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音と紡ぐ自己②「燈」


今回はこの曲をテーマに、恋愛私小説をお送りします。
読後や読みながらでも、歌詞に注目してお聞きいただければ幸いです。


恋い焦がれて拗らせた男の葛藤を、ぜひお楽しみください。




 十二月も終わりかけの忘年会シーズン。ご多分に漏れず、俺が参加している大学のサークルでも居酒屋で忘年会が開かれた。 
 最近は就活や講義等でサークルを欠席しがちだった「彼女」も、珍しく参加していた。

 二時間半の飲み放題付きのコースだったので、今まで苦楽を共にしてきた同期の前ということもあり、我を忘れて酒を飲み続けた。
「顔、めっちゃ赤いよ〜」
 「彼女」が俺を指差しながら、にへらと笑う。確かに先程から顔が熱いと感じていたが、まさか紅潮する程だったとは。
 しかし、眼の前の「彼女」のいつもは白く透き通るような肌も、ほんのりと赤く染まっている。
「そっちも赤いやん!」
 反射的に大声で返してしまった。声のボリュームも制御できないくらい酔いが回っているらしい。
 「彼女」がもし恋人であったなら、こんな恥を晒すような飲み方はしなかっただろうに。

「彼女」に「好きです」と伝えてから、かなりの月日が経ってしまった。友達としてしか見ていなかったと告げられたあの日から「良き友人」として「彼女」の前で振る舞っている。
 結果、年に数回サシで喫茶店や居酒屋に行くくらいの関係が横たわっているのは、不幸中の幸いと呼ぶべきなのだろうか。


 酒に呑まれて時間を過ごしているうちに居酒屋の退店時間になった。店外に出て、思いの外ふらつく足に身を任せていると「カラオケいかない?」という一人の呼び声に他の面々が賛同し、二次会として行く流れになった。

 店員に通された部屋にはなんと、備え付けのマイクスタンドがあった。
 未だ酔いどれである自分に歌う番が回ってきた際「マイクスタンド行けよ!」と誰かに煽られ、プロのミュージシャンよろしく、マイクに齧り付くように熱唱した。

「今でも青が棲んでいる」
 夏頃に流行していたアニメのオープニングテーマ。「彼女」を前にして歌うと、どこか未練がましい歌詞のように思えた。
「その曲の次ならコレだよね」
 俺が歌い上げた直後に「彼女」がデンモクを操作して入れた曲は、先ほど俺が歌った曲のアニメのエンディングテーマだった。


『僕の善意が壊れてゆく前に』


 低く通る声で発せられたその言葉が、酒に侵された頭を一瞬で醒ました。

『君に全部告げるべきだった』

 続く歌詞が自らを顧みろと言わんばかりに。

「彼女」が好きだったはずだ。

 顔を合わせる度、その声を聞く度、その笑顔に触れる度に、恋焦がれていった。
恋人として貴女の隣にいれたならと、何度願ったか分からない。


 振られた後も想いをひた隠しにして、縋るように「友人」として共に過ごした。

 その時間はかけがえのないもので、あまりに楽しく「想い」に蓋をすれば、こんなにも屈託なく笑い合えるものかと喜びさえした。

 でも、そのたびに「違和感」と向き合うことになった。


「彼女」を知れば知るほど、価値観も生き方も違うと悟った。
 恋人として隣にいたなら、きっと上手くいかなかっただろうと気づいてしまった。

 友人として過ごすべきとする自分、それを否定して「好きだ」と叫ぶ自分。
 友として「彼女」との関係を楽しむほど、かつての「想い」が翳っていく。


 今思えば、無意識にそれを感じ取っていたからこそ、現実逃避として他の人と恋愛をしようとしていたのかもしれない。

 あれだけ想っておいて、俺の心はすぐに移り変わったのだ。

 失恋で傷ついたはずの心を連れ回して「彼女」以外にも「好きだ」と感じた女性達に、幾度となく告白した。

 そのどれもが成就せずに終わって、今は見る影もない。


 相手と時間を経るほど、「好き」が分からなくなっていった。

 恋愛という言葉の輪郭が歪になっていく。



 そんな時、久しぶりに「彼女」と二人で出かける機会があった。

「好きだ」
 心が口走っていた。

 付き合って上手くいかないのだと分かっていて、それでも好きだというのは。

 その「好き」はなんだ? 希望が抜け落ちた呪いか?

「普通の恋人のように好きと感じたり、嫉妬したり、触れたいと、私はあなたに思って欲しい」

 でもそのありふれた好意を何も俺にもたらさないのが「彼女」であって、そんな好意を俺に向ける彼女は、俺が知っている「彼女」ではないのだ。

じゃあ俺が本当に好きなのは??????????????i????????????n????????????????????????????????????????????????????????????????????o?????????????m???????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????k????????????????????????????????????????????????????????????????


