ロンリープラネット、出版しました!
電子書籍だからこそできる表現があります。
アメリカ西海岸の町、サンフランシスコを舞台にした小説「ロンリー・プラネット」を刊行しました。ITバブルとウクライナ戦争の影響で地価と物価の高騰が止まらないサンフランシスコで、アートに魅せられ、アートに生きることを選んだ熱い男たちの物語です。「現代において、アーティストは社会の最下層」であるという厳しい現実にもがきながらも、アートを通じて多様な人種・国籍の異なる人々と繋がっていく喜びを描きました。
風景の美しさをありのままに表現したいと願う主人公「ゲン」と、政治的な主義主張(イズム)を象徴してこそアートだと信じる仲間たち。思想的な葛藤を繰り返しながら、アーティストたちは親密になっていきます。
アメリカで最も前衛的な町といわれるサンフランシスコは、世界の多様性の縮図でもあります。ITエリート向けに高級コンドミニアムが建設される一方で、昔からこの町に暮らしてきた人々は、60年代のヒッピー文化が栄えていた頃からの価値観を大切にしています。そんな古株の住人たちはGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)が席巻する世の中を嘆き、IT長者たちを「グーグル・キッズ」と侮蔑を込めて呼んでいます。新旧ふたつの文化が対立するこの町で、アーティストはどこに属すのか? どう生きていったらいいのか? 主人公たちの生き様はアイデンティティを模索する旅でもあります。
この物語を書き進めていた最中から、私はこの小説は電子書籍向きの本だなと思っていました。私が考える電子書籍向きの本とは、政治性が濃かったり、著者の世界観や方向性がはっきりと色付けされているものです。「ロンリー・プラネット」はまさにそうした物語でした。作中には、「白人に生まれなくても、お金さえあれば、人種差別は乗り越えられるのか?」や「みんな政治に期待できないから、アートに刺激を求めるんだ。アートは政治に乗っ取られたんだ!」や「英語は戦い続けるために生まれた言葉だ」など、少々過激な表現をたくさん書きました。著者である私自身の価値観や人生観を登場人物たちに託したストーリーを、伝わる人だけにしっかり届けたいと思います。書店の棚に並べるために、万人向けに主張や内容を薄めることはしたくなかった。つまり、本を読んでもらう前から読者を選ぶ。そんなわがままで贅沢なことが、電子書籍なら叶うと思ったのです。
そんな私の願いを叶えてくれたのは、兵庫県にあるひとり出版社「白兎舎(はくとしゃ)」でした。編集長から、私のストーリーはアーティストの心情をリアルに描いていると、お墨付きを頂きました。
私のことをすでに知ってくれている人、これから知ってもらえる人。私と似たようなイズムの人からじわじわと広がり、友達の友達がそのまた友達を連れてくるようにして、共感の輪がじんわりと拡大していったら嬉しい。1ページずつ読んでもらうごとに、狭くて濃密で温かい心の交流を読者のみなさまと交わしたいと思っています。初めてなのになぜか親しみを感じる、似た者同士の読者たちが同じページをめくってくれる。そんな奇跡が起きることを信じています。
本は紙で読みたいという方には、ペーパーバッグ版もご用意しています。Amazonサイトに表示される「ペーパーバッグ1620円」というボタンをクリックすると、以下のような紙の本になってご自宅に届きます。