見出し画像

メディアには新しい指標が必要だ。「コメントの感情分析」をはじめる理由

こんにちは、川口です。(@kawaguchiai

NewsPicks のBrand Designチームでスポンサードコンテンツを制作している編集者です。

今回NewsPicks Brand Designとして、スポンサードコンテンツの反響や効果を示す「レポート」に、「コメントの感情分析」という新しい指標を追加しました。その経緯や、スポンサードコンテンツにまつわる個人的な考えなどを記します。

リリース読んだよ!という方は、後半部分の「そして「信じられる、広告を」だけでもぜひご一読くださいね。(このnoteは個人の見解です)

そもそも「スポンサードコンテンツ」とは

スポンサードコンテンツとは、記事体の広告、タイアップ…いろんな言い方がありますが、ざっくりいうと企業がメディアにお金を払い制作されるコンテンツ型の広告のことです。

商品やサービス訴求、企業のコーポレートブランディング等々、広告主の伝えたいことを、メディア独自の第三者視点を介して(ここ大事)発信します。

いわゆるインターネット広告の一部にあたるわけですが、シェアはそれほど大きくありません。最近、インターネット広告費がテレビ広告費を抜いたと話題となりましたが、それらはいわゆる「バナー」を始めとしたディスプレイ広告とか、webで検索したページに掲出されるような検索連動型広告とか、運用型広告とか…アフィリエイトとか…とかとか……の収益を指します。(例外はあるとして)超絶ざっくりいうと、コンテンツじゃない形式によるものがほとんどです。

スポンサードコンテンツの制作は、本当に本当に大変です。(この話は、また!)

「コンテンツづくり」ですから、クリエイターたちが一生懸命つくりこみます。工数がかかります。あらゆる「人の手」が介在します。そういった点が、シェアがそれほど大きくない理由にもつながります。

でも、上記の形式のインターネット広告と比較して、誤解を恐れずに言えば「ウザがられない」。

それは、役割が違うからです。スポンサードコンテンツはバナー広告等と違い、直接的な購買を促すのではなく、読者の「認知と理解」を醸成することが目的の大半を占めています。だから、より読者(ユーザー)とのエンゲージメントの高さが重視される。

そして、こうしたスポンサードコンテンツの存在は、いまはどこもメディア運営していくための大きな収入源であり、マネタイズの重要な役割も担っています。(この話も超大事なんですが長くなるので、また!!)

「1PVの価値」は、どう測る?

スポンサードコンテンツも「広告」というからには、それがどれくらいの効果だったかを示す必要があり、ほとんどがPV、UU、imp数、読了率、滞在時間、エンゲージメント率、CTR、シェア数……などなどの「数字」で測られます。

これらの数字指標は、どの媒体でもだいたい同じものが使われています。業界の平均的な「指標」ということです。

スポンサードコンテンツを制作する人間として、ずっと考えていたことがあります。

PVやUU、どこの媒体も横並びにして測れる共通の指標だけじゃなく、「媒体独自」の指標も必要だと。つくっているコンテンツは媒体の特徴があってさまざまなんだから、それを測定する指標もオリジナリティがあっていい。

さらにいうと「次なる新しい指標をつくったメディアが勝つ」くらいに思っていました。

「1PVの価値」は、単純に「1」ではありません。ただクリックして開いた1PVと、じっくり読んでくれた「1PV」。どちらも「1PV」ですが、その価値は全然違います。

でも数値上はどちらも「1PV」になる。そうした「曖昧な規定の定量」で効果が測られたり比較されたりするのは、なんだかもったいない。

「曖昧な規定の定量」を裏付けられる読了率や滞在時間という指標もあるけれど、読者の共感や理解、エンゲージメントを大事にするスポンサードコンテンツだからこそ必要とされるような指標があったらいいなと、考えてました。

NewsPicksを読む理由の第1位は?

個人的な話になりますが、私は約1年前にNewsPicksに転職してきました。
その大きな理由のひとつが「ここなら新しい指標を生み出せるかもしれない」と思ったからです。そのきっかけになりそうなもの、独自性のある指標のタネとなりそうなもの。それが「Pick」と、それに伴う「コメント」でした。

NewsPicksの最大の特徴ともいえるのが、専門家や知識人による質の高いコメントです。
実際、ユーザーがNewsPicksを読む理由の第1位は「コメントでいろんな人の意見を知ることができるから」。

スクリーンショット 2020-05-15 11.20.23

(画像は媒体資料より)

再度になりますが、コンテンツ型の広告をやるメリットって、PVやUUなどの数字だけでは表しきれないと思うのです。効率よくお客さんの数を獲得したいなら、他の手法を使うほうがいい。

わざわざコンテンツ化するというのは、読者(ユーザー)にしっかり伝え、共感し理解してもらいたいから。いまは直接的な行動を促さなくとも、まずは理解してくれたら、いずれ購買や行動につながる(=間接コンバージョン的な意味がある)だろうから。

そんな理由に対して、PVだけで効果を定義するのではなく、発言者がわかる「コメント」を指標として提示するのはおかしくはないはず。上記の「1PVの価値」論でいうところの「1PV」がコメントとして可視化されたら、その「価値」はより上がるだろう……

