マガジンのカバー画像

140(41)~(50)

10
運営しているクリエイター

記事一覧

140(50)

日本酒に甘辛があるように、二人の恋模様もときに甘くときに辛い。古びた酒屋ではなく、もしもパソコンの前で、もしもテレビの前で、あの歌に出会っていたとしたら。そのときはまた違った感情が芽生えていたことだろう。酔いが醒めるような清々しさは更なる口寂しさを生み、さらに日本酒を流し込んだ。

140(49)

心を覆う雲陰。心を覆う雲陰。一筋の光あり。心を覆う雲陰。心を覆う雲陰。一筋の光あり。心を覆う雲陰。一筋の光あり。一筋の光あり。心を覆う雲陰。一筋の光あり。一筋の光あり。一筋の光あり。心を覆う雲陰。一筋の光あり。一筋の光あり。一筋の光あり。一筋の光あり。一筋の光あり。心を覆う雲陰。

140(48)

みすぼらしい人生だから、蜚蠊みたいに暗がりをあちこち逃げ隠れて生きてゆくと決めたの。みすぼらしい人生だから、蜚蠊みたいに暗がりをあちこち逃げ隠れて生きてゆくと決めたの。みすぼらしい人生だから、蜚蠊みたいに暗がりをあちこち逃げ隠れて生きてゆくと決めたの。みすぼらしい人生だったから。

140(47)

「あなたの娘さんが交通事故に遭いました。今すぐ来て下さい」突然の電話に顔色を失い着の身着のまま自転車を走らせたが、辿り着いた病院に娘の姿はなかった。「夫が亡くなった」葬儀費の工面を求め牧師に電話をしてきたホームレス女性は噂の再婚相手か、電話の向こうで死んだはずの夫の声が聞こえる。

140(46)

映画撮影のため近くの山腹に入ったのは午後11時。先にお手洗いを済ませようと公衆便所に足を踏み入れた瞬間、非常ベルが鳴る。誰の目にも明らかな心霊現象だった。すぐパトカーが来て彼らは草むらに身を隠す。まだ未成年だというのに、機材ケースに買ったばかりのキャスターマイルドを忍ばせていた。

140(45)

あまりにおいおい泣くものだから、店の外に出て2人きりで話すことにした。心配した彼の同期も後で数人駆けつけてきた。すいません先輩の面汚しみたいなことしてしまって。自分には何のことかてんでわからない。優しく肩を叩く。心底幸せな時間を過ごせた。その幸せは彼の苦しみの上に成り立っていた。

140(44)

交通事故に遭ってもう10年が経とうとしていた頃、私は歩行困難になった。左足の外踝部に、トンカチで殴られ続けているような痛みがずっとある。歩いていると、自分の身体がどんどんと左に傾いていくのがわかる。レントゲン検査では何一つ異常は見受けられなかったというのに。長い戦いになりそうだ。

140(43)

100か0かみたいな話が世の中溢れ返っている。若干息苦しいので、ほんの少しだけ中間択が欲しい。あえて白黒つけないままで、グラデーションにしておくことで、全てを明らかにしないことで、物事が大きく前進する局面に幾度となく向き合ってきた。100か0かより30とか70の話をしてみないか。

140(42)

それから是非ご家族の皆様に覚えといていただきたいことなのですが、これから始まる治療薬は決して不老不死の体になれる代物でも、寿命を延ばすための魔法でもありません。手術が終わり先の治療を完走してからも、体のどこかでウイルスが絶えず駆け巡っています。それだけ是非心に留めといてください。

140(41)

国道2号線沿いをとぼとぼ歩く、小さな男兄弟に出会った。幼稚園生くらいだろうか。二人とも手ぶらで靴すら履いていない。時刻はもう21時近くなる。街灯もまばらだ。警察を呼ぼうかと考えたが、ためらいを捨てられず声は掛けなかった。本当に後悔している。彼らは何に追われどこへ向かっていたのか。