カムル

元・理学療法士のカムルです。退職後も人の運動変化に興味を持っています。世間では脳をコン…

カムル

元・理学療法士のカムルです。退職後も人の運動変化に興味を持っています。世間では脳をコンピュータにたとえて、「脳が運動を変化させる」と説明されますが、多くの疑問があります。何とか腑に落ちる説明をしたい(^^;)

最近の記事

自律的問題解決とは?(その5)

 今回は「外骨格系問題解決」を歴史的な視点で見てみよう、なんて少し大げさだが、これは振り返る価値があると思う。  それは僕が新人の頃(38年くらい前(^^;))、全国の脳性麻痺学会に出席すると、「筋の硬さが問題である。この筋の硬さが正常な運動の出現を邪魔しているのだ。過緊張こそが脳性運動障害の主症状なのだ」などと多くの人が発言していた。僕もその頃は素直なもので、「ああ、筋の硬さという症状が出現するために正常な運動が出ないのだ」などと素直に信じたものだ。  ジャクソンの神経学(

    • 自律的問題解決とは?(その4)

       今回は「外骨格系問題解決」の続きである。  前回までで、外骨格系問題解決は弛緩状態の体に支持と運動の機能をもたらすために使われると述べた。更にそのメカニズムについて説明した。  今回はその弛緩部分を硬くするという問題解決が、新たな問題を生み出すという「偽解決」について説明したい。  前回述べたように脳性運動障害の主症状は弛緩性の麻痺ではないか。弛緩性の麻痺では手脚は水の入った袋のような状態である。これでは動けない。  そこで運動システムが自律的に身体内に体を硬くする身体リソ

      • 自律的問題解決とは?(その3)

         前回は、運動システムの自律的問題解決の基本的なやり方である「探索利用スキル」を紹介した。  運動システムが何か必要な課題を達成しなくてはいけないとき、あるいは課題達成に問題が発生したときは、いつもこのやり方が現れる。つまり「身体の内外に利用可能な運動リソースを探し、課題達成のためにそれらの運動リソースの利用方法である運動スキルを生み出して課題を達成する」というわけだ。  運動システムはこのようにして課題達成したり問題解決したりするが、この結果生まれた問題解決は主に5種類に分

        • 自律的問題解決とは?(その2)

           人の運動システムには、機械と違って「自律的問題解決」という作動上の特徴があると前回述べた。  機械では部品が壊れてしまうと、止まるか誤作動を起こして本来の機能を果たさなくなる。しかし人の運動システムでは麻痺などの問題が起きても、問題解決を図ってなんとか機能を維持しようとする。  前回紹介したように腓骨神経麻痺があって下垂足が起こっても膝を高く挙げることで安全に歩行しようとする。(鶏歩)片麻痺後に麻痺で患側下肢が振り出せなくなっても健側の下肢や体幹を使って患側下肢を振り出

        自律的問題解決とは?(その5)

          自律的問題解決とは?(その1)

           腓骨神経麻痺になると鶏歩という歩行が現れる。下垂足になるので、歩行時につま先が床に引っかかって転倒しないように膝を高く挙げる。これが鶏(にわとり)の歩き方に似ているのでこう名付けられている。  運動学の本などを見ると、これは「異常歩行」(歩容が異常である)とされている。  しかし単に「歩容が異常である」と評価されるのを見るとガッカリする。下垂足によってつま先が床に引っかからないように人の運動システムはなんとか「転げないように問題解決を図っている」のに、ただ単に「異常だ」

          自律的問題解決とは?(その1)

          人の運動システムの作動の特徴(その7)「課題特定性」

           CAMRでは、セラピストの設定する課題は以下の3つに分類されます。   ①要素課題   ②動作課題   ③行為課題  要素課題は、従来学校で教わったような筋肉を太らせたり、関節の柔軟性を改善したり、あるいは徒手的療法で痛みや脳卒中後の過緊張を改善したりするような身体リソースを改善する課題です。  あるいは歩行安定のために杖やピックアップ、歩行器、手すり等の環境リソースの提案を考慮することなどです。  身体リソースや環境リソースなどの運動リソースの改善や提案についての課題にな

          人の運動システムの作動の特徴(その7)「課題特定性」

          問題解決能力をアップしよう!

           私たちが学校で習う問題解決方法は、「悪いところを見つけてそれを原因とし、治して元に戻す」というものです。  たとえば歩行不安定があると悪いところを探して下肢筋力低下が見つかります。それで下肢筋力を改善して、元の安定した歩行に戻そうとするわけですね。  多くの整形疾患や廃用症候群、徒手的療法などでも非常に有効な問題解決方法なのです。  しかし、脳性運動障害の麻痺のように治せなかったり、悪いところがいくつもあって焦点がぼやけたりするとアプローチに困ってしまうこともあります

          問題解決能力をアップしよう!

