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創作小説

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創作と書いておけば、何を書いても良いのではないかと思いまして
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2022年6月の記事一覧

メロンソーダフロート / 創作

メロンソーダフロート / 創作

メロンソーダフロートの上に乗せられたバニラアイスクリームが緩やかに溶け始め、液面の混ざりが春の海らしい色を示し始めていた。細いストローを器用に持ち替えてその牙城を崩すと同時に反対側の液面がふわりと持ち上がり、それに倣って私も少しだけ不安定な気持ちになる。

「楽しいままで終わりたい」と書かれた遺書を残しつつ、僅か14歳でこの世を去った中学生の記事を横目に見ながら、もし仮に私が死ぬ時はどんな遺書を残

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君の泣く顔が見たかった / 創作

君の泣く顔が見たかった / 創作

「なんとなくお互い、独身で居る気がするね」

というところまで言葉が出たのであれば、何故「ふたりで一緒になろうよ」という言葉の浜辺まで行けなかったのでだろうか。深い仲になるほど私という存在が君に許されてはいないとして、ならばどうしてそんな意味ありげな言葉を置いていったのだろうか。やっと夏らしくなってきたあの暑い日の、ジュース片手に話す空気感が災いしてそう言わせたのかも分からないけれど、私はとんでも

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Philantrope. / 創作

Philantrope. / 創作

昔住んでいた家に今どんな人が住んでいて、どんな生活を送っているのだろうと考えていたら深夜3時になってしまった。離れ際にあの公園の街灯の軒下に放った蛙は時節に喰われて骨になった頃だろうか。徒歩数分の関係性だった朋友とは今や電車で数時間の関係性へと落ちが着いている。仕事に慣れてきて嬉しいと思う反面 " 懐かしさ " は一層色を強くしていく。それが良いことなのか悪いことなのか、私には分からないけれどそれ

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星を数うる如し / 創作

星を数うる如し / 創作

めきめきと育っていくタクシーのメーターをぼやけた視界の隅に捉える頃には、四つ足のタイヤは京都の地を踏み始めていた。物珍しさ故のものなのか、始めこそ嬉々として話しかけて来ていた乗務員もいよいよ苛苛して来たと見えて、ルームミラー越しに映る眼の中は完全に光を失っていた。やんわりと断りを入れる乗務員に無理を言って東京から京都まで流して貰っているのだから無理もない。旧知の間柄であってもここまでの長距離運転は

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