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「作家のポートフォリオ」となるストア

最初の記事で

「このストアは作家のオフィシャルオンラインストアです。
となると掲載する作品群がポートフォリオ的な役割も果たすことになる」

と書きました。

この「オフィシャルオンラインストア」と「ポートフォリオ」が私達のストアの設計の核となっている2つのポイントです。
今回の記事はどちらかというと作家の皆さんに向けた内容です。

オフィシャルオンラインストア

CAT'S FOREHEADは、作家のオフィシャルオンラインストアの集合体です

ギャラリーでは「その会期に作家やギャラリーが提示したいテーマ」の作品を展示&販売しているでしょうし、作品やグッズを販売する店では店主(ブランド)が販売したい作品を「選んで」販売しているのが一般的な形態ではないでしょうか。

一方で私達のストアでは、販売する作品のセレクトに関して作家が主導権と決定権を握っています
これは作家個人がオンラインストアを開設するなら当然のことでしょう。
私達はそこからさらに「販売を通じてファン(もっと広い対象としての「オーディエンス」)と繋がるためのストア」として、私達が作家と相談しながら作品を選びたいと考えています。

とはいえアートワークストアの開設を作家に打診してからオープンするまで2ヶ月ほどしか時間がなかったため、現状では作家の手元にある作品の中から「売っても良い」と思える作品しか集められていません。
これからはどんどん新作を追加して、オーディエンスと繋がりを深めてもらいたいですね。

ポートフォリオとして

個展で売れなかった/買えなかった作品を販売することにも大切な意義があるのですが、掲載されている作品群が作家のポートフォリオとして機能していることも大切な役割だと考えています。

つまり販売をするストアも、作家が「私はこういう作品を作る者だ」という意思表明をする場であることに意味があると思うのです。
そこでまずは、作家が自身の創作の源となっていることを語る「ポートレートムービー」や、個展のテーマを開設する動画を掲載しています。

また、イラストレーターが陶芸や立体のオブジェなどメディアを超えて作品を制作している場合もあれば、個展ごとにテーマを設定して特徴的な制作に挑む作家もいます。

イラストレーターの多田玲子さんが個展で販売している“ダ瓶”シリーズ(筆者私物)

そこで作家の作品を全て掲載するページとは別に、「作品テーマ」というカテゴリを設定しました。
例えばICHASUの個展『めのめのめ』のページがこちら。

ICHASUの各個展のテーマに関しては開設トーク動画も収録しているので、また別の機会にご紹介したいと思います。

ポートフォリオはオーディエンスが「作家が今なにができるのか」を判断するための解説書でありながら、「作家が将来どうなるのか」を予感させるための材料でもあるはずです。

だからイラストレーターもカメラマンも、あらゆるクリエイターがポートフォリオを制作しているのですが、なぜ私達は「販売を通じてオーディエンスと繋がるため」のポートフォリオが大切だと考えるのでしょうか?

ファンとの繋がりが重要な時代

それは単純に「ファンが多い方が作家として生き残れる」可能性が高いからです。もっと具体的に表現するならば「作品制作が経済活動になる可能性が高い」ということでしょうか。

これはコミッションワーク(企業などの依頼者からのオーダーメイドによる作品の委託生産。本稿では商業活動における行動を指します)よりも作品販売が中心の作家なら当然のことですよね。
グラフィックアーティストだけではなく、ミュージシャンも小説家も陶芸家もみんな自分(の作品)を応援して購入してくれるファンがいなければ、創作活動だけで収入が得られません。

一方でコミッションワークの現場でも、依頼者が作家のファンの多さをキャスティングの判断基準にする風潮が強くなっています。
これは10年以上前からTwitterのフォロワー数をコンペの募集基準にするなど物議を醸してきた話題ですが、現在では単純なフォロワー数よりも、個展での売上やイベントでの集客など、よりエンゲージメントの高さを重視する傾向があるように感じます。
例えばイラストレーター起用のコンペの際に「絵の良さは理解できていないがターゲットへのリーチが強くなりそうだから」という理由で選ばれる、つまり「数字を持っている」作家が競争に勝つということですね。

こうした事例は創作と真摯に向き合っている作家ほど受け入れがたいことではありますが、商業活動の現場では依頼者の商品をより多くのユーザーに認知してもらうために予算を投じてクリエイターを起用してキャンペーンを展開するので、まぁ当然と言えば当然の行動ではあります。

