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コラム 母親たちは南西風 - ミトコンドリアDNAにみる母系の移動 1

『私たちはどこから来たのか』。よく聞く言葉ですよね。学生は誰かしらこの成句を使って作品を作っているし、企業でもこのフレーズで商品や研究のコンセプトを説明していることが多い気がします。いや、皮肉じゃないです。私も人一倍どこから来たのかに関心がありますから。それが高じて遺伝子検査でルーツを調べました。長年の夢だったんです。

ちょっと昔話をします。私が遺伝子検査に興味を持った原体験として記憶しているのは、2007年に東京国立科学博物館で開かれた『インカ・マヤ・アステカ展』です。展示を見終わった後で何を思ったのか、自分にはアンデスの血が入っているに違いない!と思ったんですよ。意味不明ですよね。単に展示に感化されただけだと思うのですが、若さゆえの感受性というか……
すごく朧げな記憶ですが、インカ・マヤ・アステカ展の出口の壁には世界地図があり、人類の移動の経路が示されていました。たしか、6%くらいの日本人がアンデス(当時の私の中ではアンデス=南アメリカでした……)と関係している的なことが書かれていたように思います。曖昧な記憶なのでそのまま信じないでください。17年も前のことです。また、研究も進んでいるので、当時はそうだったとしても今は全然違うということもあり得ます。だって今考えると、南アメリカと6%もルーツが関係しているとはおおよそ思えないんですもの。その逆に南アメリカに日本のルーツが6%入っているというのも多すぎる気がします。
でも、とにかく自分はその6%であるに違いない!調べたい!私はアンデスにゆかりがある!はず!とか若い頃は思っていました。その頃からDNAでルーツを調べることは可能だったと思うので、いつか検査が手に届くようになったら調べたいとずーーーっと思っていました。

それから16年後の2023年夏、ついに母系のルーツを辿るミトコンドリアDNA(以下mtDNA)を調べることができました!私にはY染色体がないのでmtDNAだけですが、母系がわかっただけでもとっってもうれしいです。
(本当は父系も調べたいけど。同じ検査料を払っているんだし……でもまあ今回は良しとする。念願が叶ったし。でも、なんとか女性も単体で父系のルーツ調べられないですかね。昔ニュースで女性の皮膚細胞か何かからY染色体を取り出す?戻す?ことに成功したとか見た記憶があるんですけど、どうなったのでしょうその後。調べても全然出てこないです。記憶違いかな。このコラムの内容の信憑性が疑われる……)

ドゥルルルルルルそれでは発表します。私のmtDNAハプログループは……Z。詳細なサブクレードはZ5でした!

私の周りのZ5は母以外繁殖していないのでこのままでは絶滅が危惧される

Zとはなんぞやという人もいると思います。mtDNAのハプログループの名称は実は少々ややこしい。誰もが知る人類の起源はアフリカです。全ての人のmtDNAはこの人に行き着くというミトコンドリア・イヴのナナ婆ちゃんももちろんアフリカ出身です。婆ちゃんの孫たちはまずアフリカに残るかアフリカを去るかに分かれ、その後は大雑把にいうと中東あたりでヨーロッパ方面に行くかアジア方面に行くかに分かれます。
で、ナナ婆ちゃんのハプログループはLなんです。そこはAであってほしいですよね。だって ナナはアフリカ生まれアフリカ育ち 悪そうな奴は全員孫達 悪そうな奴とハプロ同じ
mtDNAにおいてなぜアフリカがLなのかというと、発見した順からアルファベットを割り当てていったからです。なぜかまずアメリカ先住民から遺伝子検査をしたらしく、そこでみつかったものにABCDと当てていったという話なのです。そこはアフリカの民からじゃないのか。検査に差別的な意図がなかったことを祈るばかり。研究が遅れたY染色体ハプログループはその反省からアフリカがちゃんとAになっています。

