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大学生自転車日本一周旅十二日目:新潟駅から長岡駅へ

本編

 前日は厳しい一日ではあったが、何とか新潟までたどり着くことができた。道の面倒臭さや風の強さには不安はあったものの、この日の天気は晴れの予報だったし、希望を持って出発した。確か7時台にはもう出発していたと思う。目的地は上越市の高田駅。基本的には日本海側をずっと走っていく予定である。

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 スタートから、ほかの地域よりやはり風が強いと感じていた。ただし、前日の村上市と比べればまだまだ楽な方ではあったので、嫌ではあったものの気にせずに漕いでいた。この日は日曜日。天気のよさも影響したのか車どおりが非常に多い。

 新潟の道は両脇を田んぼに挟まれているせいかあまり広くない。そのくせ、歩道がなかったり、あっても片方だけだったり、歩道を走っていたら急に歩道が無くなったり、あるんだけれどきれいには整備されていなくて雑草が生えまくっていたり、、、。一番厄介なのは、右側にしかない歩道を自転車で走っていたら急に歩道が無くなってしまい、対向車すれすれに進まなければいけないとき。左車線に行こうにも交通量が多くて行けないし。怖くて横道にそれようにもそこは田んぼの農道みたいな砂利道で、どこまで進めるかが未知数。こんな道がずっと続いて、ペースも上がらないどころか、危険さからストレスがたまりまくっていた。

 二日前に穏やかな心でこぐことが重要だと気付いていたはずなんだけど、この時はイライラがたまっていた。昨日全く事態が好転しなかったことも影響しているのかもしれない。そして、少しずつ溜まっていたストレスは、事故の引き金となる。

 歩道のない右車線を走らざるを得なくなったりしたが運転手の配慮もあって事故は起こさず、何とか左車線に歩道がある道までこれた。ただし、その歩道は雑草が生えまくっている歩道だった。通ろうとするも、自由に伸びた雑草は避けようようもなく、足に直撃してくる。普通に痛い。さらに、自転車の前輪の泥はね防止のところにあるワイヤーに絡まりもした。

 この日までも自転車に草が引っ付くことは多々あり、気になりはしていたものの放っておくことができていた。しかし、なぜだろうか、この時は違った。ストレスがたまっていたからか、どうしてもその草が気になってしまい、左足を使ってその草をとろうとした。右足でこぎながら。

 一回目のチャレンジ、草に触れるも外すに至らず。二回目のチャレンジ、さっきよりもっと足を使えれば。ガガガガガッ。左足がタイヤに巻き込まれる。慌てて急ブレーキ。特に前輪のブレーキを強くかけてしまったせいもあり、前輪は止まるが後輪は止まらず、つんのめる形となって体ごと投げ出されてしまった。

 幸いそれは歩道の中で起こったことで、車道に投げ出されることも轢かれることもなかった。また、巻き込まれた左足に大きな異常はなく、擦り傷も秋田県での転倒に比べれば軽く済んだ。あー、大事に至らなくてよかった。三日前に反省したばっかりなのに。穏やかに余裕をもって行けよ。

 自分を叱咤しながら自転車を起こす。あれ?前輪が動かない。なぜ?後輪は動くのに。よく見てみると、ブレーキが上へずれてしまっているようで、普通であればフレーム部に当たるはずのブレーキがタイヤにぶつかっていて、前輪が常時ブレーキ状態になってしまっていた。無理に漕ごうと思えば進めないこともないが(歩くより早いかそれと同じぐらいのスピードだが)、タイヤとブレーキがこすれあい、タイヤがかんなで削ったように薄く削ぎ落とされていく。これは漕いではだめだ。かといって押すと前輪は動かないから持ち上げるしかない。マジか。

 近くの自転車屋を検索。一番近くて3.5㎞ほど。個人商店か。現金は気付けばどんどんなくなっていっていたから、あんまりもう使いたくない。しかも、よくよく考えろ、日曜に空いてるか?電話してみるか。一番近い自転車屋に電話をかけるもつながらない。そりゃそうか。その次のところにもかけるだけかけてみよう。あ、つながった。え、もう自転車屋はやっていない?マジか。申し訳なさを感じながら電話を切る。くそ。やっぱり大きいところじゃないとだめか。それだと、、、うわ、全部燕三条の市街地にしかない。近くて約7.5㎞。歩いて1.5時間。しかも前輪を持ち上げ続けながら。せっかく晴れた影響で暑い。こういう日に限って天気に恵まれるなんて。もう行くしかないか。

