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狭霧 織花
2024年7月15日 13:23
岬の灯台には、灯台守がいる。 海を臨む崖の近く、いつ造られたのか、白い石造りの灯台が海を見守るように建っていた。 夜になると灯台に灯りがともる。ぼんやりと、けれど明るく白い光は海と共にまちをも見守ってくれているようだった。 昼間も夜も変わらずたたずむ姿は頼もしいものだけれど、どこかもの寂しげな様子に満ちていた。 灯台の光は、時折色を変えた。勘の良いものは、それが潮目の変わり目と、季節の変
2024年7月14日 12:17
いつか海に、一緒に。 それは小さな提案。二人の間に交わされた約束は、小指を絡めただけの、確固たる形はないものだった。 けれど、二人にとっては心の奥底で光り続ける宝物のように残っていて、時折二人きりになると、ラベンダー色の瞳は期待に満ちて彼を見つめていた。「ねぇ、海に行くのよね」 彼女が聞きたがっている返事はこうだ。「ああ。いつか、一緒に」 すると人魚の彼女は嬉しそうにふふふと笑って、
2024年7月9日 12:08
「海の中では、まばたきはできるの?」 こうやって、とまぶたを上下させながらまばたきの仕草をする。大仰な仕草と長いまつげのおかげで音がなりそうなほどだなと思う。 にこにこ笑ってラベンダー色の瞳を持つ人魚が答えを待っているが、残念ながら貴女はできるが自分は無理だと告げると、無邪気な瞳は悲しげに曇った。 どうして、とプールの縁に上半身を寄せて不満げな様子に苦笑するしかなく、人間だからだよと説明する