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舌が思い出す味

 ある日、とある老舗レストランがもう直ぐ店を閉めると聞き、慌ててそこの名物料理を食べに出かけた。評判料理は素晴らしかった。コンソメスープは正しく黄金色で元の素材の全てを想像するのが無理なぐらい実に滋味深い味で、玉ねぎソースに漬け込んだステーキの上の刻んだ飴色の玉ねぎソテーは押し付けがましくない上品な味であった。

 開けて翌朝、驚いたことが起きた。目覚めて最初、布団の中で昨日食べた料理の味が思い浮かんだのだ。舌がその味を求めている。舌の記憶でジワーとつばがわいてくるのを止められなかった。自分にとってその味がそれほどのものだったのが驚きだった。自分は気の利いた食レポが出来る訳ではないが舌が記憶を呼び覚まそうとしているのだ。ちょっと得難い体験。

 しかし自分は神の舌を持つ男ではない。もし格付けに出る芸能人のように目隠しして似たような料理を出されたのなら、当てることが出来るだろうか?そこは自信ないが。



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