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映画『来る』ホラーよりもホラーなこと。

 2018年に公開された『来る』(くる) という映画。監督は中島哲也。出演は岡田准一、松たか子、妻夫木聡、黒木華、小松菜奈。この映画、所謂ホラー映画なのですが、ホラー描写よりももっとホラーな点がありました。

 それは、似非〝イクメン”というホラーです。

 この映画、最初は妻夫木聡が演じる〝イクメン”田原秀樹の視点から描かれ、次に黒木華演じる秀樹の妻、香奈の視点から〝イクメン”がどのように映っていたかが描かれます。

 育児ブログを発信し会社や近所に〝イクメン”と思われている秀樹。ですが、妻香奈から見ると、育児のためであるブログが、ブログのためー人から〝イクメン”と称賛されたいがためーの育児で、香奈の助けなるどころか、苦しめる結果となっています。

 ただ、秀樹に悪気があるかというと、そんなことは微塵もなく、命がけで家族を守ろうとする心も持っています。

 では、何がいけなかったのか。どうすれば、よかったのか。

 それは、映画の中で小松菜奈演じるキャバ嬢の霊媒師が得体のしれない化け物に対処する方法として秀樹に言ったアドバイスに表されています。

 「奥さんと子供に優しくしてあげてしてください」

 ここでいう「優しく」というのは、周りから見て「優しく」見えることが目的の「優しさ」ではなく、相手のことを慮った、相手の欲しいものを与えようとする「優しさ」です。 

 水が飲みたい人に、ステーキをあげても、それがどんなに高級なステーキだったとしてもその人の渇きを癒すことはできません。

 「優しさ」も相手に必要な「優しさ」でなければ、本当の「優しさ」ではないでしょう。相手に必要なものを知るには、相手の話を丁寧に聴く、つまりコミュニケーションをとることが重要です。

 それは、男女間というだけでなく、様々な立場の違いを解決する方法にもなることでしょう。

 もしかしたら「人に優しくする」といのは、最強の武器なのかもしれませんね。

 ところで、この映画『ぼぎわんが、来る』という第22回日本ホラー小説大賞を受賞した澤村伊智の小説が原作なのですが、原作も女性からみた描写が秀逸でした。名前からも女性作家かと思っていたら、1979年生まれの男性でした。女性の私が呼んで、納得できる女性像を描ける男性作家の登場にー私が読んできた男性作家の小説の登場人物は男性には感情移入できても、女性には感情移入できなかったのでー時代が変わったなという嬉しい感慨を持ちました。


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