ただ、続くだけでいい。
母の日が間近だからといって、何か母に特別なことをするつもりはなかった。
母の日だということすら忘れているくらいだから。
休職中の僕に母が何か美味しものを食べに行きたいと言った。
僕も年を取ったせいか、母と二人で出かけることに若いころのような妙な気恥しさはなくなった。
父が亡くなり20年。僕には子供がいないけれど、幸い妹が二人の子供に恵まれ、母の生きがいは二人の孫の子守をし、成長を見ること。
僕が大好きな隣町の和食屋で、
母は穴子寿司ともり蕎麦を、
僕は鯛の握りとチャーシュー麺、
母はこんなに美味しい穴子の握りを食べたことがないと喜んでくれた。
母と二人で車に乗っていても特段会話をするわけではない。
ただ母の大好きなサザンオールスターズをドライブミュージックにしていることだけが僕なりの気遣いだ。
何となく僕が好きな景色を母に見せたくなった。
家路を遠回りし子供のころ夏休みに父と母に連れてきてもらっていた高原の避暑地のパノラマラインを車で走らせる。新しくできたこのパノラマラインを母は初めて通ったのだ。
『いいドライブ日和ね。美味しいごはんも食べたし、景色も最高だし。』
仕事にかまけて、母の存在をないがしろにしていたわけではないが、休職してから母と過ごす時間は今までの人生の中で一番多かったかもしれない。
気づいたことは、母の背中が曲がってきて、背が小さくなったこと・・・
時間というものを止めることができたら・・・
少し切なくそう思った。
人はなぜ生まれ、死んでいくのだろうか?
そんなことを考えていても答えなんかない。
ただ母の息子として生まれてきた。
ただそれだけ。それだけは誰にも変えることができない。
そのことだけがただ続くだけでいい。
今まで生きてきた道。母の息子として生きてきた道。
血は巡り巡って、
それは変わることなく。
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