          人の運動システムの作動の特徴(その6)「課題特定性」

           今回から人の運動システムの作動の特徴として「課題特定性」を説明します。  これはたとえばCarr & Shephardが示したように、背臥位で筋力強化すると背臥位では確かに筋力が増強するのですが、座位で調べるとそんなに筋力強化の効果が見られないという現象が有名です。  どういうことか考えてみましょう。ここでもまず機械と比べてみます。腕を挙げるロボットの腕を挙げるためのモーターが壊れてしまいました。修理はその壊れたモーターを交換することになります。交換はロボットが横になってい

          人の運動システムの作動の特徴(その6)「課題特定性」

          人の運動システムの作動の特徴(その5)「状況性」

           前回はCAMRで「運動障害を持つ」とは、まず身体リソースが麻痺や怪我で貧弱になることです。その結果運動認知は不適切になり、環境リソースも使えなくなり、それまで使っていた運動スキルが失われて必要な生活課題達成力が失われてしまうことです。  だからまずは「改善可能な身体リソースはできるだけ改善する必要がある」ということでした。  学校で習うように「低下した、悪化した要素を見つけて改善し、元に戻す」やり方は機械では合理的です。機械を構成する部品は全て人が作ったものだからこれも

          人の運動システムの作動の特徴(その5)「状況性」

          人の運動システムの作動の特徴(その4)「状況性」

           前回までで、人の運動システムが、状況変化に応じて適切な運動変化を起こし、たとえば歩行という機能を維持し続ける頑丈さを示すのは、「状況性」という特徴を持っているからと説明しました。  その「状況性」という特徴を生み出すのは、無限に運動変化を生み出す仕組みを持っているからです。それが豊富な運動リソースと適切な運動認知によってその時、その場で柔軟で適切で多彩な運動スキルを生み出す能力であると説明しました。  では今回は、この「状況性」の視点から運動障害を考えてみましょう。

          人の運動システムの作動の特徴(その4)「状況性」

          人の運動システムの作動の特徴(その3)「状況性」

           前回は「状況性」という人の運動システムの作動の特徴を説明しました。たとえば健常者では様々に状況変化が起きても「歩行」の形を柔軟に適応的に変化させて、歩行という機能を維持する頑丈さがあることがわかりました。  この「状況性」という作動の特徴を支えている仕組みは何でしょうか?  それは簡単に言えば、「無限に運動を変化させる能力」ということでしょう。簡単に無限に運動を変化させることができるので様々な状況に柔軟に適切な運動方法を生み出せる訳です。  通常学校で習う人の運動シス

          人の運動システムの作動の特徴(その3)「状況性」

          CAMRベーシック講習会《脳卒中入門コース》開催のお知らせ

           CAMR(カムル)は、システム論を基にした日本生まれのリハビリテーション・アプローチです。運動システムの「作動の特徴」を理解してアプローチを組み立てます。  リハビリの学校では人の運動システムを、「人体の構造と機能から理解」して問題解決を図ります。それに加えて、CAMRの考え方を身につけると問題解決能力が飛躍的にアップします。  今回は1日4時間の講義開催です。前回も「1回の受講で脳卒中の理解や評価、リハビリが劇的に変化する」とご好評をいただきました。 ※CAMRはCont

          CAMRベーシック講習会《脳卒中入門コース》開催のお知らせ

          人の運動システムの作動の特徴(その2)「状況性」

           今回から人の運動システムの作動の特徴について考えてみます。  これはどうやったら理解できるかというと、普段から自分や周りの人達の運動変化を見ていくことで理解できます。たとえば自分の歩行とその変化を観察してみます。  歳をとってから気がついたのですが、僕は朝起きてトイレに行こうと歩き始めると、足底が床の上を擦るように引きずって歩きます。夜寝ている間に体が硬くなっているのが原因だろうと思います。体幹の重心移動が小さくなり、足の振り出しが小さくなっているのです。しばらく歩いた

          人の運動システムの作動の特徴(その2)「状況性」

          人の運動システムの作動の特徴(その1)

           学校では人の運動システムは皮膚に囲まれた身体そのものであると習います。そして解剖学や生理学、運動学などを通して「体がなぜ動くのか?どう動いていくか?」ということを習います。つまり設計図を基にロボットが動くように、人体の設計図を通してどのように動くかを習うわけです。  ベテランの機械の設計家は、設計図を見ただけでその機械がどのように作動するかがわかるそうです。でもベテランの医師やリハビリテーションのセラピストにとって、人の体が状況変化に応じてどのような運動を生み出すかはまだ

          人の運動システムの作動の特徴(その1)

          「正しさ幻想」はどうして生まれるのか?(その4:最終回)

           前回までで、「正しさ幻想」は脳の機能に関する思い込み「脳はコンピュータである」と学校で習う要素還元論の視点から生まれる「悪いところを探して治し、元に戻す(健康な頃の正しい運動状態に戻す)」という治療方針の双方の影響を受けているのではないか、というアイデアについて説明した。  そしてリハビリの現場ではこの「正しさ幻想」が様々な場面で問題を起こすこともある。  一番の問題は、「障害を改善するためには、運動のやり方や形の違いを指導して修正することだ」という思い込みだ。  たとえば

          「正しさ幻想」はどうして生まれるのか?(その4:最終回)

          「正しさ幻想」はどうして生まれるのか?(その3)

           前回、「正しさ幻想」を生み出す一つの要因として「脳の機能に関する思い込み」を挙げた。「他人が他動的に動かした手脚の運動感覚を脳が学習する」と思い込んでいるわけだ。  これはまさしく人の脳をコンピュータとして理解しているからだろう。コンピュータは人がプログラムを入れない限り自律的には何の働きもしない。だから人がプログラムを入力しないといけない。  このコンピュータの様な機械に対する思い込みが、人にもそのまま反映されているのだろうと思う。  実際には西欧文明の根底にはデカルト以

          「正しさ幻想」はどうして生まれるのか?(その3)