見出し画像

コラム 母親たちは南西風 - 遠い親戚近くの他人と言うけれど 4

↑ 『母親たちは南西風』のバックナンバー

皆さんこんにちは。誰も読んでいなくても書き続ける、淘汰の存在しない世界ことこのコラムは気づけばもう第4弾ですね。毎回好評なのでmtDNAのZ以外の方も見ているのだと推測します。自分とは違う、しかも少数ハプロについて詳しくなるのはとっても良いことだと思います。
ミトコンドリアDNAでルーツを巡る旅の第4弾は、mtDNAハプログループZ率高めと思われるサーミ人と、リサーチ中にみつけたミトコンドリアZ戦士の仲間、エヴェン人について書いていきます!

Zはユーラシア北部を中心に広域に拡散しています。ハプログループZで調べると高頻度でその名前が出てくるのが北欧の民族サーミ人です。伝統的にはラップランドで暮らし、トナカイの飼育や狩猟、漁をしています。そんなにZ関連で出現頻度が高いのならさぞZの割合が多いのだろうと思い調べてみました。今回のソースは科学ジャーナルとして名高いnatureからのEuropean Journal of Human Geneticsによる『A recent genetic link between Sami and the Volga-Ural region of Russia』です。
それによると、北欧のサーミのハプログループは南スウェーデンを除きVとU5b1b1が多数派だそうです。南スウェーデンのサーミは大陸ヨーロッパのハプログループと似ているとのことでした。あれ?Zそんなにいなさそう。なんでだろう。
おかしいなと思いながらも論文を読み進めていたところみつけました。下のリンクには各北欧のサーミがどれくらいZを持っているかの割合が書いてありました!それによると大陸ヨーロッパとノルウェーのサーミにZは見られませんが、フィンランドのサーミには7.2%、南スウェーデンで伝統的な暮らしをしているサーミにはなんと10.9%もZがいるそうです!これだけ多いとZの説明でサーミが出てくるのも納得です。

そしてこの下の図を見てほしいです。なんと日本について言及がありました。cにはmtDNAハプログループZの「個人のmtDNA全ゲノム配列に基づく、関連する置換位置を持つ中央結合ネットワーク」(機械翻訳)(なんのことかわからん)が載っています。ピンクの点が日本とのことです。なんだか多いような気がします。それにしても見方がわからないですね。いっぱい分化しているのはどのクレードなのでしょうか。気になるなあ。

Median-Joining networks with relevant substitution positions based on the complete mtDNA genome sequences for individuals with haplogroups (a) V, (b) U5b and (c) Z. The networks have been constructed as described in the text. The colour coding is a follows: green – Sami; blue – Finland; red – Volga-Ural; orange – Continental Europe; pink – Japan; yellow – NE Asia; light blue – China; light green – India.

引用:『A recent genetic link between Sami and the Volga-Ural region of Russia』https://www.nature.com/articles/5201712/figures/1
European Journal of Human Genetics (Eur J Hum Genet) ISSN 1476-5438 (online) ISSN 1018-4813 (print)

aは主に中央から派生していてなんというかウイルスみたいな形をしていますが、下のふたつは枝のような形をしています。色々な分化の仕方があるみたいでおもしろいです。
あと、Z1が西アジアと北ヨーロッパでは全てのZ系統を占めると書いてありました。Z1aであるサーミとZ1の北東アジアのコリャークのつながりは1万3000年前に遡るそうです。ちなみに、前々回の第2回目の記事で言及した縄文人・続縄文人にZ1a2がみつかっています。ここでもZ5の存在感は無でしたが、縄文人・続縄文人とサーミが近い関係であると知ることができて良かったです。

続いて、エヴェン人について見ていきましょう。エヴェンは主に東シベリア北部に暮らしておりトナカイの放牧や狩猟、漁を営んでいます。エヴェンキとは名前が似ていますが別の民族です。
mtDNAについて調べていると、Zが多い民としてはよく「東シベリアの先住民」や「カムチャッカの先住民」という抽象的な書き方がされていることがあります。どの人たちのことだかわからなかったのですが、この度エヴェンなのではないかということが判明しましたので報告します。エヴェンのmtDNAハプログループを知る上で今回参考にしたのはPLOS ONEという「オープンアクセスの査読つきの科学雑誌(Wikipediaより)」です。まずはこの下の図を見ていただきたいと思います。

