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信頼はお金になるのか?メディアのモラルとマネタイズを考える

こんにちは。川口(@kawaguchiai)です。

前回のnoteでは、メディアの指標とスポンサードコンテンツの役割について書きました。

今回はウェブメディアの収益化に紐づく問題点や、それにまつわる各ステークホルダーの取り組み等について、改めてまとめてみます。

ウェブメディアの運営にはもちろん収入源が必要で、そのほとんどが広告収入から成り立っているというのは、多くの人が周知の通り。

一方で、こうした「ビジネスモデル側の話」は、メディア全体の信頼性やモラルに関わる大きなテーマでもあります。

(このnoteは個人の見解です)

ウェブメディアの大きな収入源

今の日本のウェブメディアは、多くが無料媒体です。

インターネットを(通信料はかかるにせよ)誰にでも開かれた利便性の高いインフラと考えると、無料でコンテンツにアクセスできることは、情報の公共性を後押ししているともいえます。

その仕組みを支えるウェブ広告にはさまざまな形式があります。例えば、ユーザーが検索したり記事をクリックしたときに出てくるようなタイプは、PVやインプレッションなどの(閲覧や掲出の回数をあらわす)数字指標と連動しています。

つまり超ざっくり簡単にいうと「見られる数が多いほど収入が増える」仕組みになる。

なので、広く一般的に受け入れられるテーマの記事や多くの人が興味のある情報を届け、閲覧数を増やし、それを収益につなげる良心的な構造が成立します。

ただ、このモデルの抜け穴は「広告による金儲け」が目的の粗製乱造された記事に対しても有効になってしまうという点。

だから「見られる数」を増やすためだけの「釣りタイトル」の記事や、不確実かつ粗悪な情報のトレンドブログ、扇状的なフェイク記事などが大量生産されてしまうのです。

さらに昨今ではSNS上での誹謗中傷を発端としたあらゆる問題が起きていますが、こうしたインターネット広告のビジネスモデルも、それらを増幅させてしまうひとつの装置になり得るのではないか。そう考える人も少なくはありません。

2016年に大きな話題となった「WELQ問題」以降も、こうしたテーマはずっと疑問視され続けています。

ネットの分極化に影響も?

あるいはインターネット上の分極化を考える際に、ウェブ広告のビジネルモデルに言及される場合も。

田中辰夫氏・浜屋敏氏の『ネットは社会を分断しない』によると、インターネットは社会を分断するのではなく、むしろ多様な意見を知る場として前向きな民主主義の醸成に寄与するというのですが(詳しくは本書をご覧ください。ウェブ関連の仕事をしている方は必読の書だと思います)、一方、分断の火種になりそうな攻撃的な書き込みは少なからず存在します。

それらは拡散されやすく、さらには「まとめサイト」がビューカウント欲しさに過激な文章を集めた記事を不必要に量産する。

こうしたまとめサイト等の存在(と、それを成立させてしまう現状の一部ウェブ広告の仕組み)により、本来は局地的なネットの炎上が普遍化して見えてしまうのでは……と、両氏は予測しています。

仕組みが悪いのではない

ただ強調したいのは、冒頭にも述べたように、こうしたウェブ広告のビジネスモデルが悪いのではなく、インターネットの良心から成立するこの仕組みを「悪用する側」が悪いだけ。

それらを淘汰するために、何ができるか考えている人は大勢いますし、実際にさまざまなステークホルダーたちが対策に乗り出しています。

アドフラウド問題などもあるなかで、企業側のブランドセーフティーを担保するという意味でも、アドベリフィケーションなどのツールやPMP(プライベートマーケットプレイス)などの広告取引市場が注目されたり。

(ウェブ広告の仕組みやワードって、英語やカタカナ多くて本当にややこしいですよね…このあたりの「詳細」は専門家の論に詳しいので割愛しますが、ウェブメディアに関わる人間の基礎知識としてferretさんの記事や、こうした書籍なども勉強になります)

