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コラム 母親たちは南西風 - ルーツを知ることの裏側にあるもの 2

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謎多きmtDNAハプログループZ。日本に1.2~1.3%しかいない少数グループです。それでも調べれば少しずつ情報は出てくるもので、今回はZとそのサブクレードZ5に焦点を当てて今わかる限りのことを書いていきます。今回のコラムは主に英語版Wikipediaと篠田謙一著『新版 日本人になった祖先たち DNAが解明する多元的構造 NHKブックス』(以下、本)から得た知識で書いています。
(昔の私はWikipediaに書いてあることを基にちゃんとした文章を書く奴は信用ならんと思っていた。このコラムは特別。本当に情報がないんです。研究者の皆さん、情報お待ちしています。え?これがちゃんとした文章なのかですって?最近なんか色々声が聞こえる気がするから耳鼻科に行ってこようかな。みんな、健康診断は大事だよ!)

さてmtDNAのZですが、Z1〜Z8まであります。英語版Wikipediaを見るとZ2, Z3, Z4, Z5が日本で観測されたそうです。日本におけるそれぞれの比率はわかりませんが、均等に分けたとすると我がZ5は0.3%くらい。日本の人口が1億2000万人だとしたら36万人です。少なすぎてちょっと怖い。札幌の人口の5分の1もいない。札幌が大都会すぎるのかも。うん。

まずはZのサブクレード全般を見ていきたいと思います。ほとんどが英語版Wikipediaの情報の翻訳です。原文を確認してもらえればわかると思いますが、いくつかのクレードはとても細かく分かれているので大分割愛しています。

備考:
TMRCA = The Most Recent Common Ancestor(共通祖先)
CI = Confidence Interval(信頼区間)
ybp = years before present(〜年前)

Z
タイ(チェンライ県ブラン市)

Z-T152C!
香港
共通祖先 24,300 [95% 信頼区間 19,300 <-> 30,300] 年前

Z1
Z1のサブクレードはめちゃくちゃ多いので割愛。コリャーク、ブリヤート、イタリア、ハンガリー、ロシア、ノルウェー、フィンランド、エヴェンキ、ユカギールなど
共通祖先 18,600 [95% 信頼区間 10,900 <-> 29,500] 年前

Z2
日本(東京・愛知など)
共通祖先 3,900 [95% 信頼区間 1,450 <-> 8,400] 年前

Z3
日本(東京)、そのほかにも世界中にZ3のサブクレードは広がっている。割愛
共通祖先 21,000 [95% 信頼区間 17,200 <-> 25,300] 年前
・Z3c 日本(東京)

Z4
アジアを中心にZ4のサブクレードは広がっている。割愛
共通祖先 14,900 [95% 信頼区間 9,200 <-> 22,800] 年前
・Z4a 日本(東京)
・Z4a1a1 日本(東京など)

Z5 👈
日本(愛知)

Z6

Z7
ディラン・モンパ、チベット(要出典)、シャンナン、ネパール(ネワール人)
共通祖先 1,750 [95% 信頼区間 275 <-> 6,200] 年前

Z8
ネパール(ネワール人)

おわかりいただけただろうか。それぞれのクレードの情報量に偏りがあることを……Z5は共通祖先の年代情報がなく、いつZから枝分かれしたかわからない。多分、世界的に広がりを見せておらず数も少ないから研究できていないのだと思います。
そしてZ6の情報はありません。どうなっている。こうしてZ5はZ6よりマシということで溜飲を下げられそうになっているが下がりませんよ。騙されません。あとZ7、枝分かれしたの最近すぎないですか?信頼区間のもっとも新しい時期は275年前だと……江戸時代じゃないですか。変異って目まぐるしく起こるんですね。
とにかく、Z6は謎なもののZはかなり拡散しています。東はカムチャッカ西は北欧、そして南はネパール。拡散力すごい。本によると、初期に大きく拡散したものはそのまま拡散し続けていく傾向にあるそうです。ということは、Zには初期に拡散せざるを得ない何かがあったのかな。

