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「 詩 」「 物語り 」

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記事一覧

詩 : 『見上げる本棚』

詩 : 『見上げる本棚』

              (444字)

千冊の読み物が並ぶ本棚にも

三階建ての本屋さんにも

絶版を含む書を抱えた巨大な図書館にも

読みたいものは置いていない

noteの記事に様々な読みもの

もっと面白いものを

創作が巧みに

語彙が豊富に

何が書けるのか

変わり映えしない

感情を言葉にできない

多方面に読む癖は変わらず

時間を返せ と思うことも

note村の読み物はアテ

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詩:『晴れた日に』

詩:『晴れた日に』

 (約300字)

こんなに澄んだ空にも 気持ちが塞ぐなら

こんなにも柔い光に 心寒いなら

気持ちを軽くいたしましょう

心に灯りをともしましょう

小さく固く縮んだ心の

大きく強く見せたい意地の

ひだを誰かに預けてみようか

隙間を誰かに埋めてもらうか

辛くて沈むだけならば

私が理由を聞きましょう

誰にも言えぬことならば

私が秘密を守りましょう

身の程知らずは私も同じ

身の丈

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詩 『 繋ぐ手 』

詩 『 繋ぐ手 』

          (約200字)

目を瞑る 

息を吐く 

音を聞く

困っていないか

悔やんでいないか

間違えたのではないか

たとえ これが真実でも

たとえ あれが嘘でも

たとえ 受け入れずとも

音はないから 分からない

私はあなたじゃない

ただの あかの他人

差し伸べられるのは

合図がなければ 分かりようもない

私は 全知全能じゃない

私だって ただの歯車なんだか

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短編 : 『 そのひと言があった 』

短編 : 『 そのひと言があった 』

  (約1,600字)

 

 キッチンには、明るい色合いの封筒を無造作に置いた。サンキャッチャーがキラキラと陽光を集めた明るい部屋なのに、気持ちだけが塞いでいた。

 あの日の午後の作業は、過去の経験には覚えがないくらい汚れ仕事のように感じて、自分のお財布から全てのお金を出して広げてみた。

 7,904円‥‥次の給料日まで何日あるんだっけ‥‥‥あたしは自分の労働時間をぼんやりと思った。

 

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詩 : 『 朝月夜 』(過去作品)

詩 : 『 朝月夜 』(過去作品)

            (詩:約400字)

朧月夜に 何を想う

この人は 信用できる
確信をもつ 瞬間(とき)があり

昔から 知っていたように
いつまでも 離れないこと
ずっと前から 決まりのように
なんで前から いなかったのか
引きあう たましいに 出会えても

予感は 理由(わけ)なく おとずれる

あなたが 教えた 「あさづくよ」

何ものぞまぬ 真夜中に

暗さを残して 浮かぶよう

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短編 : 『ナイフと宝もの』

短編 : 『ナイフと宝もの』

  (約1,600字)

ひとちゃんが死んだー?

ある日、病院の一室に呼ばれた。

あたしはひとちゃんが子どもの頃、唯一、友達と呼べる遊び仲間だった。

学校に行くと、あたし達は口を聞かなかった。ひとちゃんは俗に言う悪い育ちの子だった。

あたしは「水商売を生業にしている家の子とは遊んじゃダメよ」と言う母の教えを守った。

だから、誰もひとちゃんとあたしが宝箱を共有する仲良しだとは知らなかった。

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『なかみがみえ無い』#毎週ショートショートnote

『なかみがみえ無い』#毎週ショートショートnote

(410字)

そこへ行く時間は限られた
人目につかない時間と

仕方なくKを誘った
一人では心許ない

西館と東館の入り口は封鎖されている
西館からは地下から東館へ行く通路がある

古い建物で使われていないが、西館に縁があった私は鍵を持っていた

「ねぇ、コレを記録しちゃだめ?」

Kは徐ろに最新機種を取り出して、懇願の表情をうかべた

「どうせ都市伝説。価値があるとは思えないけど、姿を映さない

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『花月草紙』#毎週ショートショートnote

『花月草紙』#毎週ショートショートnote

          (410字)

ウォルさん、また頭が痛いらしいよ。

え〜、ウルシ、また?早退すりゃいいじゃんね。てか、あの子、なんで「ウォルさん」て呼ばれてんの?