また、Googleは「WELQ問題」以降もアルゴリズムの改変を行ってきましたが、最近発表された医療情報発信の健全化に関するニュースは画期的でした。

文脈は少々変わりますが、政府が本格的にターゲティング広告の規制に乗り出すと報じられたり、有力メディアが主体となり広告プラットフォーム事業を展開する「コンテンツメディアコンソーシアム」が誕生するなど、たくさんの動きが見られます。

さらに、Yahoo!Japanが「コンプレックス部分を露骨に表現した」広告の出稿禁止を改めて通達するニュースも舞い込みました。

効果をどう図るかも大きな問題

一方、媒体やプラットフォームなど、発信する立場としてできることとして、自分たちから「新しい指標」を提案していく必要もあります。

instagram は昨夏から「いいね!」数が非表示になりましたし、そうした数字を概算で表すプラットフォームも増えています。

また、良心的なウェブの書き手には、表面上の数字だけでなく、自身の記事がちゃんと読まれたかを知るための指標をどう読むか、試行錯誤を始めた人も多くいます。

たとえば「記事タイトルのCTRがよくても読了率が低ければ意味がない」とか、「読者がその記事を気に入ったかについて知る方法はないか」といった議論は、以前よりずっと多く聞こえるようになりました。

もはや数字による過当競争はマイナスばかりを生み出すというのは、どのステークホルダーにとっても明瞭です。

またメディアビジネスの側面から見ても、数字だけじゃない指標で広告効果が測れるようになれば、もっと幅広いメニューやプランの提案ができるかもしれません。

そして、いたちごっこな仕組みと理解しつつも、ある程度は「見られる数が多いほど収入が増える仕組みを悪用する側」への牽制にもつながる。

既存指標を効果的にするアトリビューション分析などの存在も心強いですが、媒体側からするとまだちょっと距離感が…。メディアとしてはやはり、コンテンツパワーが最大化されるような指標を提示することで、マネタイズの可能性を広げていくことにチャレンジしたいですよね。

そんな思いもありながら開発に挑んだのが、先日noteで紹介した「コメントの感情分析」のプロジェクトです。その後も最適解を見つけるべく検証を繰り返しながらアップデートしていってます。

「コメントの感情分析」とは、簡単にいうと「記事につくコメントを、ネガポジ×感情の大きさでビジュアライズする」というものなのですが、今後はここに業種や施策目的別の基準を追加したり、はたまた別指標の読了率などをかけ合わせるなどして、新しくておもしろい指標開発にトライしてみたいと、試行錯誤、作戦会議をしているところです。

(興味やアイディアある方、ぜひご連絡ください〜!)

信頼性は「金」になるのか?

信頼性は「金」になるのか?──こういうと、いやらしく聞こえるかもしれません。でも本来は、信頼性がお金につながってしかるべきの世界。いまはむしろ「信頼」を測る指標が曖昧で、マネタイズへのつながりが可視化できません。

質が高くて信頼性のあるコンテンツをつくり、その力で読者の態度変容を促し、それを評価する指標を軸にしたマネタイズ手法を考える。さらにはそこで得たデータを利活用することで心地いい体験や消費・経済活動につなげる…そうしたインターネット上のエコシステムをつくりあげることはできないか?

口にするほど簡単なことでないのは百も承知ですが、いろんな人たちが同じような課題感を持ち、それらを解決するために努力をしています。今のような先の見えない状況のなかでは、なおさらです。

今すぐ明瞭な答えは出せずとも、メディア事業の健全化を目指すべく、こうしたことを日々考え続けて、少しずつ結果を積み上げていきたいと思います。

そしてそして、こうした同じ思いを持つ人たちが集まるオンラインイベントを、先日のnoteでも紹介した「メディアビジネスの会」というコミュニティで実施します。

ウェブメディアのビジネス部門に携わる方々をお招きして、セールス&クリエイティブ視点から語り合います。

もはやこの状況下では、「競合」とか言ってる場合じゃない。知見、共有しましょう。


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