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クリスマス・イヴ[5-4]
「あたしプリン食べたーい。」
なんて言って、麻美がポイっとカゴにプリンを入れる。
「俺サキイカ買おう。」
「いーねー!じゃあウチ、酎ハイ見てくる!」
「もう、みんな買い過ぎ。」
なんて言っても、
「いいじゃねーか、パーティーだぜ。いっぱい買ってこうぜ。」
とカゴの中はあっという間にいっぱいになる。
クリスマスマーケットを出て今は、スーパーで夜のパーティーの買い出しをしている。
ケーキだけは毎年、馴染みのケーキ屋で注文しているが、それ以外は食事も飲み物もお菓子も全部、スーパーで欲しいものを買い揃える。
5人で割るとはいえ、毎年、何日分?ってくらいの量を買い込む。しかも、それが一晩でほとんど消費されるのが、一番の驚きだ。
「おい、見ろよ。こんなんあったぜ。しかもちょうど5個入り。おもしろいから買ってみよーぜ。」
そう言ってヒロが見つけて来たのは、サンタの衣装を模した、赤い帽子だ。
「え〜それやばぁい。めっちゃウケる。いいじゃん、みんなでかぶろ〜。」
おもしろいことが大好きなあずは、案の定被る気満々。
そんなクリスマス色全開なの、恥ずかしい。
「え、ダサくない?あたしもそれ被んなきゃなの?」
「まあ、今日くらい付き合ってやれよ。」
麻美もあんまり乗り気ではないみたいだけど、健(たける)になだめられて、結局あずとヒロに付き合ってあげるんだろうな。それで、4人がその気なら、わたしは静かについていくのが常。
でもなあ、やっぱり嫌だよなあ。
なんか、今年、今日、踏み出すのがチャンスな気がする。
というか、今日決心しなかったら、わたし一生このままな気が。
でも、今さら帰るなんて、言い出せないよなぁ・・・
「おーい、置いてくぞ。」
「あ、うん!」
また自分の世界に行っていたらしく、気がついたらみんな会計を済ませて出口に向かっていた。
「よし!もうさっそくこれ被るぞ!ほらほらほら、お前らも被れー」
と、ヒロに有無を言わさずサンタ帽を被せられる。
「・・・・・・」
「もう!雑に乗せないでよ。セットが崩れる!」
「いいねいいね〜、クリスマスって感じ♪」
「今日だけだからな。」
いい年した5人がお揃いの帽子を被って街を歩いているなんて、浮かれ具合も甚だしい。恥ずかしすぎて、歩みが早くなる。
「うち着いたらまずは?」
「メシの準備だろ。」
「ってか、その前にケーキ取りに行かなきゃじゃん。」
「あ、じゃあ俺取ってくるから、お前ら先、麻美の家向かっとけよ。」
「本当?ありがと〜。"蒲田"でいつものショートケーキだからよろしく。」
スーパーの袋を麻美と持ちながら、わたしは黙々と先頭を歩く。
ヒロは道端でふざけているし、それを見て健と麻美は爆笑しているし、あずは動画なんか撮っちゃって・・・ほら、通行人の邪魔になってる。
その時、
ーッドン
「うわぁ。」
「あっぶね、なんだ、ガキか。小さいから見えなかったぜ。」
「坊や、気をつけろよー。」
「もう!小さい子にそんな言い方ないでしょ。ごめんね、僕。」
ヒロが小学校低学年くらいの男の子にぶつかった。
ーぷつん
その時、わたしの中で何かが切れた音がした。
「ごめん。わたし、帰る。たぶんこれからもクリスマスパーティーには参加しない。じゃあ。」
そう早口で言い切り、持っていた袋を麻美に押しつけた後、ヒロがぶつかった男の子の元へ駆け寄り、
「怖かったよね、ごめんね。わたしもあの人たち怖くて・・・だからわたし帰るんだ。僕も帰るところだったかな?お詫びじゃないけど、もうわたしはこれいらないから、僕にそれあげるね。メリークリスマス!」
そう言って、あの帽子をその子の頭に乗せ、今来た道を引き返す。
その足取りはさっきと同じように早いけど、さっきまでとは比べ物にならないくらい、軽い。
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