 1kmも歩かないうちに諦めたくなる。もしかしたら自転車を取りに来てくれたりしないかな。行こうとしていたサイクルベースあさひに電話してみよう。つながった。だけどさすがにそんなサービスはやってない、と。しかもこの日は修理が立て込んでいて早くても夕方の返却になるのか。それじゃ上越まで行けない。あさひより手前に、イオンバイクがあるぞ。ここにも電話してみようか。でも、ここもそんなサービスはないのか。こういう時に限って甘えは通用しないもんだ。行くしかない、炎天下の中前輪を抱え上げて一時間半。途中で抜かした「愛犬とリヤカー日本一周旅」の人に抜き返される。向こうはさっき抜かされた人だと気がついていないだろうから何も感じていないんはずだけど、すごくむなしくなっちゃった。

 すれ違う車や抜いていく車は、なんでこの人自転車前輪持ち上げながら歩いてんだろうとか思っているんだろうな。しんど。いいよな、車は楽で。気にしてくれるんだったら車に乗せて自転車屋まで連れてってよ、なんて思ったり。みんな他人のことなんて気にしてるようで気にしていない。あの人大丈夫かなって思って終わり。がんばれって思って終わり。まあ、逆の立場なら何もしてあげないけどね。辛いときは何かと文句をつけたくなる。100%自業自得なのに。そうだよ、自分で汚したケツは自分で拭かなきゃな。

 それにしても真夏の日差しの中この苦行はしんどい。自販機で買ったスポーツドリンクを一気に飲み干す。後のことなんて考えられない。本当は考えて飲む量を調整しなきゃいけなかったんだけど。そのくらいしんどかった。何度も立ち止まっては腕を休憩させ、握力を回復させ、小股ながらに急いで歩く。2時間弱これを繰り返し続け、ようやくイオンへ到着。

 しかし、知っているはずのイオンバイクがない。緑色のあのマーク。マップで調べたらイオンシネマの隣にあると示されている。でもない。2周ほどしてみたけどない。イオンバイクとは違う名前の自転車屋なら敷地内にあるけど。一周自転車を持ち上げながら歩いてみるけど、そこしかない。一か八か行ってみるか。

 入店してみると、先ほどの電話に対応してくれた女性が気付いてくれ、やっと救いが来たことを知った。ただし、この修理はそんなに単純ではなかった。ブレーキの位置は正常に戻してくれたけど、足が巻き込まれたときに、タイヤのフレームや前輪を通す部分が変形した可能性があり、部品交換の必要があるらしい。この自転車はあさひが自社で作っているものだったから、あさひに行ってもらった方が部品もあるだろうとのこと。なんだよ、結局あさひまで行かなきゃならんのか。だけど、この女性にとても丁寧に対応してもらったおかげで、イライラもほとんど消え去って行き、事情を説明するだけでも気を紛らわすことができた。一応自転車は漕げるようにはなったので(前輪のブレーキは最大限緩めてもらったので全く効かないが)、超ゆっくりのスピードであさひまで移動。この時点で、上越まで行くという計画は完全に破綻したことを認識した。

 自転車をあさひの店員さんに診てもらったのだが、修理代15000円、さらに、交換しなければいけない部品が現在店内にはなく、取り寄せに短くても10日はかかる、と。新潟にそんなにいるのは無理だし、そんなに修理代を払うのならもう買い替えた方がいいか。でもあんまりお金は使いたくはないし、自己責任で自転車を壊したのに高いものに変えるのは違うよな。そう思って、もともと乗っていた自転車のギヤ無しバージョンを買おうとした。

 この店の店員は、やたら安心パックみたいなやつを進めてくる。旅が終わったら自転車はさようならする予定だったし、そこにあまりお金はかけたくなかったから遠慮すると言っているのに、なかなか向こうも引いてくれない。「正直お金にあんまり余裕がないんですか」とか、身なりを見てか聞いてくる。距離をつぶそうとしているのかは知らんけど、うるせえよ。普通に失礼だろ。大体、損するのはこっちの方なのにしつこい。そんなにノルマきついんかこの店。