ということで、このNPの宝ともいえる「コメント」を独自指標として形にしようと、レポート改善タスクチームが立ち上がりました。

何百回の仮説検証を繰り返し

最初はトライアンドエラーの繰り返しでした。そもそも何をどう使って、どんなものを出すのか。何百回も仮説検証を繰り返して、たどり着いたのが、このようなものです。(こちらのレポートは一般記事ではなくスポンサードコンテンツのみに適用され、広告主向けに提供するものです)

伝え方に差異のないようリリースより一部抜粋します。

1:記事についたコメントをGoogle Cloud の Cloud Natural Language APIに掛けたうえで、各コメントの「感情」をひとつずつポジティブ・ネガティブ(縦軸)およびマグニチュード(感情の強さ/横軸)の指数でスコアリング(1つ1つのコメントが「円」で表示され、配置される)
2:そこに、コメントを発したユーザーの「拡散力(フォロワー数)」を掛け合わせる。(円の「大きさ(拡散力)」が決まる)
3:導き出された指数をマッピング、記事についたコメント全体の傾向が可視化される
4:さらに、
・コメント数の多少(円の数)
・コメントしたユーザーのフォロワー数=インフルエンス力(円の大きさ)
・コメントのポジネガ(上下の分布)、およびマグニチュード(感情の強さ/横軸)
の要素を基に、コメントの全体傾向を合計「6パターン」に型化し、定義することに。

画像2

↑ポジ・ネガ/マグニチュードのスコアリング×拡散力

画像3

↑6つの「型」のタイプ

画像4

↑レポートとしての見え方

これまでは記事にならぶコメントをざーっとスクロールして見るのみでしたが、これらを「マッピング」して傾向をつかめるようになります。

単純かもしれませんが、ビジュアル的にもインパクトがあり、注目度の高いコメントがどれくらいの感情だったかパッと見で認識できるのは、トライアル実施したクライアントからも「わかりやすい」「新鮮」というフィードバックがありました。

「6つの型」なんかは、企画の時点から「この案件では議論型を狙いたいですね〜」という会話を生み出したり、制作時のコミュニケーションとしても使えるようになるはず。「分析して終わり」ではなく、「いかに次の施策につなげるか」という意図も多分に含まれています。

NewsPicksのテックチームはマジですごい

このようなアウトプットになるまで半年以上の時間をかけて、ああでもないこうでもないと議論を繰り返してきたのですが、何がすごいって、NewsPicksのテックチームですよ。マジで神レベルにすごい人たちばかり。

私(編集)やセールス担当者などは「ああできないか、こうできないか」と頭で考えて口を出すだけ。きっとテックからしたら「こいつら何言ってんだ…」と思うであろう発言なんかも、私たちが「何がしたいか」を理解したうえで、テックとしての最適解を提示してくれる。

例えば「6つの型」を定義するにも、何百本という過去のコンテンツを分析しなければならないわけです。

絶対に必要かつ面倒な作業を、限られた時間で対応する。しかもビジネス視点を持ちながら──個人的にも、NewsPicksを支える「テックの強さ」を再確認する出来事となりました。

そして「信じられる、広告を」

新型コロナウイルス感染拡大により、世界中の経済が大打撃を受けています。

これからあらゆる企業で宣伝費・広告費の削減が予想されます。するとインターネット広告の世界では特に、効率よくお客さんを獲得し購買につなげようと、過度なアオリや演出がなされるような広告が増えてくる恐れがあります。それは本当に危惧すべきこと。

世界中が不安に陥っている状況だからこそ、消費者とのコミュニケーションにも誠実さが求められます。これまで以上に、ブランドやサービスの価値、メッセージをしっかりと伝えて共感してもらうことが大切になるし、そんな考えが支持される世界になっていかなきゃいけない。それを実現する手段としても、スポンサードコンテンツの役割はとても有用だと考えます。

NewsPicks Brand Designのミッションは「信じられる、広告を」です。
私はこれを「誠実さ」とも理解します。テキストであれ動画であれイベントであれ、ひとつひとつ誠実に向き合い、クライアントの思いを汲み取ったうえで「読者にいかに届けるか」を考え、手を変え品を変えつくり、届ける。当たり前のことですが、このバランスが非常に大切で、難しい。だからこそ読者に共感し理解してもらえるコンテンツが生まれるのですが。

そして作ったからには、「出して終わり」ではなく、「こんな効果があった」というフィードバックも重要で、その「伝え方」にも編集者としてのテクニックが介在すると思います。

(※スポンサードコンテンツを制作したりメディアビジネスに関わる編集者のキャリア話などご興味ある方、メディアビジネス系の知人らとFacebookグループやっているので覗いてみてください。不定期でメディアビジネスに関するオンラインイベントなど実施してます!)


とはいえ「感情分析、そんな目新しくなくね?」「精度どうなん?」「代理店や調査会社だってやってるじゃん?」という人もいるかもしれません。
たしかにおっしゃること、わかります。でも、メディアながら「自分たちだけが持っているデータを、なんとかして利活用してみる」ことにチャレンジしてみた意義は大きいと思います。

今はまだ駆け出しの状態ですが、これからもっともっと改善と進歩を繰り返し、NewsPicks Brand Design だけじゃなくメディアビジネス業界全体に利益をもたらすような、公共性のある発展を目指したい。そんな思いです。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?