これもしかしたらWikipediaでサブクレードが詳細に書かれているものは検体の割合が多く、つまりは人口も多いのかもしれません。この予想が当たっているのならZ5は日本において36万人どころか20万人いない可能性が。20万って大都会札幌の10分の1じゃん……
そしてアジア中に広がったZ3ですが、本に面白いことが書いてありました。第十代将軍徳川家治の生母、梅渓幸子がZ3だそうです。ということは家治もZ3。そこで幸子・家治について調べてみました。
まずは息子の家治ですが、生物学的男性なのでmtDNAは子どもたちに受け継がれません。幸子の子は家治一人なのでZ3は家治で途絶えます。家治は将棋好きで政治は田沼意次に任せていたそうです。愛妻家で妻との間に男の子が生まれなかったので側室を持たざるを得なくなったそうですがなかなか決めなかったと。好感度高いぞ家治。でも、田沼の薦めでようやくOKし、その条件として田沼も側室を持つことになったそうです。意味わからん。好感返せ。
続いて母の幸子。別名至心院といい、京都から江戸に来ています。第九代将軍徳川家重の側室として家治を産んでいます。父親は梅渓通条で梅渓家の三代目。公家です。幸子の生母となる通条の妻は家女房……それ以上辿れません。親族ではない私は辿れたとしても父親の名前+子で終わりです。公家の家女房も公家の確率が高いのでおそらく公家の子としかわかりませんでした。

一方、Z界で躍進しているZ1。本にはZ1と北海道に関することが書いてありました。
北海道の先住民はアイヌ民族で、その前には縄文人や続縄文人、オホーツク文化の人たちもいます。現在のアイヌはこれらの集団が混ざった人たちとのことです。日本人も色々と混ざっているので、民族とはそういうものですよね。前述のようにZ1は広域に拡散し、ユーラシア北東部にもその足跡を残しています。最終氷期には北海道と大陸が地続きだったのでZ1の民も北海道に来ていたのですね。北海道の縄文・続縄文人からZ1がみつかっているそうです。本によると、縄文・続縄文人から1.4%程度のZ1a2が、近世アイヌからは1%程度のZのmtDNAが見られるそうです。一方、オホーツク文化人にZは見られないし、現代アイヌにも見られないかごく僅か(その他の2%内に吸収されている可能性)になっています。

なぜ昔の人のハプログループがわかるかというと、骨から採取したDNAを調べたからです。古代人なり近代人なりを調べようとすると大抵は墓を掘り返すことになると思います。そうすると許可や手続き、当事者や関係者の理解が必要となります。それは民族関係なく誰に対しても同じです。盗掘などの方法が取られた場合、そうして書かれた論文を国際ジャーナルは受け付けません。当然です。
北大人骨事件など盗掘だけではなくその保管方法も杜撰で敬意を欠き、謝罪をしないなど二重三重に死者の尊厳を傷つける行為もありました。この問題は今も続いています。アイヌに関しては博物館や大学などから未だ返還されない遺骨も多いようです。以下が参考になると思います。


ルーツを知ろうとするとき結果だけではなく、その過程で何が起きていたのかにも目を向けることが大切だと思います。上記の北海道先住民とZの関係は今回参考にした本『新版 日本人になった祖先たち DNAが解明する多元的構造 NHKブックス』に載っていたものですが、私がこの本を今回参考にした理由に、著者が北海道アイヌ協会の理解を得て調査したと明記していること、アイヌに対する研究者たちの行為に反省すべき点があると言及していることがあります。また、本全体の内容がルーツによって分断を煽るものではなかったことも挙げられます。

軽い文体が特徴のこのコラムですが、言わなければならないことはちゃんと言わないとね。特にZは少数民族に多いから。どのような経緯で今その民族の中にZがいるとわかっているのかについては注意していきたい。みんな私みたく自ら興味を持って調べて(亡くなっている場合は遺族や関係者が)、Zだったーってペラペラしゃべっているのだと良いのだけれど。


続く!


え?石はどうしたのかですって?まだまだ続きますからこのシリーズ。そんなに石が好きなら文章の中から石偏探してみて。

↓ 続き

参考:

梅渓家の家系図

梅渓幸子(至心院)と徳川家治
このコラムWikipediaばっかじゃん!という声が聞こえる気がするのでやっぱり耳鼻科に行ってきます。


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