見出し画像

人の運動システムの作動の特徴(その1)

 学校では人の運動システムは皮膚に囲まれた身体そのものであると習います。そして解剖学や生理学、運動学などを通して「体がなぜ動くのか?どう動いていくか?」ということを習います。つまり設計図を基にロボットが動くように、人体の設計図を通してどのように動くかを習うわけです。

 ベテランの機械の設計家は、設計図を見ただけでその機械がどのように作動するかがわかるそうです。でもベテランの医師やリハビリテーションのセラピストにとって、人の体が状況変化に応じてどのような運動を生み出すかはまだ十分に予測することはできません。

 まあ当たり前ですよね。人の体は人が設計して作ったものではなく、様々の要素が多様な環境・状況内で長い年月をかけて進化・変化を繰り返して生まれたものだからです。

 実際に解剖学で習う筋肉にしても、何人かの解剖学者が語るように筋肉は起始・停止の位置から恣意的に分類されたものであることが知られています。実際には1枚の筋肉の膜が、骨・関節の周りに筒の様についていて、お互いに密着しているため解剖学や運動学で予測されるほど明確に各筋の収縮と運動の関係は説明できないわけです。

 たとえばケシュナーは頸部を伸展させる筋肉は23対あって、見かけ上同じ頸部の伸展が人によってどの筋肉を使うかは異なっているし、同じ人でも状況によっても異なる筋肉が使われることを実験で示しています。

 またこのことから、機械に比べて人の身体は複雑で余剰なシステムであることがわかります。伸展になぜ23対もの筋肉があるのか。
 反対に機械は必要最低限の機能と部品で作られています。一つの動作は一つの方法で達成されるのが基本です。だから予測も簡単なわけです。

 でも人では一つの動作を様々な方法で達成できるだけの余剰な仕組みを持っています。一つの動作を色々なやり方で実現できる。このために同一課題でも状況変化に応じて適切な方法を選択することができるのです。

 また神経系は、機械で見られる電線のようにある場所とある場所を単純に結んでいるわけではありません。一つの神経細胞はたくさんのシナプスから刺激を受けますし、またたくさんの神経細胞に刺激を伝える構造です。一つの刺激が単純に姿を変えないまま伝わっているとは考えにくいのです。

 これらによって、人体の設計図を基に人の運動変化を予測することは困難になるのです。

 とは言っても、今わかっている人体の設計図の理解は多くの分野ではかなり役に立っているのです。整形での手術は有効ですし、リハビリでも筋力訓練や動作練習を有効に進めるために役立っています。特に整形疾患などでは中枢神経系の問題が伴わないため、現在の人体の設計図でもかなり有効な訓練が行えていると思います。

 しかし脳性運動障害の領域となると、特に中枢神経系の設計図とそこからわかる機能を基にリハビリを行うのはかなり難しいです。中枢神経系に関する現在の理解は十分とは言えません。

 そこで別の視点を持ち込んで見ましょう。たとえば「運動システムの作動の特徴」です。運動システムはどのようなルールに従って作動しているかを理解するのです。これを現在学校で習う「構造と機能の理解」と併用することでこれまでとは異なったリハビリのアプローチをすることが可能となります。

 次回からは、「運動システムの作動の特徴」とは何かを具体的に考えてみましょう。(その2に続く)

※毎週火曜日にはCAMRのフェースブックページに別のエッセイを投稿しています。
 最新作は「運動リソースを増やして、運動スキルを多彩に生み出す
(その1)-生活課題達成力の改善について」
 以下のURLから
 https://www.facebook.com/Contextualapproach


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?