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ライバルを凌駕する独自性について

戦略論の続きです。

ホファー&シェンデルによれば、戦略の構成要素は4つあるとされています。
1.ドメイン
2.資源展開
3.競争優位性
4.シナジー

今回は戦略の構成要素の3つ目である競争優位性について記載します。

総論とドメインについては以前の記事(下記URL)に記載してあるので、そちらを参照して下さい。

競争優位とは

企業が競争に勝ち抜き、利益を確保し成長して行くためには、競争優位性を築くことが大事です。
競争優位とは、ドメイン決定と資源展開パターンを通してライバルに対して築くビジネス上の独自性のことです。独自性を築くには、自社の核となる強みである、コアコンピタンスが重要な要素となります。

コアコンピタンスとは

コアコンピタンスとは、経営資源を組み合わせて企業の独自性を生み出す組織能力のことであり、持続的な競争優位を築く源泉となるものです。このコアコンピタンスは長期間にわたる企業の継続的な研究開発や改善活動などを経て構築されるものであり以下3つの要件があります。

①アクセスの多様性があること

アクセスの多様性を富士フィルムを例に挙げて説明します。
富士フィルム代表取締役副社長兼CTO戸田雄三氏は「高機能材料と、それを目的に応じて3次元構造化できる技術」がコアコンピタンスであると言っています。

この技術は、カラーフィルム分野で圧倒的な地位を確立しました。しかしデジカメの出現によりその優位性を失い市場から淘汰されました
これは消費者のニーズの変化や技術革新による代替製品の登場があるため時代の移り変わりにより仕方のないことです。
しかし、重要なのは、商品であるカラーフィルムではなく、それを支える技術力です。富士フィルムは、「高機能材料と、それを目的に応じて3次元構造化できる技術」をヘルスケア市場に転用し今では大きな成功を収めています。最近では新型コロナウイルス感染症の治療薬である「アビガン」が誌面を賑わせています。
また化粧品分野で女性から大きな支持を得ている「アスタリフト」も富士フィルムの商品です。この商品にも写真の技術が活用されています。
「コラーゲン」は女性に人気のあるキーワードです。肌に良く、骨などを構成するタンパク質のひとつです。実はこのコラーゲンは、写真フィルムの主成分でもあるのです。写真に使用されるコラーゲンは、食用のものよりも純度が高く、経年劣化にも耐えられる特徴があります。
写真の劣化は活性酸素が原因と言われています。活性酸素を除去する技術を創業以来、磨いてきたのが富士フィルムです。
このような技術力は、化粧品分野ととても相性が良かったのです。そして自社の独自の技術力を異分野に活用する。これがアクセスの多様性です。
また、どの事業領域に参入するのかと言った、事業ドメインの設定とも大きく関連してきます。自社のコアコンピタンスを把握することにより、新たな事業ドメインの設定にも繋がります。

②特定の顧客の成功に貢献すること

2つ目は、顧客にとっての価値があるか否かがポイントです。いくら良いと言われる商品・サービスであったとしても、それが特定の顧客の成功に貢献するのかは別の話です。
顧客は、「その商品を購入して何を得たいのか」が重要となります。
顧客は商品を買うのではなく、その商品の購入や経験を通してどのような自分になりたいのか。何を達成したいのかを考えています。
つまり顧客のなし得たいことを実現させるために、自社の商品・サービスが有効であるか、またライバルと比較して秀でているかを問うことが重要です。

コンビニのコーヒーが売れるのはなぜでしょうか。味が美味しいからでしょうか。美味しいコーヒーは他に数多くあります。味も美味しくて、雰囲気も良く、さらにゆったりできるのはスターバックスではないでしょうか。
コンビニのコーヒーは誰が多く購入するのでしょうか。それは、多くがビジネスマン、ビジネスウーマンです。さらに時間帯は朝です。朝、急いでいる通勤時にサッと購入できて、味も良い。この手軽さがサラリーマンにウケるのです。
明らかにスターバックスやその他の店舗が提供する価値とは違うのです。この特定の顧客の成功に貢献することがコアコンピタンスにも必要です。

ライバルと比較する時の切り口は、品質、提供スピード、価格、宣伝方法などがあります。ここでも重要なのがドメインです。特定の顧客の成功に貢献すると言うことは、誰に何をどのように提供するのか?このドメイン設定との関連が非常に大きいと言えます。

③ライバルが模倣することが困難であること

3つ目は、模倣困難性です。ライバルが真似できれなければ競争優位の維持につながります。
模倣困難ではない状態とは、単なる汎用設備の導入や他社で成功したマネごとです。最近ではタピオカブームがありましたが、これは容易に真似できるビジネスであるため競争優位の持続性は低いと言えます。

模倣困難性を築くポイントは5つあると言われています。

①時間・歴史・経路依存性

手に入れるために長い年月がかかるものを言います。例えば、老舗企業のブランドもそうでしょう。赤福の強みを他者が容易に真似できるでしょうか。長い年月をかけて築いてきたブランドが競争優位の源泉として大きな要因になっていると言えます。トヨタ自動車の改善活動も、何十年かけて培ってきたノウハウであり経路依存性が高いと言えます。

②因果関係不明性

どの経営資源の影響なのか組織内の人間であっても誰もわからないものを言います。原因と結果が明確であれば、そのロジックを理解できれば真似できてしまいます。多くの企業で、自社の商品・サービスを公開しているケースがあります。しかし、実際にそれを見たからといって真似はできません。それをわかっていて公開している企業がほとんどだと思います。

③社会的複雑性

影響している要素が複雑すぎて真似できないものを言います。例えば組織文化です。コミュニケーションが活発である組織や、経営トップのパーパスや経営理念が浸透していることもその要因と言えます。このようなソフトな要素は真似することが困難と言えます。

④特許

法律によって守られていて真似できないものを言います。知的財産権経営は近年、中小企業においても注目されております。
しかし、実務上では、知的財産権を取得したからと言って本当に模倣困難かと言うとそうでもない現状があります。例えば、特許であれば、自社の技術を公開することになるのです。よって、他者が真似しやすくなるとも言えます。そして実際に真似された時に資本力の乏しい企業が訴訟を継続することができるでしょうか。この点は実務上では留意が必要になると思います。
自社の技術を公開するのか、秘密にするのかは、戦略とも大きく関わります。
オープン戦略で市場シェアを握ったマイクロソフトか、クローズド戦略でコアなファンを獲得したアップルか。どちらが勝ちと言う議論ではありませんが、企業の戦略によって、オープンにするかクローズドにするかは変わります。

⑤組織

資源や能力を十分に引き出して活用するように企業は組織されているかが重要です。チャンドラーは「組織は戦略に従う」と言いました。戦略達成には組織のあり方が重要と言えます。

また、上記の内容をフレームワークではVRIO分析と言います。

Value:資産の価値
Rarity:希少性
Inimitability:資源の模倣困難性
Organizations:組織

VRIO分析については、インターネット上に多く記事がUPされていますので気になる方はそちらを参照して頂ければと思います。

経営戦略の構成要素である競争優位をテーマに、コアコンピタンスについて記してみました。次回は経営戦略の構成要素の最後である「シナジー」ついて記載します。


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