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狭霧 織花
2024年7月14日 12:17
いつか海に、一緒に。 それは小さな提案。二人の間に交わされた約束は、小指を絡めただけの、確固たる形はないものだった。 けれど、二人にとっては心の奥底で光り続ける宝物のように残っていて、時折二人きりになると、ラベンダー色の瞳は期待に満ちて彼を見つめていた。「ねぇ、海に行くのよね」 彼女が聞きたがっている返事はこうだ。「ああ。いつか、一緒に」 すると人魚の彼女は嬉しそうにふふふと笑って、
2024年7月4日 12:24
ガラス越しの風景はとても退屈で、暗いばかりだった。ときおり、ゆらりと小さな光が横切っていくのを見るが、チョウチンアンコウの頭の先から揺れるものだと知っている。あれは獲物を誘うためのもので、誘われた魚がアンコウにぱくりと丸飲みにされる瞬間を見たときはたいそう興奮したものだ。 けれど、そんな興奮するような出来事がいつも起こるわけではないから、たいがいは真っ暗な闇と、ガラスの向こうに揺れる影と闇の波