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短歌

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【短歌連作】有限の夏

【短歌連作】有限の夏

夏は有限、光のもとの肌たちの返す光が少し強すぎる

掻きこわす病をもたぬ人たちの誇らしそうにかがやく露出

唇と爪をあかあか目立たせてオルガン坂を少女ら登る

気づいたらいつでも痒い皮膚だった夏は有限だから許せる

やはり着るまだらに暗い腕と脚のくせにスカートも半袖も

有限の夏のためかぶる安物のカンカン帽のつばがぐにゃぐにゃ

(2019/08/22)

【短歌14首連作】肩が痛い2

【短歌14首連作】肩が痛い2

*肩が痛くて作った短歌連作の始まりはこちら↓

肩が痛い、ただそれだけでわたしたちわかりあうかもしれぬ初夏

肩こりをきっと武術の達人はわたしが歩くだけで見抜くだろう

湿布薬うまく貼れないもどかしさ えいっ(ぺちっ)が成功しない

わたしたち勉強すれば合格と肩こり持ちにまっしぐらだね

「肩こりは英語で直訳できないんだよね」あ、そうですかあ、そんじゃ。

肩こりを新機能として搭載しいざ東京で大学

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【短歌連作】ひゃっかてん、つうかてん、きょうつうてん

【短歌連作】ひゃっかてん、つうかてん、きょうつうてん

僕たちはきらめく肌をもたなくて一階はいつも化粧品売場

あきらめたように静かな階があり整えられた高級寝具

エスカレーター次々人を運びあげ大きなマネキン前へと降ろす

百貨店の屋上を転々とする怪獣たちをヒーローが追う

怪獣とヒーローたちが去ったあと都市の空き地としての屋上

喫茶店どこも高くて屋上の自販機で落とすセブンティーンアイス

ひゃっかてん、僕らの通るつうかてん、きょうつうてんを少し見つ

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【短歌連作】肩が痛い

【短歌連作】肩が痛い

肩が痛いといふ困難を六年間放つて置いた代償だこれが

肩の上に小人が乗つているやうなお伽ばなしは肩凝りである

レントゲン待ちゐるあひだ貼り紙に初めて知れり船医とふ職を

整形外科医に首のつけ根を押されたりうぐぐと声を出せば笑はる

上手いことリラツクスしてとの助言 岩石のやうな首と肩なのに

(2019.07.27)

【短歌連作】Parfait! Parfait! Parfait!

【短歌連作】Parfait! Parfait! Parfait!



フリッパーズギターがラジオで流れてる甘いものだけ食べたい今日は

あまおうパフェひとつぶんの疲れ将来について訊かれて答えるたびに

エレベーターの一階ボタンを慌てて押す もっと素直に喋れたのなら

にがいにがい花束をかき乱すために長いのでしょう銀のスプーン

周辺のどの駅からも遠い場所パフェは食事に含まれますか

全て終わるはずがないんだもう行かないオフィスビルの名前ばっか覚えて

2019.

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【短歌連作】樹々を光らす

【短歌連作】樹々を光らす



十二月はそういう時期で歌手の死や俳優の死をふたたび知らす

電流が樹々を光らす道にいて男女二人であれという呪い

暖冬はすぐ終わったし望まないことも次々叶ってくれる

僕たちを見たことのない誰だかが水を売り買いしてよいと言う

大切にされるのはいつも多数派で少し離れて眺める聖樹

大切にされない側で生きていく歩いても歩いても樹々が光る

乱反射せよ人々、石畳の坂で雨のしずくが白熱している

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【短歌連作】きらきら都市

【短歌連作】きらきら都市

ゴーカートのどれかひとつに飛ぶ機能 夕焼けならば特に加速する

メリー・ゴー・ラウンド、僕らは勝ち戦のきらめきを知らぬままで育った

青く発光するウォータースライダーがしぶきを上げた都市の一点

観覧車にすくい取られるためだけに登る階段がまだ終わらない

絶叫の軌道を耳で追うほどに弱く閉ざされゆく遊園地

虹色に光る遊具で埋めつくす大人たちみな夜行性につき

初夏の騎士じゃなかった僕たちのための国

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〈7首連作〉プラットフォームの三分間

〈7首連作〉プラットフォームの三分間



プラットフォームの三分間 廣川ちあき

頭上には鳩の羽音が行き来して駅は岩場に似ているらしい

駅までに傘に集めた水滴は文字を書くには少し足りない

両の睫毛に鉄の庇を装備して女らプラットフォームに並ぶ

ささえもつ脳の重たさ紫陽花は枯れゆくときもまるさを保つ

戦いに赴く列に今朝塗ったバターの色のスカートの人

靴の歩みの流れを分かつ石としてまもられているアゲハチョウの死

枕木を千の鏡に掛

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聖使徒の像――2013年長崎連作――

聖使徒の像――2013年長崎連作――



折鶴の束の原色照りつけて八月二日いま爆心地
天主堂を望む背後の蝉時雨ひとりになりてただ黙すのみ
きちんと見つめるから何も語らなくていい 少女うつむくケロイドの頬
爆心の碑柱の黒くそびえ立つ先の青空ますます青し
爆心の碑を去る前に空を見よ竹山広の歌を思えば
爆風は確かにここに吹いたのだビルの間の片足鳥居
子どもらの笑い声して遠ざかる被爆詩人の詩碑を残して
物言わぬことも静かな力なり瞼伏せたる聖使

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