 何とかいらないという主張を通して、自転車と防犯登録料のみで済ませられた。ただ、自転車の調整や確認が時間がかかるからちょっと待ってくれと。せっかく暇ならほかのスポーツ自転車も見とくかと思い、店内を散策。すると、一台だけ25000円ほどで買えるスポーツタイプの自転車が。買おうとしていた自転車は17000円ほどだったし、どうせならこっちにしておくか。正直ママチャリのかご無しだったから、めちゃめちゃ漕ぎにくかったし。ほとんど決まりかけていた話をいったん0に戻して、この自転車を購入することに。もともと初代の自転車自体も、手ごろな値段のスポーツ自転車がなかったからあれにしていただけで、第一希望では決してなかったのだ。

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 そんなこんなで、ついに希望だったスポーツ自転車を手に入れ、縁もゆかりもない新潟県警の名を冠した防犯登録のシールを張った。本当は初代の自転車で完走したかったから悔しかったが、540円を払って処分してもらい、その雄姿を写真に収めて気持ちを新たに出発することにした。

 ただし、そこから急いでも上越のホテルに到着するのは21時過ぎで、そんな時間まではもう漕ぎたくはなかったから、いっそのこと諦めて近くのマックで予定を立て直すことに。上越では連泊する予定だったから、ホテルに二泊分のキャンセルの電話をまずはする。チェックインを明日にずらすだけだからキャンセル代がかからないといいんだけど。電話交渉してみると、案外すんなりキャンセル料の払い戻しの話は通ってくれた。ラッキー。じゃあ昼飯を食いながら、今日どこまで行くか決めようか。

 せっかくだから燕三条を満喫してもいい。しかし、ホテルを調べてみると、値段等を加味したベストな選択肢は長岡駅のホテルだった。上越と現在地を結んだ直線からはちょっと外れることがネックだったけど、近付きはするしそこも我慢かと思い、そのホテルをこの日の目的地に変更。まだ昼過ぎで時間もあるから、長岡に行く前に観光地でも行こうかと探す。だが、全然見つからない。比較的近いところでは吊り橋があったけど、山を登っていく必要がありそう。

 でもそこしかないし、新しい自転車に慣れるためにもそこまで行くか、と目指してみることに。市街地から離れるほど、道は農道チックになって漕ぎにくかったが、もうイライラしちゃあいけない。穏やかな心だよ、大事なのは。そういえば、新潟は米が有名というだけあって、景色の殆どが田んぼ。やっぱり一位になるにはこのくらい一つのことに振り切らなきゃいけないな。

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 案外じっくり見てみたら、田んぼの緑とそこに差し込む太陽の光がいい景色を作り出している。こうやってゆっくり漕いでみると、日常の中にこんなにきれいな部分が溶け込んでいることを気付かされる。やっぱり自転車の故障は旅の面白さを教えてくれる。故障してからしんどいこといっぱいあったけど、学びもたくさんある。

 吊り橋に向かう山道の手前の駐車場まで来たが、時間帯の問題か、ちょうど閉めようとしているところだった。まあ、見なくてもいっか。ほかに美しい景色は見れたし。見失っていた大事な部分も思い出すことができたし。後は燕三条のグルメでも探してみるか。「燕三条」と打ち込んでみると、予測変換で「ラーメン」が出てくる。え?そんなのあんの?より調べてみると、燕三条系背油ラーメンと呼ばれているらしい。初耳。運のいいことに、人気店が近くにある。よし行ってみよう。

 その店は土日祝は背油ラーメンがワンコインで食べられるサービスをやっていた。ラッキーじゃん。ぺろりと平らげる。うまい。よくよく見てみると、そのラーメン屋の別の店舗の方が有名だったんだけど、知らなかったことにしておこう。五分ほど漕げば行けそうな距離にあるけど。

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 さあ、ここから約三時間の距離の長岡市を目指そう。しかし、やはり新潟。道は決して良くはない。歩道が無いかあっても草が生えている道を疾走し、暗い中何とか漕ぎ進めてようやく長岡駅付近へ。やっと安全が手に入る。ツルハドラッグに寄って買い出しを先にすましておくか。残り少なくなった絆創膏も補充したいし。ここは半額のパンがたくさんあって、比較的安く買い出しを済ませられた。

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 翌日は雨予報。長岡駅の駐輪場は無料かつ屋根もあってツイていた。ここに至る今で田舎道だったのに、駅はたいそう立派だな。そう思いながらホテルへと入っていった。

ルート

 新潟駅を出た後は新幹線の線路に沿って西に進み、その後北陸自動車道に沿う。途中で国道460号線に進路変更し、国道116号線に入る。国道116号線では「金属団地入口」の交差点あたりまで進んだ。

 事故後、燕三条駅から国道8号線に降りて西へ進み、長岡駅へと向かった。


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