村上春樹の「カンガルー日和」を食べる
ー村上春樹の食べ物表現が好きですー
高校生の頃に読んだ「1Q84」は1ページ目で挫折し、今年の5月に読んだ短編集「パン屋再襲撃」はなんだかそのファンタジーさについていけずに終わった私。
しかしこの前読んだ「スプートニクの恋人」で村上春樹の小説が初めておもしろく読めて、もうちょっと読んでみようと思って選んだのがこちらの「カンガルー日和」だった。
なんだか終始メルヘンなのだが、慣れてしまえばおもしろく最後まで読めた。
そしてこれを読んでいて私は気づいた。
村上春樹の小説に出てくる食べ物、表現がおもしろい、、!!!
と。
そこで、今回は「カンガルー日和」に出てきた印象に残っている食べ物ワードをふり返ってみる。
・・・
①かきのグラタン
「眠い」という短編で、主人公が知人の結婚式でものすごい睡魔に襲われながら牡蠣グラタンを食べているシーン。
「僕はあきらめてかきのグラタンを食べはじめた。古代生物のような味のするかきだった。」
えっっ、どんなだよ!!
電車の中で読みながらにやにやしてしまった。
この本を読んでいて1番心に残ったフレーズ。
フィクションはこんな食レポをしても誰も傷つけないから暴れ放題だよね。って思った。
それにしても古代生物って、、。
高校生物で習ったデボン紀だのカンブリア紀だのの海の中にいるモゾモゾした生き物を想像してしまったんだけど、それでいいのかな?
固くて苦そうで、えぐ味とか渋味とかがひどそうなグラタン。
・・・
②コンビネーションサラダ
突然現れたこちらのメニュー。
「高校の廊下といえば、僕はコンビネーション・サラダを思い出す。」
どういう流れでこのフレーズが出てきたのかはネタバレになってしまうので伏せておくが、これもまた突拍子もない比喩だなと思った。
なんの脈絡もなくいきなり飛び出してくるコンビネーションサラダは、食べたこともないのになぜか魅力的なもののように思えた。
③チーズケーキ
「チーズ・ケーキのような形をした僕の貧乏」という短編。
正確にはチーズケーキ自体は出てこないのだが。
まだ若くてお金も持っていない夫婦が、チーズケーキのように細長い三角形の土地に建てられた激安アパートに引っ越してくる話。
「僕たちは若くて、結婚したばかりで、太陽の光はただだった。」
休みの日は近所のひなたに寝そべってのんびりするというこちらのシーンは、食べ物とはあんまり関係ないけどすてきだ。
若くて何も持っていなくても無敵な感じ、若さっていいねってなった。
④スパゲティー
「スパゲティーの年に」という短編に出てくる。
これも確かお金がない若者の話だった気がする。
「にんにくや玉ねぎやサラダ・オイルやなんやかやの匂いは細かい粒子となって空中に飛び散り、渾然一体となって六畳一間の部屋の隅々へと吸い込まれていった。それはなんだか古代ローマの下水道のような匂いだった。」
このスパゲティーがどんな匂いなのかも、古代ローマの下水道がどんな匂いなのかも、私には想像できない。
けど、もしそれらが一緒なんだとしたら、一体どんな匂いなんだろう。と考えてみた。
酸っぱくて、油っぽくて、でもローマの文明的な匂いがする下水道、、なのか、、?
なんかおいしくなさそうだなあ。
⑤ドーナツ
村上春樹の小説にはいろんなところでドーナツが出てくるらしい。
今回も遭遇した。
図書館の地下の迷宮で羊がドーナツを作ってくれるシーン。
「ドーナツはおいらが自分で揚げるんだ。カリッとしててとても美味いよ。」
カリッとしたドーナツ、、。
考えただけでよだれが出てきそう。
手作り感溢れるんだろうな。
ましてや羊が作ってるなんて。
人間が作るよりもおいしそうなのはなぜだろう。
・・・
以上が私の印象に残っている食べ物シーン。
一つ一つが爪痕を残しているからこそ、その場面でその食べ物が出てきたことに何か意味を感じてしまう。
こんなふうに食べ物のところばかりを目に焼き付けるような読み方は、村上春樹ファンからしたら浅いものかもしれないけれど、私はこれで村上春樹の楽しみ方を知ってしまったのだからもうよしとしよう。
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