ということは……そう、Zはまごうことなき最後。ラスト。ラストはでも、言い換えると最新を意味します。あまり詳しいことはわからないけれど、比較的最近発見されたグループなのだと思います。多分ですがZは絶対数が少ないからなかなかみつからなかったのかも。日本には1.2 ~ 1.3%くらいしかいないし。自分のことなので色々調べたんですよ。でも、Zは英語の情報を見ても全然ないんですよね。Z5になると目も当てられない。英語版のWikipediaにちょこっと記述があるくらいでほとんど何もわかりませんでした。
(ちなみに、Z5とはZからさらに分かれたものでZ1からZ8まであるようです。今はもっと増えているかも)
それで、聞いてみたんです。ChatGPTに。ネットは広大だわの情報を全て吸い上げていると思われるChatGPTですらZ5の情報はほとんど持っていませんでした。言い訳はいつもの2022年までの情報しかないというやつ。充分だと思うけど。

mtDNAハプログループ拡散経路の推定
User:Maulucioni - Migraciones humanas en haplogrupos mitocondriales.PNG, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=32585433による
Y染色体ハプログループ拡散経路の推定
ABCEdit - 投稿者自身による著作物 based on the following reference;崎谷満『DNA・考古・言語の学際研究が示す新・日本列島史 日本人集団・日本語の成立史』(勉誠出版 2009年)The map is from https://www.ac-illust.com/main/detail.php?id=1786119# (No copyright), CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=95315291による


そして話は私のmtDNAに戻ります。私の母系が辿った経路は L3 → M → M8 → CZ → Z → Z5 だそうです。上のmtDNA拡散経路図にZはありません。CZまでです。あくまでこの図は拡散経路図の一例で全てを網羅しているわけではないのですね。調べたところによると、Zは中国の北東部で発生したそうです。現在でいうところの長春や内モンゴル自治区の辺りかな。そこからおそらくは弥生時代以降に九州から日本にやってきたのだと思います。

私たちはどこから来たのか、母系バージョンの答え

ちなみに、ハプログループと民族は関係がありません。一例を挙げるとZ、アジアだけではなく北欧にも見られるんです。東はカムチャッカの先住民から西はフィン人やサーミ人まで、Zはユーラシアの北部全域に拡散しました。なぜか少数民族に多いんですよね。私の場合、母系の発生は中国北東部だけれど民族構成は99%日本人という、若い頃の妄想「アンデスの血を引いている」をぶち壊す結果でした。
た だ し、100%の日本人ではないんだな、これが。0.6%の未分類というわくわくの余白も残っているんですよ。もしかしたらアンデスの知られざる民族の可能性が……これは父系もぜひ調べたくなります。でも、父が協力しないことは目に見えているのでほとんど諦めています。これで私のY染色体ハプログループを知る機会は科学や技術の進歩一点賭けとなりました。科学者や技術者のみなさん、生物学的女の細胞からぜひY染色体を安価に取り出してみてください。女にYがないのはわかっていますよ、わかっています。でもこのままだといまいち父系のルーツに関心が持てなくて、本を読んでいてもY染色体のページは読み飛ばしてしまうんです。遺伝子検査も遺伝子関連の本も、女は半分損をする。


続く!


え?石拾い専門雑誌じゃなかったのかですって?これ続きものですから。そのうち石拾いにつながる壮大な物語が始まる予感がしませんか?全mtDNA Lを起源にもつ者が泣いた予感が……


↓ 続き


参考:

私が使った遺伝子検査キット
もっとルーツの解説を詳しくしてほしいとか色々あるけれど、手に取りやすい価格で調べられました。
(説明は本当大雑把なので知りたければ自分で調べる必要がある。結果だけ手に入れられるものと考えるのが吉)


インカ・マヤ・アステカ展
見よ、この懐かしいリンク先を……17年も昔のことだけれど、緑地に金の文字と太陽のマークは今でも覚えている。


いつ遺伝子でルーツを知るサービスができたか
globeの記事によると、遺伝子でルーツを知るサービスは2000年あたりに登場したらしい。まずはアメリカからだろうから、日本に来たのはその数年後くらいかな。私が2007年時点で遺伝子検査でルーツを知りたいと思っていたので時間的に齟齬はないと思われる。

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