映画やドラマのキャスティングでも時折(あからさまに)実力よりも知名度の高さで選ばれているのではないか?と話題になることがありますが、後世に残る名作になったかどうかよりも、投資家にとっては数字(動員や視聴率)が取れてナンボなわけです。

と書きつつも我々は作家が人気ではなく、作風や技術の高さで選ばれる世界を望んでいますけれども。せめてクリエイティブのプロが協業しながらプロジェクトを創りあげる現場においては。

クリエイターの中でもイラストレーターの世界では10数年前まではコミッションワークの作家とファンに直接作品を販売する作家とがきっちりと棲み分けていたように感じていましたが、個展の開催場所がギャラリーからカフェなどに広がり、BASEやSUZURIなどのECプラットフォームの普及により、作家が格段に簡単に作品やグッズの販売ができることができるようになったことで、プロ(依頼者)よりもファン(一般消費者)からの評価が得やすく、またその影響力が可視化されやすくなったのではないでしょうか。

だからこそクリエイターもできるだけ多くのオーディエンスと繋がりながら、創作やコミュニケーションを通じてオーディエンスの中からファンを増やしていくことが大切なんだろうと思います。
とはいえ誰でもクリエイターになれる時代ですから、コンペで常勝できるほど圧倒的なファンをこれから獲得するのは至難の業です。
それでも少数のファンさえいれば、次の創作へのエネルギーになるのではないでしょうか?
作品が誰からも評価されなくて良いなら、個展を開催したりSNSに投稿したりする必要なんてないですからね。

ただし念のために付け加えておくと、BUILDING(弊社の祖業であるグラフィックアーティストのコーディネートエージェンシー)もCAT'S FOREHEADもファンの多さではなく作品と作家の人柄で選択しています
これは特にBUILDINGがB to Bのプラットフォームであり、作家の技術(センス)と仕事に取り組む姿勢の高さからうまれる「納品力」が我々の競争力になっているからです。集客と宣伝は作家の代わりにBUILDINGが行いますし、コミッションワークで依頼者の信用を得られれば自然と発注が継続することになりますので。

作品はファンのそばで宣伝し続けてくれる

個展の開催やSNSへの投稿など、ファンの獲得にも様々な手段がありますよね。その中でも物理的な作品やグッズを販売することは、デジタルデータにはない特性を持つ有効な手段だと思います。

なぜなら作品やグッズは、一度は自分に興味を持ってくれた方=想定ターゲットに限りなく近いユーザーの近くで、作品(=作家)のアピールをし続けてくれるのですから。しかも無料で。

HAMADARAKAさんの作品(筆者私物)

作品を壁に飾ってくれていたらその前を通る、キーホルダーなら鍵を使う、Tシャツなら着るたびに作品が目に入ります。

わかるさんの指人形(筆者私物)
umaoさん(手前)とICHASUさん(奥)のキーホルダー(筆者私物)

大企業が自社の商品広告をターゲットが観てくれるようにと、広告制作とメディア露出に莫大な手間と費用を投下していることを考えると、こんなにコスパの良い宣伝方法は他にありません。
あらゆる家電製品やブランドが、機能的な必要もないのにしっかりとロゴを製品に取り付けているのはそのためです。

雑誌がメディアとして影響力を持っていた10数年前までは、雑誌の仕事をして誌面にクレジットが掲載されることがクリエイターの大きな(おそらく最大の)宣伝効果を生んでいたので、誰もがもまずは雑誌の仕事をすることを目指していました。
メディアの種類も量も膨大に増えてしまった現在では、作品やグッズが全く異なった角度からその役割の一翼を担っているような気がします。

つい先日のことです。
BUILDINGのイラストレーターが動画CMの打合せでプロデューサーやディレクターとオンラインミーティングをする際に、ディレクターの背後の棚に様々なキャラクターのソフビが並んでいたのですが、その中にご依頼をいただいたイラストレーターのソフビもしっかりと並んでいました。
そのソフビは商品として魅力があっただけではなく、優秀な営業マンでもあったわけです。
色んな意味で時代の変化を垣間見たような気がしました。

まとめ

  • CAT'S FOREHEADはセレクトショップではなく、作家のオフィシャルオンラインストアです。

  • 作品やグッズの販売を通じて、エンドユーザーと繋がりを維持することが大切ではないでしょうか。

  • オンラインストアでありながら、作家のポートフォリオとしても機能することを意識しています。

※冒頭の画像も筆者私物です(販売はしていません)


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