。

 準備が整ったところで再スタート。やはり上りもあったけどそんなにきついこともなく到着。最後ドームに行くまでの道がややこしかったけど、たどり着けたのでOK。高2の時のレースを思い出しつつ寝床を探した。結果、サブトラックの近くの公園のベンチに決定。さすがに人は来ないだろうし、なかなかいい寝床を見つけた。

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ルート

 宮崎市を出発して国道10号線を走り、延岡市まで移動。その後、山に入る分岐点で国道326号線を選び、豊後大野市を通過。最後は国道10号線に合流し大分市へ。

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