※※

 noteを始めた。

「彼女」に振られたことをきっかけに、それでも燻る「彼女」への行き場のない想いを昇華するために。

 でもこの行為は、今まで自分を信頼して共に過ごしてくれた彼女たちへの冒涜ではないだろうか。

 私情を一方的にネットの海で喚き散らすのは、あまりにも身勝手じゃないか。


 それでも彼女たちが別れ際に残した善意が、呪いとなって頭をよぎる。

「私よりもっといい人いるよ」
「性格が合う人が見つかってないだけだよ」

 見つかるの?

「でも、そのままでいてほしいな……」

 そのままでいて、首を長くして待っていれば?

「note頑張って!」
「そのまま自分を貫いて生きてほしい」

 話した、触れた、恋した、誰も彼もが、スターターロープを引き抜こうとする。「ばりとんくりそふぉん」を求め、俺自身を抱きしめてくれることはなく。

_noteの通知に見慣れない青い吹き出しが現れた。

「やば。めちゃめちゃ面白いです。」
「『鉄と恋は熱いうちに打て』、格言ですね!」「いつかばりとんくりそふぉんさんに良き彼女ができますように…」

 コメントだ。

 こんな自分に「面白い」と言葉を紡いでくれる人たちがいるのか!!

ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ


 鎖鋸くさりのこが頭の中に鳴り響く。

 もう後戻りなどできない。
 それなのに、ひとりでに口角が上がり続ける。


「ぎゃはははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 汚い笑い声をこぼす自分は、一体どんな醜い顔をしているのだろう。



「好き」が歪みゆく前に、再びフラれるとしても、君に好意を伝えるべきだった。





音と紡ぐ自己②「燈」

いかがだったでしょうか。


自分が歌詞に共感した出来事を、曲と共に小説という形で抽出しようという本シリーズ(まだ2回目笑)


今回用いた楽曲は「燈」


アニメ呪術廻戦第2期「懐玉・玉石」編のエンディングテーマにもなっている本曲。

小説内では一応濁しましたが、見てた人なら呪術やん!って1発でバレそう......笑


登場キャラクター・夏油傑の心情を歌ったと思われる歌詞たち。

「呪術師」に向き合い続けた結果、呪詛師としての道を選んだ彼。
もう後戻りができない場所で、かつての仲間を想いながらひとりごつ。

そういう曲だと私は解釈しています。


なぜこの曲を用いたのかというと、小説内でも描写した通り、サークルの忘年会のカラオケで実際に「彼女」が「燈」を歌い出したからです。

「彼女」の歌声は何度も聞いたことがあったのに、その歌詞が妙に引っかかって忘れられなかった。
一瞬で酔いが覚めるほどに「彼女」が「燈」を歌っているという状況が、なにか暗示的に思えたのです。


そんなときに更新されたチェンソーマン。
(現在は無料公開が終了してしまった話なので、ジャンプ+のアプリでしたら広告動画を見れば一度だけ読めます……!)


そこには手に入れた日常を捨て置いて、再びスターターロープを手をかける「チェンソーマン」の姿がありました。

このデンジのあり方が、またしても他人事のようには思えなかった。


noteを書き始めて、文学フリマにも出品し「ばりとんくりそふぉん」に向けられる声や期待が日増しに大きくなっていく今。

それでも、失恋で色々拗らせただけの男がこんなところで何やってるんだろうと思う日もありました。

自分を振った子たちからすればいい迷惑だよな……

「本当にそれでいいのか」と。


くだらないならいっそ壊して 歌の中で自由に生きるから

「燈」崎山蒼志

その言葉を「彼女」が歌うなら、もはや運命か笑笑笑


実際、note公式に記事が取り上げられたり、自分の記事にコメントがついたときには、高揚感でどうにかなりそうなくらい嬉しかった。

まるでチェンソーマンのように意見され、期待され、持ち上げられるこの状況を楽しんでいる自分がいる。

いっそ楽しんで、noteの中で自由に生きよう。

その決心に至るきっかけは、他でもない「彼女」だったというわけです。


【おしらせ】

文学フリマで出品した私の恋愛私小説「恋する青の鎖鋸くさりのこの改稿版、並びに続編を1月31日(水)より、毎週水曜日に連載をスタートしようと思います!!!

今回の小説で再三出てきた「彼女」も「恋する青の鎖鋸くさりのこ」に登場する自分をフッた女性の誰かですので、どの登場人物が「彼女」なのかも考察しながら、お楽しみいただければと思います(?)

そういった意味では今回の小説は本来、時系列的には後日譚にあたります。
まあ、小説本編前に上げてしまうのも斬新でいいかなと笑。


次なる文学フリマに向けて頑張っていきたいと思いますので、
何卒応援よろしくお願いいたします🙇🙇🙇

(どんなコメントでも大歓迎です!お待ちしております!!!)

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