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人の運動システムの作動の特徴(その3)「状況性」

 前回は「状況性」という人の運動システムの作動の特徴を説明しました。たとえば健常者では様々に状況変化が起きても「歩行」の形を柔軟に適応的に変化させて、歩行という機能を維持する頑丈さがあることがわかりました。

 この「状況性」という作動の特徴を支えている仕組みは何でしょうか?

 それは簡単に言えば、「無限に運動を変化させる能力」ということでしょう。簡単に無限に運動を変化させることができるので様々な状況に柔軟に適切な運動方法を生み出せる訳です。

 通常学校で習う人の運動システムは、構造と各器官・組織の機能から説明します。たとえば「筋は力を生み出し、骨・関節は力に方向を与える・・・・」などという説明ではこの「無限に運動を変化させる能力」を説明するのは難しいです。やたら細かくなってしまうので。

 それでシステム論を基にしたCAMRでは、運動リソース(運動の資源)、運動認知(運動リソースの意味や価値に関する情報)、運動スキル(課題達成のための運動リソースの利用方法)いう三つのアイデアを使います。

 「運動リソース」は運動の資源で、身体リソース(筋力、柔軟性、持久力、痛みなどを含む感覚など)と環境リソース(重力、明るさ、温度などの環境の持つ性質や大地、構造物、家具・道具などの「もの」や他人・動物など)に分類されます。

 学校で習う人の運動システムは、皮膚に囲まれた身体そのものですが、システム論の視点では、人の運動システムは体と環境内のリソースから構成されると考えられます。歩くにしても、平らな床面か砂利道か坂道で歩き方が変わるのは、それぞれの大地の性状が運動を生むことに影響しているからです。それで運動を生み出すことに影響する様々の要素も運動システムに含まれると考えます。

 つまり学校で習う運動システムは見た目の構造、皮膚に囲まれている体として定義されますが、システム論で定義される運動システムは、システムの作動に関係している要素は全部含まれてしまいます。従って運動システムは、その時その場の作動によって定義されますので、一瞬一瞬に大きさや範囲を変えてしまうわけです。

 もし筋力・柔軟性・持久力などの身体リソースが豊富であれば、身体は無限の変化の運動を生み出しますし、様々な環境リソースを豊富に利用することもできます。幅6メートルの谷を渡る必要があれば、長いロープの先に石を結びつけて投げて、反対の木の枝に絡ませて綱を張って渡るかも知れません。斧があれば大木を切って谷に倒し、丸木橋を作ることもできます。あるいは小型のトランポリン台をおいてそこでジャンプして渡るかも知れません。

 豊富な身体リソースと豊富な環境リソースが出会えば、そこに様々な課題達成の可能性が生まれてくるわけです。あるいは重度の身体障害があっても、身体リソースが少なくても体幹を固定して顎でコントロールする装置をつけた電動車椅子という高機能な環境リソースで移動ができるわけです。

 そして身体リソースと環境リソースが出会うとそこに「課題達成のために利用できる、利用できない」という意味や価値を認知するようになります。これが「運動認知」です。運動認知は身体リソースと環境リソースが出会ったときに予期的に運動結果やその方法を知ることができます。

 あなたが幅1メートル幅の溝の前に立って、これから渡る必要があります。簡単に渡ることができると思えば躊躇なく跨いだり、飛び越えたりします。もし背中に重い荷物を背負っていたら少し助走をつけると渡れると思うかもしれないし、荷物だけ先に溝の向こうに投げてしまうかも知れません。

 こんなふうに運動認知は次に何が起こるかを予測的に知ることで、課題達成の方法を生み出す先導をしてくれます。

 その結果実際に生み出された身体リソースと環境リソースの利用方法が「運動スキル」となるわけです。運動認知が適切であれば、適切な運動スキルを生み出すことが可能になります。

 運動リソースや運動認知、運動スキルについてはもっと詳しい説明が沢山あるのですが実際にしてしまうととてつもなく長くなるのでここではこれだけにしておきます。

 ともかく人の運動システムが状況に応じて無限で適切な運動変化を生み出すのは、豊富な運動リソースと適切な運動認知を持ち、柔軟で多彩な運動スキルをその時その場で生み出すという仕組みの能力を持っているためであると理解することができます。(その4に続く)

※毎週火曜日にはCAMRのフェースブックページに別のエッセイを投稿しています。

 最新作は「運動リソースを増やして、運動スキルを多彩に生み出す

(その3)-生活課題達成力の改善について」

 以下のURLから

 https://www.facebook.com/Contextualapproach

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