Map of Siberia showing approximate locations of sampled populations and their basic haplogroup composition. (Sub)population abbreviations as in Table 1
引用:PLOS ONE『Investigating the Prehistory of Tungusic Peoples of Siberia and the Amur-Ussuri Region with Complete mtDNA Genome Sequences and Y-chromosomal Markers』よりhttps://journals.plos.org/plosone/article/figure?id=10.1371/journal.pone.0083570.g001

KAMとBERにZが多いですね。KAMとはカムチャッカ、BERとはベレゾフカとのことです。そして論文を読んでいくととんでもない情報を発見しました!

Among the Evens, haplogroup Z is found at particularly high frequency in the eastern subgroups Kamchatka (28.2%) and Berezovka (26.7%) and in intermediate frequency in the Tompo Evens (11.1%), but is low to absent in Sakkyryyr and Sebjan, respectively.

訳:エヴェンの中で、ハプログループZは東部サブグループのカムチャツカ(28.2%)とベレゾフカ(26.7%)でとりわけ高い頻度で見られる。トンポ・エヴェンで見られる頻度は11.1%と中程度であるが、サッキュリイールとセブジャンではそれぞれ低い頻度しか見られない。


PLOS ONE『Investigating the Prehistory of Tungusic Peoples of Siberia and the Amur-Ussuri Region with Complete mtDNA Genome Sequences and Y-chromosomal Markers』よりhttps://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0083570

おおっエヴェンにはそんなにZがいるのか!エヴェンキは聞いたことがありますがエヴェンは馴染みのない名前でした。どんな人たちなのだろうとEcosiaでエヴェンの画像検索かけたらエヴァンゲリオンがいっぱい出てきたけど、みんなそんなネイティブみたいな発音してるの?
英語版Wikipediaによるとエヴェンの人口はおよそ22500人です。そこからカムチャッカとベレゾフカの20%強となるとさらに数は小さくなるでしょうが、数千あるいは数百のエヴェンのmtDNAハプログループはZなのです。
エヴェンのZはZ1a系で、Z5の私とはやはり遠い。物理的距離はエヴェンと私の方が近いですが、ハプログループ的にはユーラシアの東端と西端にいるエヴェンとサーミの方が近いということになります。おもしろいなあ。ちなみに、梅渓幸子と徳川家治でお馴染みのZ3はエヴェンキや北ヤクートにも見られるそうです。

サーミの人たちにもエヴェンの人たちにもぜひいつか会ってみたいです。ハプログループが一緒というだけで生まれも育ちも全然違う者同士だけれど、一緒に木陰でゴロゴロするだけでも楽しいはず。
きっとヨーロッパには行く機会があるから、その時はフィンランド航空使ってストップオーバーしてラップランド地方に行ってこようかな。カムチャッカは火山地帯だしエヴェンの人たちにも会えるし、私にとって特別な場所だったということが今回判明してうれしいです。
道民の私からすればカムチャッカは沖縄と同じくらいの距離なので行きやすい場所なんですよね。直線距離の話ですが。世界は訪れてみたいところでいっぱいです。遺伝子検査して良かったー
戦争なくなれ!!


続く!


え?また石のこと言ってるの?そんなに石拾い好きだったの?


↓ 続き


参考:

European Journal of Human Geneticsの『A recent genetic link between Sami and the Volga-Ural region of Russia(サーミ人とロシアのヴォルガ・ウラル地方の近年の遺伝的つながり)』

PLOS ONEの『Investigating the Prehistory of Tungusic Peoples of Siberia and the Amur-Ussuri Region with Complete mtDNA Genome Sequences and Y-chromosomal Markers(完全なmtDNAゲノム配列とY染色体マーカーを用いたシベリアとアムール・ウスリー地方のツングース系民族の先史時代に関する研究)』

エヴェン人の人口

映画『サーミの血』
監督も主演もサーミ。自分たちのことを自分たちで描くという行為はとても大切なことだと思う。もう大分前に観たけどもう一度観たくなった



この記事が参加している募集

一度は行きたいあの場所

石拾い専門雑誌を創刊するためよろしくお願いいたします。