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創作小説

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創作と書いておけば、何を書いても良いのではないかと思いまして
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#書き散らし

時を殺して / 創作

時を殺して / 創作

年が明けてから風の如く一週間の月日が流れた。職場のデスクで飛び交う新年の挨拶も月並みなもので、三度、同僚間のやり取りを見遣りながら飽き飽きしていた。オフィスの窓側後方。所望していた訳では無いのだが角の席を宛てがわれたことで、私は上司と、隣のデスクの人間に挨拶をするのみで難を逃れている。幼い頃は「あけおめ」とひと言投げて終わりだったやり取りがこうも社会一般のものとなると、どうも堅苦しく思えるのだった

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Hanamuke. / 創作

Hanamuke. / 創作

知らなければ良かったことなんて生まれてから幾つもあるし、私は尽く執着をするタイプだから 物心がついた頃からのそれは凡そ記憶の中に留めている。20数年分の蓄積。その何れの軍を高高と超えてしまうくらいに知らなければ良かったと思っているのが、「先輩の結婚」だった。画面いっぱいに写っている彼女はとても幸せそうで、婚姻届の脇に据えてある指輪が二つに折り重なっている。「何ヶ月も悩んでやっと購入を決意した」とい

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Cigar song writer / 創作

Cigar song writer / 創作

禁煙を宣言した友人と縁を切った。
大学四年間を共に過ごした彼が今となっては元友人という名に変わり、単なる同級生という関係に落ち着いている。出会った頃から暇さえあれば外に繰り出すのが常だった。あちらが彼女と別れたと騒ぎながら、汗だくのまま私の家に逃げ込んで来た大学三年の夏を思い出す。居酒屋で稼いできた雀の涙ほどの給料を折半した家賃に充て、残りの金で酒と煙草を買ってくる彼は川べりで鳴いていた鈴虫が死ん

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夏の遺骸 / 創作

夏の遺骸 / 創作

「泡沫」という字の並びを、" うたかた " と読ませようか、また " ほうまつ " と読ませようか、書き掛けの小説を前にして部屋の片隅でひとり、迷っていた。漢字に変換してしまえばそんな読み方などどうでも良いように思えるし、またこれを読む者もそこまで意識を投げうらないことには違いない。しかしながら、どちらを取るかで意味の奥深さたるものが変わってくるものだから、この頃はどうも勿体ぶってしまうようになっ

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