髪の毛が、ウォールナット?だからでしょ。
今、ソコどうでもいいんだけど。薬持ってきて欲しい、って‥‥

ダメじゃん、うちら、アメリカ製の保健室からは勝手にもらえないんだよ。
ー本人が出向いて、その人の薬でなきゃー

あ、やばい、

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短編 『 虹 』(最終話)

短編 『 虹 』(最終話)

     (約850字)

 2人は、欠けたピースを探していただけの同士だった。

 エイトは、足が伸ばせるソファーで寝るように言っても聞かなかった。

 私がベッドで眠る横で、座ったまま手を触れていた。

「一晩、それじゃ、風邪ひくよ」

私が怒ったフリをして言うと、嫌々そうな顔をして、ソファーに置いた毛布をズルズルと引っ張ってきた。

しばらくして、私は今の会社の人事異動の話を切り出した。

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短編 『 紫 』

短編 『 紫 』

 (約1,400字)

 苦しそうにエイトがうつむいたのを見た。

「ほんとのこと‥‥話す」

ー固唾を飲む、こういうことだ。
 普段感じない気持ちを抱えながら、私は両手に力を入れてエイトの言葉を待っていた。

「兄さんのこと、知らないと思うんだ。兄さんは昔から、女の人がほっとかないからさ。いろんな女の人と付き合ってた」

 声を出さずに頷いた。

 みどりさんに会ってからも、他に好きな人がいたん

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短編 『 紅 』

短編 『 紅 』

          (約1,500字)

 遠くに羊雲が広がっていた。
 朝露が葉っぱから滴り落ちる先にはまだ、受け皿に空の青がくっきりと映っていた。

 ジンちゃんの喫茶店に、タッパーを受け取りに行くエイトがいるはずだ。

 明るい紅を差したような外国のマスコットの人形を吊るしたコットンバッグを肩から下げた。バッグには薄布でくるんだ絵本を入れてある。

 私は洋服をワンピースに着替えてから、ブー

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短編 『 卵 』

短編 『 卵 』

 (約1,200字)

 勢いよく通り過ぎた風は、説明できないもやもやした気持ちと、クリスマスカラーのシャツから放たれた軽やかな無邪気さを受けて、帰り道が寂しくなかった。

 いつからだったろう。

 エイトの横顔であの人を思い起こさせていた現実から、いつの間にか逆転してしまったのは‥‥
 あの人を想う前にエイトを思い出すようになってしまった。家までは10分もかからない道のりが、明日のことを考えて

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短編 『 橙 』

短編 『 橙 』

 (約1,800字)

「クリスマスって誰のためにあるんですかね」

 ジンちゃんに夕食をオーダーした私は、カウンターのピカピカに光る一枚板のテーブルの手入れの良さに見惚れながら、頬杖をついていた。

 今まで目の中に入っていたのか、喫茶店の隅々まで行き届く清潔さと、小物やインテリアの観葉植物に、マスターのセンスが心地よくて人が集まる場所としての意味を持つことを改めて感じていた。

 ジンちゃんは

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短編 『 銀 』

短編 『 銀 』

     (約1,100字)

 あれから2日間は、遅れを取り戻すために必死になって目の前の仕事に没頭した。

 ぐっすり眠った朝に、朝の光が届く前、彼の夢を見ていた。その左手が首の後ろから軽く支えられている。身体が温かく守られて満たされている高揚感を覚え、すぐ目の前の顎の下に額を寄せていた。
 ずっとこうしていたいと思う気持ちで軽く目を閉じて数秒後、もう一度、頬に顔を近づけた先には、エイトがいた

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